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ジゼルの婚約  作者: Chanma
野営訓練
87/128

60.フレデリック

 俺はその日、運命の出逢いを果たした。


 俺は彼女と、愛し、愛される為、生まれて来たに違いない。

 生まれてから今までは、今日この日、彼女に出逢うまでの序章に過ぎなかったのだ!


 燦々と輝く銀色の髪。

 鈴を転がす様な可愛らしい声。


 小柄で……何と愛らしいのだろう。

 

 彼女は、一体誰なんだ⁈



『やぁ、初めまして!銀色のお嬢さん。気持ちの良い朝ですね。』

『……初めまして、良い朝ね。』


 彼女は、俺をチラッと見ながらそう答えた。丁寧な返しだが、どこか素っ気無い。そして、ふぃっと、顔を逸らしてしまった。


『み、見ない顔だよね⁈君、いつもはここに居ないの⁈』

 多少図々しいかと思ったが、俺は彼女の視線の先に回り込んで、尋ねた。

『ちょっと、何なの貴方……そうだよ。私はここで暮らしてはいないの。いつもは家に帰ってる。』

 彼女は、ちょっと面倒くさそうに答えた。


 渋々答える表情も、可愛らしい……!


『そうなんだ!今日はどうしてここにいるの?』

『家族を待ってるの。迎えに来てくれるから。』

『君も、何か軍務をしたって事⁈仕事帰りなの⁈』

『…………』

『ねぇ!君は普段、どんな軍務を──』


『あーっ!もうっ!うるさいなぁっ!』

 矢継ぎ早に尋ねてしまったからか、彼女は怒り出してしまった。銀色の髪の毛を逆立てて、こちらを睨み上げている。

『ご、ごめん!ごめんね?怒らないで!君の事をいろいろ知りたくて、つい……君は、怒った表情も、すごく魅力的だね。』

『はぁ⁈さっきから何なの貴方…気持ち悪いなぁっ!もう、あっちに行って!』


 小柄な彼女は、可愛らしくぷりぷり怒っている。あっちに行けなんて…初めて言われたな。


『ごめん、怒らせるつもりは無かったんだ。あっちに行けなんて、言わないで……』

『キャー!何で顔を舐めるのよっ!止めてっ!』

『君が可愛くて…そんなに怒る事じゃないでしょう?』

『貴方ねぇっ!何でそんなに一方的なのよーっ!』


 彼女の怒りが頂点に達した時、彼女の家族が迎えに来た。笑顔で彼女に近寄ると、微笑みながら、彼女の頭を撫でた。


 まずい…まだ名前も、聞いてないのに……!



『待って!お願い!名前を教えて!』

 俺は、彼女に縋り付いた。


『何で教えなきゃいけないんだよっ!あっちに行ってっ!』

 彼女は俺を振り解こうとした。


 どうして怒らせてしまったのだろう…

 今まで自分から、異性に話しかけた事も、話したいと思った事も無かったからか…接し方が、良く分からない…



『お願い、お願いだよ!名前だけでいいから…』

『話しかけないでっ!』

『そんな……』


 俺は打ちひしがれた。

 このまま…名前も知らずに別れてしまえば、今後再び会えるかどうか…

 俺はその場に泣き崩れた。



『………ベーコンチャンよ。』

『え⁈』



『私は、ベーコンチャン・ガルシア。』



 彼女は、朝露に輝く牧草の上で、銀色の髪をなびかせながら振り返り、俺を見つめながらそう答えてくれた。


 ベーコンチャン……名前の意味は分からないが、個性的で、彼女に良く似合っている!


 俺は、この世界が輝いて見えた。



『僕、僕はっ…!フレデリック!フレデリック・アイゼンだよ!』

『ふん……』



「あれ?フレデリック、どうした?いつもは殆ど鳴くこともないのに。ロバを見るの、初めてだった?この子はね、ジルベール軍曹の愛ロバ、ベーコンちゃんだよー。ベーコンちゃんは、とても賢くてね!」

