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ジゼルの婚約  作者: Chanma
野営訓練
49/128

22.アイゼン家へ行こう!!

「着いたな。今日は、野営訓練中に無理を言ってすまない。」 

「とんでもございません、少佐。お招き頂き、光栄です。」


 私とリー中尉は、アイゼン家の馬車に乗って、少佐の実家、アイゼン侯爵家に到着した。私達の軍事基地からさほど遠くない場所で、閑静な街中の家だ。


 アイゼン少佐も、私達と一緒に軍から馬車に乗った。馬車の中では口数は少なく、リー中尉と軍務の話をする程度だったが、始終穏やかな雰囲気だったと思う。


「また、軍に戻らなければならないからな。あまり長くは居れないが…そう硬くならず、寛いでもらえたら良いと思っている。」

「お気遣いありがとうございます、少佐。」

「本日は、私まで招待して頂いて…ありがとうございます。」

 私は、リー中尉に続いて、アイゼン少佐にお礼を述べた。


「本日、君が来る事を、私の両親も楽しみにしている。君が好みそうな料理を、家の料理長が作ってくれているから、遠慮は無用だ。沢山食べて行くと良い。」

 少佐は、リー中尉のついでに引っ付いてきた私にも、気を遣って言葉を掛けてくれる。


 私に向けられる、少し緩められた紺色の瞳を見ると、ついつい正式に食事に招かれた様な気になってしまうけど…自分の役目を忘れてはいけない。


 軍から馬車に乗る前、改めてリー中尉に、今日はよろしく頼むぞ!と言われた。

 今日は、リー中尉の今後のために、私が場を和ませて、頑張らないと!


 きっと大丈夫だ、私!

 広報部からの指導で、挨拶は完璧なはず!


 エスコート、する側は。

 モニカも、いつも喜んでくれているし…


 食事の作法も完璧なはず!

 エスコート、する側は。


 なんなら、ダンスもできる!

 エスコート、する側は……


 きっと…大丈夫…だと思う……

 ちょっと…緊張してきた……


「おおー、ジル!すごいな!庭も広かったけど、中も広いぞ!おい、見ろ!馬車にも装飾されてたが、アイゼン家の家紋だ!」


 少佐に連れられ、玄関に足を踏み入れると、リー中尉が正面を向いたまま、任務中に使う話し方で、小声で話しかけてきた。

 リー中尉は、初めての高位貴族の家とあって、なんだか、キャッキャとはしゃいでいる。気持ちは分かるな。私も、初めてモニカの家に行った時は、キョロキョロしてしまった。


 リー中尉が見上げる先には、玄関から入った、2階部分の階段と繋がる吹き抜けの正面に、窓の下から大きな家紋の織物が、掛けられている。

 この家全体もそうだが、豪華な調度品や、珍しい宝飾品がある訳ではない。だがそれは、決してきらびやかでは無いものの、厳かで威厳のある、堂々とした佇まいで、自然と目を引かれる。


 アイゼン家の家紋は有名で、大きな盾の文様だ。


「確か、お前の家にも家紋あるよな?お前の家に行った時、リビングに飾ってあったろ?」

「ああ…そうですね…」


 確かにガルシア家(うち)にも、家紋がある。


 それは、長いたてがみと、長い尾を持つ一匹の狼が、姿勢良く座って、両の目でこちらを見据えているものだ。


「ありますけど…うちは、表立って家紋を使う事を、王命で禁じられていますから。家の中だけですね。」

「そうか。それにしても、お前の家も、訳ありとはいえ古くから軍人なんだろ?お前の家とは、雰囲気が全然違うな。大きさとか、そういう事じゃなくてさ。」


「うちはですね…義母(はは)と、メイジーの趣味で整えられていますからね。」

「なるほどな。俺は、お前の家の方が落ち着くなあ。」


 ガルシア家は、義母(はは)とメイジーの可愛らしい趣味で、全体が構成されており、なんというか…カントリー風?…な感じだ。義母(はは)とメイジーが作った、手作りのクッションが部屋の至る所にあり、ソファーカバーやテーブルクロスも、かわいいパッチワークで作られている。


