14.台拭きは要らない
「お兄様!お帰りなさーい!」
私は玄関で勢いよく兄に抱きついた。
「ジゼル!おっと、倒れてしまうよ!」
兄は私を抱きとめると、そのまま私の脇を抱えて、クルッと一回転してくれる。
「ジゼル、今日はまたお土産があるよ!」
そう言いながら兄は、白い容器に入った、木の実のケーキを見せてくれた。
「やった!やった!私木の実のケーキは、これが一番好き!」
「それは良かった。これはいつも、軍の友人がくれるんだよ。」
「優しい人なのね!」
「そうだね。高位貴族の出身みたいだけど、全く、その事を鼻に掛けなくて、真面目で、親切な奴だよ。…うーん、ちょっと良く言い過ぎたかなー。仕事にストイック過ぎるのは玉に瑕かな。」
「そうなのね。お兄様、そのお友達を今度、うちに連れて来てよ!」
「そうだね、ジゼルとも遊んでくれると思うよ。」
「それでね、それでね、遊びに来る時、このケーキをたっっっくさん!!持って来てって、お願いして!」
「あはは!甘い物の事になると、図々しいなぁー!ジゼルは。」
兄は笑いながら、私の頭を撫でてくれる。
「おかえりなさい、テオドール様。」
兄の声を聞いて、エイダンも玄関に出て来た。
「エイダン、ただ今!」
兄は、エイダンに向かって嬉しそうに微笑んで、ギュッと抱きしめた。エイダンは、兄の無事をいつも心配している。
「エイダン!お兄様がね、また木の実のケーキをお土産にくれたのよ!」
「それは良かったですね、ジゼル様!」
「お兄様は明日お休みなんでしょう?このケーキで、またお茶会したい!」
「いいよ、ジゼル。」
「エイダン、準備お願いね!」
「かしこまりました。お庭にテーブルを置いて、ティーセットと、ケーキとお皿とパラソルと…ジゼル様が紅茶を溢れさせた時の台拭きと…」
「台拭きはいらないわよ!!」
「いやいや、一番必要な物ですよ。台拭きは。」
「エイダン、台拭きは2枚用意してくれ。」
「お兄様まで!!台拭きはいらないって言ってるでしょ!!」