53.解散解散
「なるほど……前々から、自分とベネット公爵令嬢との仲を取り持つ様、ジゼルを付き纏い、断られた為に強硬手段に出た、と……」
ノアは、腕組みをし、顔をしかめてため息を付いた。
「その通りです、アイゼン少佐。前にも、軍の正門まで押しかけて、ジルを出せと喚き散らす事がありまして…守衛殿も困り果てて、軍から本人の家に、そう言った行為は止める様、警告はしていたのですが──」
「軍務執行妨害だからな。」
「はい。ですが、相手が公爵家と言う事もあり、あまり強く言えなかった様で。ジルに対する付き纏いが、完全に無くなってはいなかったのです。」
「何と恥知らずな奴なんだ………」
情報中隊の詰所で、リーから経緯を聞いたノアは呆れ返り、集められた他の兵達も、何て奴なんだ…と口々に呟いた。
「しかし…リー中尉、なぜそいつは今回軍事基地に来ず、森に入ったのだ?」
「はい、恐らく…なのですが、一度警告されている為、正門からはもちろん、軍事基地には侵入出来ないと踏み、ジルが訓練で森に入るという情報を得て、森で会おうと考えたのではないでしょうか。実際に今回、軍事基地から遠い入口から、見張りの兵に難癖を付けて、兵の引き止めも聞かずに無理矢理侵入した様です。そこの見張りから、直ぐに連絡があり、発覚しました。」
「……どこまで馬鹿な奴なんだ……もはや掛ける言葉も無い。安全な区域であれば、厳重な見張り等付けていない。一体何の為の見張りだと考えているのだ。」
ノアは目を伏せて、再度大きなため息を付いた。
「少佐、ジルが広報部と共に軍人令嬢として活動を開始し、広く市民に認識される様になってから…ジルを広報活動専門の軍人だと考えている市民も少なくありません。まさか、野盗狩りをする様なイメージとは掛け離れていますし、広報部も、その様なイメージが付かない様、積極的には広報部以外の軍務について、市民に説明したりはしませんから。あいつも、そう思い込んで、ジルが入る森なら安全なはずだと考えたのでは無いでしょうか……」
「……どちらにせよ、擁護は出来ない。」
リーは、自身とアイゼン少佐の前に集められた兵の中から、前列の端の方にいるジルベールに向き直った。
「悪い、ジル。あいつが、未だお前に付き纏っているのは把握していたが、これ程までとは…」
「いえ、リー中尉が悪い訳ではありません…確かに私個人は、モニカと親交がありますが、男爵家のガルシア家が、公爵家同士の、しかも婚姻関係の問題に口は出せないと、何度も伝えていたのですが。全く理解してもらえなかったのです…」
話を聞いていたジルベールは、申し訳無さそうに返事をした。
「よりによって、今日みてぇな、人数がいない日にしでかしてくれやがって…」
リーも、ノアに続き、盛大にため息を付いた。確かに、今回詰所に集められた人数は、かなり少ない。
「リー中尉、そういえば、人数少ないですね。」
「ジル、聞いてねぇのか?お前オーウェンとメイジーが結婚するんだろ?軍務の都合がつく奴は、結婚祝いで皆酒場に飲みに行ってる。俺も、酒場から呼び出されたんだ。他の奴らは殆ど泥酔していてな…軍務は無理だ。」
「えっ…そうだったんですね…」
私は目を丸くした。リー中尉、飲んでも全然変わらないからな…分からなかった。
「おめでとう、ジル。お祝いどころじゃなくなっちまったが…」
「ありがとうございます。」
私の返事を聞いて、リー中尉は頷くと、詰所に集まった兵達に向き直った。
「今から、残っている中隊を捜索に出す。殆ど人数がいないからな…二班に分かれて森に入る。すぐに各自装備を整えて、東門前に集合だ。まだ、本格的な野盗狩り前だからな。重装備しろよ。」
「リー中尉、その必要は無い。」
リー中尉が指示を出した直後、腕組みをしていたアイゼン少佐が、しっかりと言い放ち、全員が少佐の方を見た。
「例え公爵家の子息であろうと、こちらから警告はしていたのだろう?それであれば、自業自得だ。軍をなめてもらっては困る。そんな奴のために、不足している兵を投入できるか。」
少佐は、顔をしかめて言葉を続けた。
「しかし……良いのですか?この時間帯に、いかにも裕福な服装で森に入っては、襲ってくれと言っている様なものです。放っておけば、恐らく──」
リー中尉は明らかに困惑している。だが、少佐の口調は変わらなかった。
「構わない。今夜から捜索はした、という事にして公表するが、実際には明日の朝に普通科から、手練れの回収兵を出す。運が良ければ生きているだろう。」
そして、少佐は目を伏せ、軍服の左胸ポケットに一瞬手を掛けた後、はっとした様に、また腕組みをした。
「そうして頂ければ、ありがたいのですが……本当に良いのですか……?」
「構わないと言っている。上には通しておく。」
「失礼しました。ありがとうございます、少佐。」
詰所内には、集められた兵達が、良かったな!と言い合う声が響いた。これから、オーウェン達の居る酒場に、向かう者もいる様だ。
「よし!解散だ!お前ら、この件は口外するなよ!」
リー中尉の一声で、兵達は安堵の声と共に、各々詰所を後にした。
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