16.お姉様
お姉様の体は、傷だらけだ。
私がもっと小さい頃は、
一緒にお風呂に入ってくれていた。
だけど、最近は、一緒に入ってくれない。
多分、私が気にすると思っているみたいだ。
休みの前の日は、よく酔っ払って帰って来る。
ふらふらしながら、呂律が回らない口調で、
玄関に出迎えに来た私を抱きしめ、
メイジーはかわいいなぁ、と言う。
そして、半開きになって、とろけた水色の瞳で、
私をじっと見つめる。
次の日は、二日酔いで頭が痛いと言いながら、
庭でお父様と、弓や、剣術の訓練をしている。
私には、覚えてないけど、お兄様もいた。
色の薄い金色の髪に、お姉様と同じ水色の瞳。
優しい人だったらしい。
お姉様は、お兄様を誰よりも愛している。
きっと、私よりも。
家の庭で、弓や、短い剣の手入れをしながら、
泣きそうな顔になっている時は、
お兄様を思い出している時だ。
お姉様は、私に何でも与えてくれる。
私の欲しがるものは、何でも買ってくれる。
服や、靴や、お菓子に、本に…
そんなに要らないのに。
必要以上に買い与えたがる。
自分は軍服しか持ってないくせに。
今度は、私の婚約者も見つけてくれたらしい。
これで、自分に何かあっても、
私が軍人にならなくてもいいかもしれないと
お姉様も、お父様も、お母様も、
家族皆が喜んでいる。
でも…
でも、お姉様は……
ずっとこのままなのかな……
お姉様は、私の、お母様譲りの癖のある赤毛を
すごく褒めてくれる。
お仕事の帰りに、街でかわいい髪飾りを買って、帰ってくる。
遠くの国に、お仕事に行った時は、この国にはない珍しい髪飾りを買ってきてくれる。
そして、下手だけど、私の髪を櫛でとかしてくれる。
私の方が上手なんだけど、
私はお姉様にとかして欲しいから、
お姉様に、櫛を渡してといてもらう。
私に髪飾りを付けるのは、お姉様は出来なくて、
櫛でといてくれた後、エイダンを呼んでる。
私が、お姉様の髪の毛をとかそうとすると、
お姉様は、苦笑いして断る。
こんな髪の毛を、メイジーは触らなくていいって言う。
お姉様は、自分の髪の毛が嫌いだ。
だから、あまり手入れをしない。
たまに、物凄く恐い顔をして、髪の毛を掻きむしってる。
私がどんなにお姉様の髪の毛を褒めても、
綺麗な色だと伝えても、
お姉様には、届かない。
きっと、お姉様には、お兄様の声しか届かない。
お姉様は、王様の命令で、私と同じ年に軍隊に行った。
だから、私が今勉強している事を、全然知らないのだと、エイダンが言ってた。
だから、お姉様は、ドレスを着て、お城に行けないって。
軍服を着て、ドレスを着た人を警備に行くって。
エイダンは悲しそうに言うけど、
でもきっと、お城で一番綺麗なのは、
ジゼルお姉様だ。
その証拠に、街でドレスを着た人は、
皆、お姉様を好きだと言ってる。
街のあちこちに、お姉様のポスターがあるし、
私は学校の友達に、羨ましがられるんだから。
家のお庭で、弓の訓練をしているお姉様に呼びかける。
私の声に、振り向くお姉様の、
燦々と輝く銀色の髪。
私を見つめる、凪いだ湖の様な瞳。
凛として、軍服で立つお姉様は、
気高く、堂々として、いつも自信に満ち溢れている。
私の自慢のお姉様。
どんな淑女より、
どんな名家の令嬢より、
ジゼルお姉様が一番綺麗なのに。
どうすれば、それを伝えられるのだろう…
お姉様に、お兄様より好きな人が出来たら、
その人に伝えてもらえたら…届くのかな。
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