表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジゼルの婚約  作者: Chanma
野営訓練
91/129

64.湯気

「ジルベール様、薬湯(くすりゆ)の準備ができましたよ!こちらにどうぞ!ゆっくりで大丈夫ですよ……そう。歩けますか?」


 私は、アイゼン家に連れて来られた。

 ここは───客室みたいだ。


 広い部屋、天蓋の付いた大きくてふかふかのベッド、続き部屋にバスルームがあり、女医だと名乗る優しそうな人が、お風呂に入るように促してくる。


「バスローブを取りますね。ちょっと傷を見ますよー。」


 何となく…オリビア先生に似てるな。

 どこか、ほっとする人だ。


「そうですね、明日位まで、薬湯(くすりゆ)に入れば、すぐに治ると思いますよ………ジルベール様、背中の……この古傷は、いつの物ですか?」


 バスルームには、ピカピカの白いバスタブに、薄黄色のお湯が、薬草みたいな匂いの湯気を立てている。


「……ごめんなさい。今は、答えられませんよね。後で、傷痕が薄くなる塗り薬も持ってきます。背中に塗っておきましょうね。さぁ!ゆっくり入って下さい。最初は少し、傷に()みるかもしれませんが、大丈夫ですからね。」


 お湯に入ると、初めは全身がピリピリしたけど、すぐに気持ちの良い温度に包まれた。顔の周りも、温かい湯気に包まれていく───


「ジルベール様、傷は痛みませんか?」


 ジルベール……私の事だ。

 この名前にも、違和感は無くなっていたはずなのに。

 なんで……他人の様な気がするんだろう。


「少し、上を向けますか?髪の毛も、洗いましょうね。」


─懲罰房に送られたく無かったら、じっとしていろ─

─念の為に足枷を付けただけだ。そのまま歩き回られて、窓から落下でもされたら、かなわないからな─


 少佐は…どうして、あんな酷い事……


 でも……


 指示に背いた事、後悔はしてない。


「あら…あらあら…ジルベール様…傷が痛みますか?涙が……痛かったら、我慢しないで仰って下さいね?少し熱すぎましたか?お水を足しましょうね。」


 私が…こんな身体じゃなかったら。


 傷だらけじゃなかったら。


 あんな扱いは、受けなかったのかな。


 他の…令嬢みたいに……


「ジルベール様の髪の毛、とてもお綺麗ですね。」


 でも…だったら、傷のせいじゃないな。


 綺麗な貴族の令嬢が、野盗狩りなんかするもんか。


「ノア様の紺色の髪と、良くお似合いだと思いますよ。お二人で並ばれた所をぜひ見たいです!」


 もう、いいや……懲罰房に入れられるよりマシだ。


 慣れてるだろ。蔑まれる事なんか。


 致命症を負わされた訳じゃ無い。


「ジルベール様は、水色の瞳もとても素敵ですね。ノア様ったら…家の料理長にも、ジルベール様が可愛いと何度も仰ったみたいで。話が長すぎて、料理が焦げたって、料理長が言うんですよ!ほら、ジルベール様が、先日上官の方と夕食にいらっしゃったでしょう?その日のメニューを伝えに来た時らしいのですけど!ジョセフ様が伝えていたのに、結局ご自分でも、伝えに来られて───」


 考えても分からない事を悩むより、


 私は……やらなきゃいけない事があるだろ。


「ジルベール様、」


 アイゼン家は、メイジーとオーウェンの、仲人を申し出てくれたんだ。


 仲人がアイゼン家なのは…メリットが大きい。


 絶対白紙には、したくない。


 今度は……


 今度こそは、絶対失敗しない。


「どうか……ノア様を、お嫌いにならないであげて下さい。こんな事になって…許される事では無いとは、思うのですが……」


 あとは………


 あぁ、そうだ…リー中尉、


 私が指示に背いたせいで、上官のリー中尉も叱責される可能性が高い。


 なんとか…しないと……


「私や、料理長や……アイゼン家で働く者は皆、そう願っているのです。」


 私は、薬湯(くすりゆ)の中で膝を抱えて、湯気に顔を埋めた。


 視界が、白く、もやがかかったみたいに


 どんどん見えなく…なっていく。


「ノア様も、ジルベール様と同じ、軍人で……6歳の頃から、ずっと軍にいらっしゃるのです。きっと、ジルベール様に対して、理解ある夫になられるはずですから……」


 どうして止まらないのか分からない涙が、


 湯船の中に落ちていった。


「ノア様と……一緒に居てあげて下さい……」


 落ちていった涙の先も、


 すぐに、湯気で見えなくなった。


「……さぁ、ジルベール様、そろそろ上がりましょうね。」


 気がつくと、薬湯(くすりゆ)から出されて、髪や身体をタオルで拭かれている。そして、塗り薬を塗られていた。


「大丈夫ですよ、綺麗に治りますから。」


 そう言いながら、女医が私を見て優しく微笑んでいる。


「お薬、塗り終わりましたよ。お洋服を着ましょうか。」


 身体が温まったからか、なんだかすごく、眠たくなってきた……まだ、お昼頃なのにな……眠い……


「あぁ!ジルベール様!やっぱり紺色のお洋服が、凄くお似合いですよ!ジルベール様の髪色にも、瞳の色にも、ぴったりですね。」


「ジルベール様、温かい紅茶です。よく眠れるお薬が入ってますから、ゆっくり飲んで下さいね。飲めそうですか?」


「横になって下さいね。寒くはないですか?何かありましたら、遠慮なく仰って下さいね。」


「安心してお休み下さい。」



       ────パタン────


 アイゼン家の女医が、ジルベールの眠る客室の扉をそっと閉めると、部屋の前に、ルーカスが不安気な表情で立っていた。


「彼女の容態は?」


「今、お薬を飲まれて、良くお眠りになっています。身体の傷も、明日まで薬湯(くすりゆ)に入って、きちんと塗り薬を塗れば、大丈夫でしょう。ただ───」

「何かあったのか?」


「よほど……精神的にショックだったのでしょう。私が話しかけても、お返事は無く……心此処に在らず、といった状態で───」


「そうか……詳しい診察結果について、向こうの部屋で、聞かせて欲しい。」

「承知しました。あの、そう言えば、旦那様の具合は、診なくてよろしいのですか?」

「あぁ、父上か。良いよ、放っておいて。勝手に倒れたんだから……そのうち起きるでしょ。それより、ノアが来る前に、彼女の容態を聞きたいからね。」

「では、その様に……」

「あっ!彼女、洋服似合ってた?ソフィアが選んでおいてくれていた物なんだけど……」

「紺色のお洋服ですね!とても良くお似合いでしたよ!落ち着いた雰囲気で……ノア様が見たら、きっとお喜びになると思いますー!」

「本当⁈僕も見たかったな〜!」

「旦那様とルーカス様とも、一緒のお色ですね。ふふ。」

「……それは、ノアの前で絶っ………対!!言っちゃ駄目だよっ!!」


 2人はそっと、ジルベールの眠る客室を後にした。

お読み頂き、ありがとうございます。

不慣れな点が多く、時折改稿をしながらの投稿をさせて頂いています。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


続きが気になる!と思って頂けましたら、

「★★★★★」をつけて応援して頂けると、励みになります!

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