 まだ朝露の残る時間、軍の厩舎で、調教師の男は、ベーコンちゃんの頭を撫でた。


「一晩、大変お世話になりました。」

「いえいえ、エイダン殿。私も久しぶりにベーコンちゃんに会えて、嬉しかったですよー!」

 ベーコンちゃんを軍の厩舎に迎えに来たエイダンは、調教師の男に柔らかく微笑んだ。


「ヒヒン!」

「今、ジルベール様は馬車で出勤されていますからね。なかなかベーコンちゃんとこちらに来る機会も少なくなりまして…」

「ヒヒーンッ!」

「こらフレデリック!本当にどうしたんだ⁈お前……」


「いやぁ、立派な軍馬ですねぇ!」

 さっきから、自分とベーコンちゃんの間に割り入ろうとする、黒く輝く様な軍馬を、エイダンは感心する様に見上げた。

「すみません、エイダン殿。この子はフレデリックで、厩舎(ここ)で暮らす軍馬です。この子も、軍馬の中では桁違いに賢くて、普段はこんなに騒ぐ所か、ほとんど鳴く事も無いのですが…どうしたのですかねぇ…こら!フレデリック!自分の部屋に戻りなさいっ!」

「ヒヒンッ!」

「プルルッ!」

「ヒン………」


「あはは、ベーコンちゃんと、お友達になったのですかね!」

「そうかも知れませんね、エイダン殿。」

「では、そろそろ帰りますね。ありがとうございました、行こうベーコンちゃん!」

「また来て下さいねー!」

「ヒヒーン!ヒヒーン!」


 調教師の男は、礼儀正しい執事の若者と、可愛らしいロバを、笑顔で見送った。

『ベーコンチャン!ベーコンチャーン!また、会えるよね⁈返事をして⁈』

『知らないよっ。』

『そんな……』


「フレデリック、君は本当にどうしてしまったんだ?ロバがそんなに珍しいかな?」

『お前、馬鹿かっ!ロバ位知ってる!彼女だから騒いでいるんだっ!彼女は、次いつ来るんだ⁈』

「フレデリック…お腹空いてるのかい?ほら、君の好きな人参!」

『チッ……』

 調教師の男が呑気に差し出した人参を咥えると、フレデリックは一度後ろに下がり、助走を付けて駆け出した。


「なっ……おいおい!フレデリック!やめろっ!」

 そして大きくジャンプし、厩舎に張られた木製の柵を見事に飛び越えると、そのまま駆け出してしまった。


「あーっ!おい待てフレデリック!お前に何かあったら、持ち主のアイゼン少佐に怒鳴られるっ!おーいっ!フレデリックーッ!」

 調教師の男も、慌てて厩舎を飛び出し、フレデリックを追いかけた。



「ヒヒーンッ!」

 ベーコンちゃんと厩舎を後にして直ぐ、背後から馬のいななきが聞こえ、エイダンは振り返った。


「あれ、君はさっきの……」

 見ると、先程フレデリックと呼ばれていた軍馬が、こちらに颯爽と駆けてくる。

「プル…プルプル!プルルル!」

 ベーコンちゃんが、駆けて来た軍馬を見留め、何やら怒った様に鳴き出した。

 軍馬は、目の前まで来ると大人しくなり、ベーコンちゃんに擦り寄った。


「君、さっきの…いやあ、君は本当に、大きくて、立派な馬だねぇ〜。ベーコンちゃん、ほら!お馬さんだよ!すごいねー!おっきいねー!」

「……プルルルルッ!」

「ヒヒン!」

 軍馬は、咥えていた人参を、ベーコンちゃんに差し出した。


「あれ?もしかして…その人参、ベーコンちゃんにくれるの⁈良かったねー!ベーコンちゃん!お馬さんのお友達が、人参くれるって!君、その為にわざわざ来てくれたの?優しいんだね〜!」

「プイッ」

「ヒヒン……」

 しかし、ベーコンちゃんは、プイッと顔を背けてしまった。


「あー……ごめんねぇ。ベーコンちゃん、どちらかと言うと肉食なんだよねぇ。雑食だから、お野菜も食べれるはずなんだけどね。飼い主に似ちゃったのかなー。あはは!」

「プルル!プルル!」

「ヒン……」

「こら、ベーコンちゃん、そんなにそっけなくして…お友達が、可哀想でしょう?ごめんね、君、大きいからさ!ベーコンちゃん、ちょっと怖がっちゃってるみたい!優しくしてくれたのにねー。ごめんねー、また今度ベーコンちゃんと、遊んであげてね!」