 義母(はは)とメイジー、そしてエイダンが世話をしている花壇の花が、家のあちこちに飾られ、先程の、狼の家紋の織物が家のリビングに飾られているのだけれど、その横にもメイジーが詰んできた、カラフルな花壇の花が生けられている。

 ピンクや黄色の花の横で、なんだか狼も、少し嬉しそうに見えるのだ。

 最初の方こそ、「家紋の横にこの花は…」と苦言を呈していた父も、最近では率先して、自ら花瓶の水替えを行なっている。



「おかえりなさいませ。」



 玄関に立つ私達を、執事達が両側に一列にピシッと並んで出迎えてくれる。

 

 すごいなあ!うちは家族が出迎えてくれるけど…そして、メイジーや義母(はは)が抱きしめてくれる。ああ、エイダンも出迎えてくれるけど、執事頭だったな、エイダンは。

 少佐の家は、執事の数も多いなあ。


「こちらだ。」

 言いながら、アイゼン少佐が進む部屋の扉を、執事が開けた。


 扉の向こうには、テーブルがあり、食器が並べられ、食事の準備がされている。

 今の季節は、日が暮れると肌寒くなる。暖炉に灯る柔らかな明かりが、少佐と行った街の食堂の様に、暖かく部屋を包み込んでいた。部屋の中は、豪奢な装飾品などはないが、玄関に足を踏み入れた時と同じく、厳かな空気に包まれている。



 部屋のテーブルの奥に、座る人がいる。

 少佐の両親だ。



 一人はアイゼン中将、本当にまた会ってしまったな。隣はもちろん少佐の母、アイゼン侯爵夫人だ。

 二人は、部屋に入ってきた私達を見ると、立ち上がり、穏やかな表情で歩み寄って来た。


 私の隣で、リー中尉が緊張しているのが分かる。


 リー中尉の為に…頑張るのだ、私!


 あの二人は…モニカの両親だと思うんだ!



───良く来たね、ジル!任務で行った、異国の話を聞かせてよ!セリージェの冒険、新刊は読んでくれた?感想は⁈面白かった⁈───



「野営訓練中、良く来てくれたね。ジョセフ・アイゼンだ。知っているだろうがね。息子が世話になっている。」

「エマ・アイゼンです。初めまして。二人とも、ゆっくりして行って下さいね。」

 アイゼン中将は、リー中尉に右手を差し出した。


「本日はお招き頂き、あ…ありがとうございます、閣下、アイゼン侯爵夫人。」

 リー中尉は、ぎこちなく言葉を返し、アイゼン中将と挨拶を交わす。


「ガルシア軍曹、君も、良く来てくれたね。」

「お会い出来て嬉しいわ、ジルベールさん。」



 リー中尉と挨拶を交わした二人が、私に向き直った。



───ジル!モニカばかりじゃなくて、私もお茶に誘って欲しいわ!予定が合わない?そうねぇ…私も家業でなかなか国内にいないから…あなたが任務に出る時に、私も付いて行こうかしら…そういえば、ジルはコーヒーが好きなんでしょう?モニカに美味しいコーヒー豆を探す様に言ってるから、楽しみにしててね!───


 

「本日は、私までお招き頂き、ありがとうございます。」


 私はアイゼン中将に挨拶を述べた後、アイゼン侯爵夫人の右手を取った。

 アイゼン侯爵夫人は、モニカや、モニカの家族と同じ…綺麗な金色の髪に、金色の瞳だ。


「初めまして、ジルベール・ガルシアです。お会い出来て光栄です、アイゼン侯爵夫人。」


 私は、モニカと、モニカのお母さんを思い浮かべながら、柔らかく微笑んだ後、目を伏せ、アイゼン侯爵夫人の右手の甲に軽く口付けた。


 そして、微笑みながら顔を上げ、アイゼン侯爵夫人を見る。



 ……………あ……あれ?



 見つめたアイゼン侯爵夫人は、その金色の目を丸くした後、何だか困った様に微笑んでいる。

 アイゼン中将も、なんとなく困った様に笑っている。

 リー中尉の横に立つアイゼン少佐は、腕組みをし、無表情で自分の両親を見ている。



 ……………私……失敗した……?



