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ジゼルの婚約  作者: Chanma
野営訓練
108/130

81.山積みの努力

「あの……少佐、ちょっと待って下さい!」


「何だ…君の事に関しては、好きにして良いと聞いているが。」


「でも、こんな急に───」


「急に?関係無いだろう。何か意見があるのか?」


「いえ………そういう訳では………」


「受け入れて欲しい、ジゼル───」


「う………でも………」



「でも!こんなに沢山どうしたら良いんですかっ!」

 引き留めも聞かず、逃げる様に客室を出ようとするノアの、軍服の袖を掴み、ジルベールは大声で訴えた。


 アイゼン家、ジルベールの客室。朝食前のまだ早い時間に、登軍のための身支度を終え、客室にやって来たノアと、先程目を覚ましたばかりのジルベールが、何やらまた騒がしく言い合っている。


 ノアは、軽く後ろに撫で付けた前髪を困った様に右手で押さえながら、軍服の左袖を引っ張るジルベールをちらっと見た後、客室の中に視線を移した。

 

 部屋の中には、カラフルな包装紙にリボンが掛けられた、大小様々なプレゼントの箱が山積みになっている。



「あの…こんなに沢山、本当にどうして………」

 昨晩、ポスターの件で言い合いになってしまい、ルーカス兄さんが部屋に来て、なぜだかリアムが鼻血を出して倒れてしまうという大騒ぎになった。

 最終的には、リアムはルーカス兄さんに抱えられて部屋に戻り、少佐が私に、薬の入った温かい紅茶を持って来てくれて……眠りについたと思う。


 そして、ぐっすり眠って目を覚ますと、部屋の中はこの光景に変わっていたのだ。


⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎


昨晩、鼻血を出したリアムが、ルーカスに抱えられて部屋に戻った後、ジルベールの客室


「ジゼル、入るぞ。」

「……はい。」


 少佐は、ツカツカと客室に入ってくると、就寝前の薬が入った紅茶のトレイを、ベッドのサイドテーブルに置いた。そして、床の上に、膝を抱えて座る私をチラッと見ると、一度部屋の外に出て、新しい椅子を2脚抱えて入ってきた。


アイゼン家(いえ)の椅子は、なかなか頑丈な木材で出来ているんだがな…」

「申し訳ありません…壊した椅子は弁償しますので───」

 冷静さを取り戻した私は謝罪した。正直、少佐のポスターに対する感想に、問題があったと思うけど、椅子を壊すなんて、なんて事しちゃったんだろう。

「そんな事はしなくていい。床の方が、椅子より頑丈だっただけだ。」

 そう言いながら、少佐は新しい椅子を、テーブルに向かい合わせにピシッと並べた。

 そして、床に座る私のそばに来た。


「あの………っ!」

 少佐は、膝を抱える私を、ポスターの彫像の様にそのまま両手で抱えると、ベッドに向かって歩いて行く。


「もう遅い時間だ。夜更かしは傷に障る。」

 少佐は、天蓋のレースを開け、私をゆっくりベッドの上に置くと、紺色のカーディガンを留めている、胸元のリボンに手を掛けた。

「やっ…………」

 びっくりして咄嗟に少佐の手を払い除けると、少佐は私を伺う様に、少し上目遣いに紺色の両目で見てきた。


「……………………羽織物を着たままでは寝れないだろう?」

 そして、また手を伸ばし、そっとリボンを解いて、カーディガンを取り去った。異様に間があったのは何だったのだろう……


「寒くは無いか?」

「………はい。」

 そう答えると、少佐は、私の髪飾りを右手でそっと外した。少佐の手のひらに、紺色の花が乗っている。続けて、編み上げられた左右の髪の毛を、そっと(ほど)いて、指でとかしてくれた。


 女医の先生が、毎日髪に香油を塗ってくれるおかげで、私がほったらかすせいで、絡まりがちだった毛先も、ここ数日はつやつやだ。

 正直な所、私の髪の毛なんかにもったいないから、塗らなくて良いと遠慮したのだが、女医の先生は全く理解してくれない。


 少佐は手のひらで、私の頭を包む様に、優しく髪の毛を撫でている。

 少佐の顔をそっと覗き込むと、紺色の瞳が、私を捉えた。


「ジゼル、」

 私の髪の毛を一房、右手に取ったまま、少佐が何か言いたそうに、こちらを見た。

「はい、少佐。」

「………いや……何でも無い。もし、部屋が寒くなったら、遠慮なく執事に言いなさい。廊下で呼べば、直ぐに来てくれる。」

「はい。ありがとうございます、少佐。」

 私の返事を聞くと、少佐は軽く頷いて、サイドテーブルに置かれていた、薬の入った紅茶を取り手渡してくれた。温かなそれは、ここに来てから毎晩女医の先生が処方してくれているものだ。良く眠れる様に、と。

