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ジゼルの婚約  作者: Chanma
野営訓練
51/120

24 .ぐるぐるぐるぐる



「ジゼル…口をあけて?はい、あーん。」


「あーん……」




「美味しい⁈ジゼル⁈」

「うん、美味しいよ!リアム。」


 私の答えを聞いて、リアムは可愛く微笑む。

 今、リアムは私の膝から降り、私とリー中尉の間の席に座って、私に料理を食べさせてくれている。


 一口私に食べさせる毎に、美味しい⁈と可愛く笑って聞いてくる。おままごとをしてるつもりなのかな。リー中尉も、微笑ましいなぁ!とリアムを見て笑っている。


「ジゼル、これも美味しいよ!はい、あーん。」

「あーん。」




「リアム…子どもだから許される等と、思うなよ。」




 ただ…先程からアイゼン少佐は、もの凄く不機嫌そうにリアムを睨みつけている。子どもとはいえ、リアムのマナーが許せないのだろう。

 そして、リアムもリアムで、その小さな可愛らしい目で、キッ!と少佐を睨み返しているのだ…


「少佐、私は嬉しいですから。可愛いですし…」

「そういう問題では無い!」

「…………」

 少佐は、イライラした様に返してくる。

 さすがにちょっと、マナーに厳しすぎないかな?まだ、ほんの幼い子どもなのに…


「ジゼル、ノアはいいから!こっち向いて!あーん!」

「………あーん……もぐ……」

「ジゼルは、たくさん食べるんだねぇ!いっぱい食べさせてあげるねっ!!」

「…………もぐ……」

「あはは!その通りだ、リアム!ジルは沢山食べるからなぁ。良かったな!ジル!」

「…………もぐ……」

 私は不機嫌な少佐を横目で見ながら、楽しそうに笑うリアムから、料理を食べさせられ続ける。



「リアムはお前の甥だからな。彼女には…何かお前達を惹きつけるものがあるのかね…」

「チッ…リアムのやつ…」

「ノア、リアムに舌打ちは止めろと言ったろう?」


 アイゼン中将が、何やら困った様に、小声で少佐に話かけている。


「まあ…実際彼女は…私から見ても、武運の塊の様に見える。ノア……お前にも、リアムにも、そう見えているのだろう?」

 アイゼン中将は、ため息をついた。


「ジゼル!」

「あーん……」

 大人達にはお構い無しに、無邪気なリアムは、私に次々に料理を食べさせる。


「もぐ……ん…⁈」

「どうしたの?ジゼル?」

「今食べてる料理…初めて食べたけど、何だろう⁈すごく美味しい!!」

「え?これかなあ!僕も初めて見るよ!」


 リアムが食べさせてくれた料理は、肉と、溶き卵…緑鱗鳥(りょくうどり)の卵だろう。それと、分厚いきのこを油で炒め合わせた物の様だけど…味付けが…何だかこの辺のものじゃなくて…義母(はは)が作ってくれる、異国の料理に似ているな。


「それは、東方の国で、一般的な料理だ。大きな鉄鍋で食材を炒め、特有の香辛料で味を付ける。」

 不思議そうに料理を頬張る私に、少佐が、少し嬉しそうに、作り方を説明してくれた。


「東方の……そうなのですね。すごく美味しいです!」

「その辺りの国は、料理に良く卵を使うらしく、君が好みそうだと思って…料理長に頼んで作ってもらった。気に入ったなら、良かった。」

 少佐は、目を細めて、そう言ってくれた。

「ありがとうございます、少佐……」

「気に入ったなら、また作ってもらおう。料理長が言うには、東方の料理は、他にも沢山種類がある様だからな。」


 少佐の…少し緩んだ紺色の瞳、ずっと見ていたくなるなぁ…

 私は、口をもぐもぐさせながら、ボーっとしてしまった。この、特有の香辛料のせいかな…


「むぅ……」

「ん?リアム、どうしたの?」

「何でもない……」

 リアムは、ちょっとムスッとしている。


「ノア、ちょっといいかしら?」

「はい。何でしょう?母上。」

 アイゼン侯爵夫人が、椅子からゆっくり立ち上がり、少佐を呼んだ。


「貴方、忙しくて、なかなか帰れないでしょう?話しておきたい事があるのだけれど…今日で悪いけど良い機会だから…ちょっといいかしら?」

「はい、母上。」

 そう言って、侯爵夫人と少佐は、部屋を出て行った。


「……ねえねえ、ジゼル!」

 2人が部屋を出てすぐ、リアムがそわそわしながら、私に尋ねてくる。

「なあに?リアム?」



「ジゼルは……ノアともうキスしたの?」



「ケホッ!えぇっ⁈」

 私は飲んでいた紅茶をむせた。


「父上が、母上に話してたもん。ノアは…絶対キスしてるって。ジゼルとの事なの?」

「えっ⁈えっ⁈」


 私はリアムの質問に、慌てふためいた。今どきの子どもは…何て大人びているのだ!!私は紅茶のカップを持ったまま、固まってしまった。

 リー中尉は、リアムのこんな質問にも、あはは!かわいいなあ!と笑っているが、アイゼン中将も、なぜか食器を持ったまま、固まっている。


「ねえ……もうノアとキスしちゃった?」

 リアムは、何故だか悲しそうに聞いてくる。


「リアム…!そんなことはし……な………」


 そういえば……


 昨日、軍の正門の所で……左頬に……

 あれは、キスだった…よね?