「ありがとう、ジルベールさん……私は軍の関係者ではありませんし、ジゼルさん、と呼んでもいいかしら?」

「え……あ……はい…どちらでも…構いません。」


 私は、挨拶を失敗したかもしれないショックで、アイゼン侯爵夫人の問いかけが、ものすごく遠くの方から聞こえた。



 私………何か違ったのだろうか……



「では、食事にしよう。君たちは、野営訓練で、お腹も空いているだろう?」


 アイゼン中将が穏やかにそう告げ、席に着く様に促してくれた。


「あの……リー中尉、私…挨拶変でしたか?」

 私は、席に着く前、任務中に使う話し方で、リー中尉に小声で話しかけた。


「いや、完璧だったぞ、ジル!」

 

 リー中尉はそう返してくれたけど…何だか反応がおかしかったと思う。

 私が挨拶した時、モニカや他の令嬢は、困った様な表情なんかしない。こちらも嬉しくなる位の、弾ける様な笑顔を返してくれる……


 私は……ちょっと自惚れ過ぎているのかな。


 広報部が仕立て上げた、軍人令嬢ジルベール・ガルシアも、まだまだ努力すべきだという事だ。

 気を取り直して、食事に集中しよう。


 アイゼン中将の向かいに、リー中尉が座る。

 私はアイゼン中将の隣に座っている、侯爵夫人の向かいに座ろうと、リー中尉の右隣の椅子に手をかけた。


「ジゼル、こちらに。」


 しかし、リー中尉の右隣の椅子に座ろうとした時、アイゼン少佐が、リー中尉の左隣の椅子を引いてくれた。


 この場合は…引かれた椅子に座るべきだろうか。


 ちらりと侯爵夫人を見ると、微笑みながら、少佐が引いてくれている椅子の方へ、促してくれた。


 引かれた椅子が、正解だな。


 私は少佐が引いてくれた椅子の方へ移動した。


 ………だけど……椅子を引いてもらった場合は、どうすれば良いのだろう……



──頂いたご挨拶に対して、ありがとうございます、と言うのは、当たり障りなく使えるものですよ──



 今日独房で言われた、エイダンの言葉が頭をよぎった。


「ありがとうございます、アイゼン少佐。」


 私の言葉を聞いて、少佐は優しく微笑んでくれた。正解だったのだ!




    ──ファッファファーン!!──




 私の頭の中でファンファーレが鳴り響き、姿勢正しく立つエイダンが拍手をしながら、

 良く出来ましたね、ジルベール様…と告げる。


 エイダン…私…これで一歩淑女に近づいたよ!


