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ジゼルの婚約  作者: Chanma
ノア・アイゼン
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1.叱責

 奴は、きっちり時間通りにやって来た。呼び出しに応じ、部屋に入ってきた長髪の男は、さも初対面だと言わんばかりの表情で綺麗な敬礼をしている。

「ジルベール・ガルシア軍曹であります。」

 高い声の挨拶も、全くもって白々しい。


「堅苦しい挨拶はいい。自分が呼び出された理由は分かっているだろう?」

「申し訳ありません、大尉。心当たりはございません。」

「貴様…しらを切るつもりか?そんな嘘が通用すると思っているのか⁈」

 怒りのあまり机を蹴り倒したが、奴は微動だにせず綺麗な敬礼のまま正面を向いている。

「……心当たりはございません。」

「貴様───っ」


 物音を聞きつけて、事務仕事の補佐官が慌てて部屋に入って来た。

 俺の蹴り倒した机を急いで元の位置に戻すと、まぁまぁと俺を椅子に座らせる。

 

「あくまで自分の口からは言わないつもりか…そうだな、認めてしまえば、軍法会議で極刑は免れないだろうからな。だが、いずれ明るみに出る事だぞ。貴様も軍人なら、潔い最後にしたらどうなんだ⁈」

 補佐官はおろおろしながら、青白い顔で俺と奴を交互に見て、一体どういう事ですか⁈とオウムの様に繰り返している。

「どういう事も何も、こいつはカントと内通している。」


 この国と、隣国グラノの国境付近の一帯には深い森があり、カントと呼ばれる少数民族が住んでいる。両国はカントに対して自治権を認めていたが、リソーがグラノに侵攻した際、カントはグラノ側についた。

 グラノとの国境は、カントの住む深い森以外は、険しい山間部になっており、グラノに侵攻するには、この森を抜けるしかなかった。

 リソーは、侵攻するとほぼ同時にグラノ側についたカントと、森での戦闘になった。リソーはカントとの戦闘を想定しておらず、形勢は不利、さらにこの森は年中深い霧に覆われて視界も悪く、地の利があるカントに対して苦戦するまま、前線にグラノ軍が到着し、あっという間に敗北を期したのだ。

 それから数年、カントの森を戦場に睨み合いが続いている。だが、リソーは、早々に森からの侵攻を諦めていた。離れた山間部を徐々に攻略し、先月、ようやく山間部から奇襲をかけて侵攻出来る目処が立ったのだ。

 そんな矢先だった。前々から、グラノ侵攻の際にこちらの情報が漏れている疑いがあり、調査していたが、カントの関係者が経営すると見られる宿屋が、国内にある事が判明したのだ。表向きはカントと繋がりがある事は隠されており、国内では名の知れた宿屋であったため、先週の祝日に客を装って宿屋に調査に行った。


 そこに奴がいた。

 ジルベール・ガルシア。見間違いのはずは無い。


「大尉、話が見えません。なぜ私が内通者なのですか?」

 女々しく困った様な口調で答える目の前の部下に、殺意さえ覚える。今すぐここで切り殺してやりたい位だ。

「ふん。では聞くが、貴様、先週祝日の夜はどこにいた?」

「領地の教会です。祝日の夜は、任務がなければ神父様に懺悔をしております。」

「……嘘もそこまでくると怒りも無くなるな。」

「嘘ではありません、大尉。」

「だったら調べさせる。おい、すぐにこいつの領地の神父に問い合わせろ。先週の祝日の夜、こいつの懺悔記録を出させるんだ。なければ貴様はすぐに軍法会議だ!」


 補佐官が慌てて部屋を出て行った。

 

 2人になった部屋で奴に詰め寄る。

「いい加減、その見え透いた敬語はやめろ。宿屋ではそんな喋り方では無かっただろ?」

「大尉とお会いするのは、本日が初めてであります。」

 敬礼をしたまま、まっすぐ前を見ながら奴は答える。

「貴様のせいで、今までに何人死んだと思っている⁈軍法会議前に、今殺してやってもいい位だぞ。貴様を先に殺した所で大した罪にはならんだろうからな。」

「大尉、私は本当に何も知りませんっ!」

やや強い口調で言い返してくるが、真面目な素振りが、人をバカにしているとしか思えない。

「ガルシア貴様…っ」


 我慢の限界で、左手で奴の胸ぐらを掴んだ。30cmは違うだろう、奴を掴みあげると、予想以上に軽かった。


 軽過ぎて、そのまま持ち上げた勢いで左後ろに投げ飛ばしてしまい、奴は頭を机の角に打ち付けて、血を流して倒れてしまった。

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