「プン」

「ヒヒン…ヒヒン…」

 軍馬はその風格に似合わず、何やら悲壮な声でベーコンちゃんに鳴き出してしまい、エイダンは戸惑った。

「あらら。どうしたのかな?ベーコンちゃん、せっかく出来たお友達でしょう?そんな態度は駄目ですよ?」

「プルルルルルルーッ!」

 ベーコンちゃんは、フレデリックの人参を地面に叩きつけた。


「おーい!エイダン殿ーっ!」

 騒ぎ散らす馬とロバに囲まれて、エイダンが途方に暮れた時、調教師の男が息を切らしながら走って来た。


「良かったー!追い付いて……すみません、フレデリックの奴、ベーコンちゃんを追いかけて、厩舎を抜け出してしまって……本当どうしたんだよ、お前……ゼェゼェ……」

 調教師の男は、肩で息をしている。

「フレデリック君、ベーコンちゃんに、人参を渡しに来てくれたみたいで。」

 エイダンは、地面に、ぽてっと落とされた人参を拾い上げながら、優しく微笑んだ。


「えっ…フレデリックがそんな事…そうなんですね……」

「ええ。怒らないであげて下さい。優しい子ですね、フレデリックは。」

 調教師は、驚きながら、自分の世話する軍馬を見上げた。


「ベーコンちゃんも、いつもお家にいるせいで、なかなかお友達もいませんし。素敵なお友達が出来て、良かったですよ!」

「フレデリックも、あまり他の馬と群れませんから。ロバと馬で、波長が合ったのですかねぇ。」

「あはは!そうかもしれませんね。」

「ヒヒン!」

「プルル……」


 調教師の男が、正門までフレデリックと一緒に送ると告げると、フレデリックはベーコンちゃんの隣にピタッと寄り添って歩き出した。

「本当に仲良しなんだねぇ。可愛いなぁ!」

 エイダンは、並んで歩く二頭を見て微笑んだ。


「プルルッ!プルッ……」

 フレデリックは、歩きながらベーコンちゃんの体を舐めている。

「馬も、毛繕いってするんですねー。」

 エイダンが感心した様に呟いた。

「そうですね。でも、フレデリックがそこまでするなんて…本当に、仲良くなったんだなあ。良かったな、フレデリック。」

「プルルー!プルルー!」

「でも、ちょっと舐めすぎじゃないですか?フレデリック、そんなに舐め回したらベーコンちゃん歩けないよ⁈」

「プ…プルル……しくしく……」

「ヒヒン。」

「そんなにベーコンちゃんの事好きなの、君……」

「相当な気に入り様ですねえ……この子、アイゼン少佐の愛馬なんですよ。」

「えっ!そうなんですか⁈フレデリック、だったら、今度君の主人と遊びにおいで。ベーコンちゃんと待ってるよ。うわ、ちょっと!舐めすぎてベーコンちゃんベタベタじゃない!」

「ヒヒン……ブルル!」

「プルー……しくしく……」

「良かったな、フレデリック。」


 2人と2頭は、朝日の中を、仲良く並んで正門まで歩いて行った。


「ベーコンちゃんも、いつもお家にいるせいで、なかなかお友達もいませんし。素敵なお友達が出来て、良かったですよ!」

「フレデリックも、あまり他の馬と群れませんから。ロバと馬で、波長が合ったのですかねぇ。」

「あはは!そうかもしれませんね。」

『ベーコンチャン、僕は君と仲良くなりたい!』

『しつこいなぁ…』


 調教師の男が、正門までフレデリックと一緒に送ると告げると、フレデリックはベーコンちゃんの隣にピタッと寄り添って歩き出した。

「本当に仲良しなんだねぇ。可愛いなぁ!」

 エイダンは、並んで歩く二頭を見て微笑んだ。


『ひゃあっ!ちょっと!何するのよっ』

 フレデリックは、歩きながらベーコンちゃんの体を舐めている。

「馬も、毛繕いってするんですねー。」

 エイダンが感心した様に呟いた。

「そうですね。でも、フレデリックがそこまでするなんて…本当に、仲良くなったんだなあ。良かったな、フレデリック。」

『や、やだーっ!止めてっ!舐めないでっ!』

「でも、ちょっと舐めすぎじゃないですか?フレデリック、そんなに舐め回したらベーコンちゃん歩けないよ⁈」

『わ、私…貴方と友達なんかにならないからねっ!うぅ……しくしく…』

『僕もそうだよ。君とは、友達じゃない関係になりたい。』

「そんなにベーコンちゃんの事好きなの、君……」

「相当な気に入り様ですねえ……この子、アイゼン少佐の愛馬なんですよ。」

「えっ!そうなんですか⁈フレデリック、だったら、今度君の主人と遊びにおいで。ベーコンちゃんと待ってるよ。うわ、ちょっと!舐めすぎてベーコンちゃんベタベタじゃない!」

『あぁ、可愛い……ずっと、ずっとこうしていたいな。今度絶対、ノアと君の家に行くからね。』

『やだぁ……来ないで……しくしく……』

「良かったな、フレデリック。」


 2人と2頭は、朝日の中を、仲良く並んで正門まで歩いて行った。

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