「おい、ジル!早く座れ!少佐が待ってるだろ!」

「あっ……すみません。」


 アイゼン少佐は、引いた椅子に私を座らせると、自分はさっと、私の向かいの席に座った。


「ノア…お前が、蹴り飛ばすか、自分が座るか以外に椅子の使い道がある事を知っていたとは…知らなかったぞ。」

 少佐の隣に座る、アイゼン中将が、小声で何か言っている。何を言われたのか分からないが、少佐はすました顔で、何も答えない。

 侯爵夫人は、少佐をとても嬉しそうに見た後、私に向かって微笑んでいる。


 何なのだろう……

 まあ…和やかな雰囲気だから、良かったのだろうな。


 アイゼン中将を真ん中にして、左右にアイゼン少佐と侯爵夫人、アイゼン中将の向かいにリー中尉、そしてアイゼン少佐の向かいに私が座る形で、食事が進められる事となった。



「リー中尉、今回は、アイゼン家(うち)からの縁談を受けてくれた事、感謝しているよ。」

 アイゼン中将が、穏やかにリー中尉に告げた。


「とんでもございません、感謝しているのは、私の方です。」

「ハリス子爵家も、君の事を気に入っていてね。本当に良かった。なあ、エマ。」

「ええ。それに、ハリス子爵令嬢は、ジゼルさんのファンなのだそうよ?」

 侯爵夫人が、嬉しそうに言った。リー中尉も、そう言っていたな。サインも頼まれたし。


「あはは、そうだな。君が、ガルシア軍曹の上官だと教えたら、物凄い喜び様だったな。」

 アイゼン中将が笑いながら告げる。


 軍人令嬢ジルベール・ガルシア…

 こういう形で、リー中尉の役に立てるのなら、広報部の仕事も、頑張って良かったと思える。


「私が、軍人として無事にここまで来れたのは、全て、リー中尉のおかげです。ガルシア家も、リー中尉には感謝しております。」


「ジル……お前…………」

 私はリー中尉に微笑んだ。

 本当に、リー中尉の結婚を嬉しく思う。


「お前……そう思ってるなら、初日から寝坊するなよな。」

「………………」

 リー中尉が小声で小言を言う。


 ………本当に、嬉しく思う。

 私は、サラダに乗っていた、卵を食べた。

 あっ!この卵は───


「ガルシア軍曹の言う通りだ。リー中尉、ガルシア家に対する、君の功績は大きい。時にガルシア軍曹、ジキル殿と、フレイヤ夫人は息災かね?」

「はい、閣下。おかげさまで、父も最近は足の具合も良いです。」

「それは良かった。フレイヤ夫人とは、ジキル殿と夫人の結婚式以来だが、元気ならば何よりだよ。」

 アイゼン中将は懐かしむ様に言った。


義母(はは)をご存知なのですね、閣下。」

「ああ、君はまだ小さかったから、覚えていないだろうが、君の家で開かれた式に呼んでもらったよ。まあ、それでなくても、フレイヤ殿は、業界では知らない者はいない、有名人だからなあ。」

「そうですね。妹は…容姿以外も、母の生き写しの様で…」

「何と。それは興味深いな。だが……その道に進ませる訳では無いのだろう?」

「もちろんです、閣下。妹は淑女として──」




「こんばんは、アイゼン家(うち)の食事はどうかな?楽しんでくれている?」




 その時、柔らかな声が部屋に響いた。


「帰ったか、ルーカス。」


 部屋のドアを開けた所に、少佐に良く似た人が立っている。ただ、少佐と違い、ものすごく、物腰が柔らかそうな人だ。隣に、彼の妻と思われる女性と、その後に小さい男の子が二人、引っ付いている。

 かわいいなあ、双子だろうか。二人とも、綺麗な金髪だが、瞳の色が違うな。一人は瞳も金色だけど、もう一人は、少佐と同じ、紺色の瞳をしている。


「長男のルーカス、ルーカスの妻のソフィアと、子ども達…私の孫だ。」

 アイゼン中将が、嬉しそうに紹介してくれた。子ども達は、わぁっ!っとアイゼン中将に駆け寄って来て、子ども好きのリー中尉が、かわいいなあ!と笑顔になる。


「今日は来てくれてありがとう!リー中尉、ガルシア軍曹。」

 この人は…少佐のお兄さんなのか。そっくりだなあ。

 私とリー中尉は、挨拶のために立ち上がった。


「妻のソフィアです。初めまして。」

「今日は、妻と子ども達と食事に行って来たんだ。君達が来ると聞いて、子ども達も会いたいって言うからね!騒がしくして、申し訳ないね。」

「とんでもないです、わざわざありがとうございます。かわいいお子様ですね。」

 リー中尉は、嬉しそうに返事をした。

 少佐のお兄さんは、本当に物腰柔らかく、社交的だな…その点は、少佐とは似てないかも。

 でも、私は少佐の方が───

 少佐の方が……?


 あれ?私は少佐の方が、何なのだろう?