 あと、収穫祭でモニカが来る前、

 頭を掴まれて………あれってもしかして……

 でも……どうして……だけど……


 私の頭の中で、ぐるぐると、少佐の行動が駆け巡る。何が何だか…良く分からなくなってきた…


 社交辞令なのか…そうじゃないのか…


 そもそも社交辞令で、頬にキスってするのかな…

 エイダンに、聞いておけば良かった…

 でも、社交辞令じゃ無かったとしたら、何で?


 どうして?


 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐ───


「ジゼル?」


「キス……し、したこと、ある………かも………」


「ゴホッ!!」

 私の答えを聞いて、今度はアイゼン中将が紅茶をむせた。


「ジル!お前は…!話を合わせろとは言ったけどな、そこまで合わせなくて良いんだよ!子どもに何て事言ってんだっ!」

 正直に答えた私は、リー中尉に小突かれた。


「で……でも……」

ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐ───

「でもじゃないっ!おままごとで変な事言うな!」


 私の頭が破裂しそうになった時、侯爵夫人と少佐が部屋に戻って来た。

 自分の椅子に戻る、少佐と目が合う。


「すまない、席を外して──ん、どうした?ジゼル。顔が赤いが……大丈夫か?」

「だ……大丈夫……です。」

「本当に大丈夫か?何か飲みなさい…ほら……部屋が暑すぎるか?」

「いえ、そんな事は…すみません……」


ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐ───


 私の横で、リアムが膨れっ面になっている。


「そ…そうだ!そろそろ、何かデザートを…ガルシア軍曹、君は甘いものが好きなのだろう⁈」

 アイゼン中将は、その場の空気を切る様に、執事にデザートを持って来る様に告げた。

 確かに…一度気持ちを切り替えた方が、良さそうな気がする。


「あ、ありがとうございますっ、閣下。」

「うんうん!沢山食べなさいっ!」





「うわあぁぁぁ!」

「すごいねぇ!リアム!美味しそうだねぇ!」


 今、私たちのテーブルには、様々なデザートが山盛りに乗っている。


「リアム!すごいねぇ!いつもこうなの⁈」

「こんなの初めてだよ!ジゼル!デザートは、たまに出るけどね、こんなにいっぱいなのは、見た事ないよー!」

 リアムも、目を輝かせている。

「じゃあリアム!こっそり部屋を抜け出して、ラッキーだったな!」

「うん!」

 リー中尉は、さっそくリアムに、デザートを取り分けている。


「ノア…さすがにこれは、用意させすぎだろ?食べ切れないぞ…それに、代々アイゼン家では、普段の食事は質素にするのが慣習だ。知っているだろう?」

「今日位良いでしょう?彼女は良く食べますし…母上やリアムも喜んでいますから。余ったら、明日、兄上達にも食べて貰えばいいでしょう。」

「全く…お前は……」


 テーブルの上には、ケーキ、クッキー、チョコレート、果物、プリンかなぁ、これは…タルトもある!

 あっ!果物のチョコレート掛け!収穫祭で、少佐と一緒に食べたやつだ!迷うなぁ…


 私は、行儀悪いかもしれないけど、キョロキョロしてしまった。迷うだろう、これは……!


 あぁ…でも…でも…

 やっぱり一番最初は……あるかな…?



「ジゼル、これを探しているのだろう?」



 向かいの席で、山盛りのデザートに隠れていた少佐が、デザートの山から、何かお皿に取ってくれた。


「少佐…それです!」


 少佐が取ってくれたのは、私が最初に食べたかった、木の実のケーキだった。


 私が一番好きな、木の実のケーキ。


 少佐は、木の実のケーキをお皿に取り、フォークで先の方を切って刺すと、緑鱗鳥(りょくうどり)の卵と同じ様に、私の口の前に差し出した。


「ほら、ジゼル……」


 少佐の瞳は…昨日、街の食堂や、軍の正門前で見せてくれた様な、優しい優しい、夜の色だ。


 私は、穏やかに揺れる、その色を見ながら、ゆっくり口を開けて、差し出された木の実のケーキを頬張った。


 奥歯で木の実を噛み潰す。


 それはもう、兄とのお茶会の味はしなくなっていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

不慣れな点が多く、時折改稿をしながらの投稿をさせて頂いています。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


続きが気になる!と思って頂けましたら、

「★★★★★」をつけて応援して頂けると、励みになります!

どうぞよろしくお願いいたします。

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