「ルーカスも、当然だが軍人でね。数年前に、家督を譲っている。私もエマも、後は隠居するばかりなのだが……」

「父上、お願いですから、まだ隠居されては困りますよ。私一人では、首が回りませんから。子ども達も小さいですし。」

「孫の世話だけして、暮したいものだな。わはは!」

 アイゼン中将も、子ども好きなのだな。

 それはそうと、私も挨拶しなくては。


「本日は、この様な場に、私までお招き頂きありがとうございます。」

 私はルーカス夫妻に向き直った。


「いやいや、弟のわがままで……」

「え?」

「来てくれて嬉しいよ、ガルシア軍曹。」

 ルーカス夫妻は、優しく微笑んでくれた。


 私は、ルーカス夫人の右手を取り、先程侯爵夫人にした様に、柔らかく微笑んだ後、目を伏せて右手の甲に軽く口付けた。


 そして、ルーカス夫人に向き直って微笑んだが……


 ルーカス夫妻も、困った様に微笑んでいる。

 そしてアイゼン少佐も、先程と同様に、座ったまま腕組みをして、無表情でルーカス夫妻を見ている。


 私…本当に、自信無くなっちゃったかも……


「リー中尉…広報部からの軍務…増やしてもらえますか?」

 私はルーカス夫妻に挨拶を終えた後、リー中尉に小声でお願いした。

「どうした急に。いつも嫌がるのに何だ?まあ、お前がその気になったのなら、良い事だ。前から言ってるだろ?広報部の依頼は、お前に取って悪い話じゃ無いって。」

「……はい。」



「リー中尉、ガルシア軍曹、沢山食べて行ってね!じゃあ、ノアもまた!」

 ルーカス夫妻は、子ども達も寝る時間だからと、にこやかに笑って、部屋を後にした。


「ジゼル、挨拶ばかりで疲れたろう?食べなさい。」

「ありがとうございます、少佐。」


 ルーカス夫妻と子ども達が去った後、アイゼン少佐が、穏やかに声を掛けてくれる。

 私は食べかけていた、サラダに向き合った。

 そう、このサラダに乗っている卵は……!



緑鱗鳥(りょくうどり)の卵、君は好きだろう?」



 少佐に言われて、私は顔を上げた。


「はい。どうして分かったのですか?」

「昨日行った、街の食堂でもそうだったが…君は、好きなものを食べると、目を丸くして見開くだろう?分かりやすい。」

 少佐は笑いながら告げた。


「そうなのですね…自分では、気付いていませんでした。」

「そうか。だったら、気付かせないままの方が良かったな。可愛らしい癖だと思う、ジゼル。」

「え?」


「おいノア!お前、自分と彼女の二人だけで食事をしているつもりじゃないだろうな⁈リーもいるのだぞ!」

「…………」

 アイゼン中将が、また小声で少佐に何か言った。少佐は、自分の父親の顔も見ず、しれっとしている。


「ノア、今日は良く食べるわね!」

「そうですか?」


 アイゼン侯爵夫人が、目を細め、嬉しそうに少佐に言った。


 良く食べる……これで?


 少佐は、今テーブルに出されている前菜の中で、緑鱗鳥(りょくうどり)の卵の乗ったサラダを、半分程しか食べていない。前菜のハム…要らないなら私が欲しい位だ。


 街の食堂でも思ったけど、少佐はすごく少食だ。戦力外だったもんな。町民の子どもの方が、まだ食べていた気がする。


 私は少佐のハムをじっと見つめた。


 すると、少佐は気付いた様にクスッと笑って、アイゼン中将とリー中尉が話している隙に、私のお皿に自分のハムを、ポイっと乗せてくれた。


 私は乗せられたハムを、すぐに口にした。

 本当に、美味しい……


「少佐は、お野菜が好きなのですか?」

「え?ああ…そう……だろうか?あまり考えた事はなかったが………」

 少佐は私を見ながら、何故か、笑いを堪えた様に返事をする。


「お肉は嫌いですか?少佐。」

「嫌い………では無いな。本当に、あまり考えた事が無いだけで、特に食べ物の好き嫌いは無い。」

「でも、あまりお肉食べませんよね?」

「君に比べればな。」

「私も、お肉以外も食べますよ!ちゃんと野菜も好きですし!」

「あはは!そうだな。ほら、俺の緑鱗鳥(りょくうどり)の卵も、全部あげよう。」

「えっ!わーい!」


 アイゼン中将は、少佐を見て、やれやれという顔をしながら、リー中尉と婚姻の段取りについて、話している。

 侯爵夫人は、私達を見て何だか嬉しそうだ。


「ほら、ジゼル……」

「えっ……」


 自分の分の、緑鱗鳥(りょくうどり)の卵をくれると言った少佐は、自分のフォークに、綺麗に櫛形に切られた緑鱗鳥(りょくうどり)の卵を刺した。


 そして、そのフォークを、私の口の前に差し出す。


 これは……良いのだろうか……


 だが、考えるより先に、私の体は反射的に、目の前に差し出された緑鱗鳥(りょくうどり)の卵を取り込もうと、口を開いた。

 緑鱗鳥(りょくうどり)の卵は、今が旬だ。目の前に差し出されて、食べない人なんか、いないと思う。味もさる事ながら、旬の時期はその栄養価も云々───


「あー……」

 私の口が開くと同時に、視界の奥で、ゆっくり破顔する少佐の顔が映る。

 そして、鬼の形相で、少佐の左肩を掴みかかる、アイゼン中将も映った。


 更に、何故だか少佐の後には、椅子から立ち上がり、両手を握りしめて私と少佐を見守る、キラキラした笑顔の侯爵夫人も映っている。


 そして、アイゼン中将に肩を掴まれ、手元がブレた少佐のフォークは、緑鱗鳥(りょくうどり)の卵ごと、勢いよく私の口の中に入った。


「もぐっ…………」

「ノア…………貴様───」



「おじいさまっ!おばあさまっ!」



 アイゼン中将が、少佐の軍服の襟元を掴みあげた時、背後から可愛らしい声が響いた。


「リアム………」

 アイゼン中将は、掴み上げていた少佐の軍服を、パッと放した。


 可愛らしい声をあげて、部屋に入って来たのは、先程の、少佐のお兄さんの子どもだ。

 双子のうちの一人、少佐と同じ、紺色の瞳の子だ。


「リアム、どうした?寝たのではなかったのか?」

「あのね、あのね…僕も皆とお話したくてね。お部屋をこっそり抜け出してきたの。ノアも来てるし…いいでしょう?」

「まあ…リアムったら。」


 アイゼン侯爵夫妻は、可愛い孫の登場に、やれやれという顔をしている。リー中尉も、君はいたずらっ子だなあ、と声を掛けて笑った。


「リアム、もう遅いだろう?兄上に叱られるぞ。」

「ノア、今度帰ったら剣を教えてくれるって約束してたでしょ!約束だったよ!」

「確かにそう言ったが…今日は別の用事で帰ったのだ。」

「やだ!僕も皆と遊びたいっ!お話したい!その後ノアに剣を習ってから寝る!」

「リアム……」

 少佐は困った様にため息をついた。


 まだ喋り方も幼いな。良く河原で遊んでいる子ども達より小さいだろう。5、6歳位かな?


「孫がすまないね……リアム、今日は駄目だよ。大事なお客様なんだ。ノアも、休暇で帰った訳じゃないのだよ。」

「えーっ!おじいさま!僕もお話したいよ!ちょっとだけでいいからさぁ!」


「閣下、少し位良いのではないですか?私達は構いませんし……」

 リー中尉の言葉に、リアムはパッと目を輝かせた。


「うーん……君達が良いなら…リアム、ちょっとだけだぞ?」

「やったー!おじいさま、ありがとう!えっとね……リアム・アイゼンです。こんばんは。」

「こんばんは、ウィリアム・リーです。きちんと挨拶ができるなんて、偉いね。」

「えへへ。」


 リアムは、可愛らしく笑ったあと、私の方を見た。そして、丸い紺色の瞳を、さらに丸くした。

 子どもらしい、赤くてぷにぷにの頬っぺたも、とてもかわいいなあ。メイジーも、数年前は、こうだった。


「こんばんは、ジルベール・ガルシアです。」

 私はリアムに微笑んだ。


 だが、私をじっと見たリアムの口から出た言葉に、びっくりして、私の方が目を丸くする事になった。


「……ジルベール・ガルシア。……ジルベール……」

「そうだよ。」


「ねぇ……おじいさま、おばあさま、じゃあ、この人が、ノアのお嫁さん?」


お読み頂き、ありがとうございます。

不慣れな点が多く、時折改稿をしながらの投稿をさせて頂いています。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


続きが気になる!と思って頂けましたら、

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どうぞよろしくお願いいたします。

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