「飲みなさい。」

 少佐は、ベッドの縁に腰かけて、私の頭を撫でながら、優しくそう言った。だけど───


 そうやって、じっと見られていると、何だか飲みづらいな……


 私はカップを両手で持って、(ふち)にそっと口を付けた。

「ごく………」─じっ─

「どうした、俺をじっと見て……あっ!薬が嫌なのだろう?飲まないと駄目だ。その薬は、そんなに苦くは無いだろう?」

「違いますっ!薬は飲めますけど……」

「何だ。」

「真横で見られてると…飲みづらいというか……」

「そんな事は無い。早く飲みなさい!」─ぐいっ─

「う……ごくごく……けふっ……」

「そうだ。」

「……ぷは……飲みました。」

「駄目だ。一滴残らず飲みなさい。」─ぐいっ─

「えっ………うぅ………ペロ……」

「そう、良い子だ。」


 私に執拗に薬を飲み干させた少佐は、満足したのか、空っぽのカップを私の手から取り、サイドテーブルに戻した。

「よし、早く寝なさい。」

 そして、私を寝かせて首元までシーツを掛けると、大人が子どもを寝かせ付ける様に、ぽん、ぽん、と大きな手のひらで、私の胸元を軽く叩き出した。


「あの………」

「何だ。早く寝なさい。」─ぽん、ぽん…─

「その……ずっとそこにいらっしゃるのですか?」

 私は両手でシーツの端を握りしめながら尋ねた。

「君が寝付くまで、ここで見ている。」─ぽん、ぽん…─

「………なんだか……寝づらいというか……」

「大丈夫だ。薬を飲んだろう?直ぐに眠くなる。」─ぽん、ぽん…─

「そういう事じゃなくて……」

「……じゃあ何だ。」─ぽん、ぽん…─

「……………」

 私は、シーツを引き上げ、目だけを出して少佐をじっと見た。

「ジゼル───」


「ジゼル、先程は……すまなかった。」

「少佐……」

「いや、ポスターの構図については、正直おかしいと思うのだが……」

「むっ。」

「お…怒らないでくれ、ジゼル。」─ぽん、ぽん…─

「だけど…君の身体については…綺麗だと、そう思っている。」

「………傷だらけなのに……?」

「傷?傷なら俺にだって付いている。軍人なら当然の事だ。」

「軍人じゃない女の人は………皆………綺麗でしょう……?」

「軍人では無い女?……確かに軍人に付く様な傷は無いと思うが──あ、いやいや!思う、だからな。実際には見た訳では無いからな!勘違いしないで欲しいのだが……」

「………?………」─うと…うと…─

「まぁ、とにかく…それ程気になるのならアイゼン家(いえ)の医者に、傷痕が治る塗り薬を貰えば良い。君の気が済むまで、ずっと俺が、貰って来てやろう。」

「……少佐………」─うと…うと…─

「だがな、ジゼル。傷痕は…君が生き抜こうと努力した結果だと、俺は思うよ。」

「…………………」─うと…うと…─

「俺が知る、他の誰よりも、君は強くて綺麗だ。」

「…………ノ…さ……スースー……スースー…」



「ジゼル……」─ぽん、ぽん…─



        ───カチャ───



「ノア、もうジルは眠った?」

 ジルベールが、深い眠りの底に落ちた時、客室の扉がそっと開いて、ルーカスが小声で尋ねてきた。


「はい、兄上。先程眠りました。薬をしっかり飲ませたので、よく眠っています。多少物音がしても、大丈夫かと。」

「分かった!じゃあ、ノアが買って来たプレゼント、全部客室に入れよう。」

「ありがとうございます、兄上。」

「ちょっと、それにしてもノア、これは買い過ぎじゃないかな⁈」

「申し訳ありません……」



 ジルベールの小さな寝息が響く中、ルーカスとノアによって、客室のテーブルの奥には、小高いプレゼントの山が積み上げられた。




⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎



「ジゼル、これは…その…街の者達に、いろいろとチラシをもらった結果であって──」

「街の…?チラシ…?」

「とにかく!本当は、君と直接街へ出向いて、好みの物を買い求めたかったのだが、君はまだ、あまり出歩かない方が良いだろう?君が好みそうな物を選んだ結果、こうなってしまって……」

 少佐は、申し訳無さそうに、目を伏せた。


「受け取って欲しい、ジゼル。私室に置けない分は、ここからガルシア家に送れば良い。不要な物は、捨てて構わないから……」


 少佐……私の為に、選んでくれたんだ───


「ありがとうございます、ノ………ノ………」

「ノ?」

「ノ………ノードレド地方の、模様の包みですね、あの箱は………」

「ああ、そうだ。あれは菓子屋の包みだな。人気の菓子屋らしい。珍しい地方の菓子も多く取り扱っていて、ノードレド地方の物があったんだ。君が、喜ぶのではないかと思って……」


「……嬉しいです。捨てるなんて、そんな事絶対にしません。全部、大切にします。」


 私がそう答えると、少佐は紺色の瞳を緩めて、笑顔を返してくれた。

「あの辺りの箱は、だいたい菓子や、食べ物の包みだ。良かったら、リアムとジェイミーも呼んで、一緒に開けて食べたら良い。料理長も、珍しい菓子が好きだからな、声を掛けて茶を一緒に───」



       ───バンッ!───



「キャーー!お菓子だお菓子だー!!」

 少佐が言い終わる前に、客室の扉が開いて、リアムとジェイミーが飛び込んで来た。

「お前達…さては聞き耳を立ててたなっ!マナー違反だろう⁈」

「ノア、ありがとう〜!」

「本当に、すごい量ですね、ノア坊ちゃん!」

 料理長も、ちゃっかり入って来て嬉しそうにしている。


「お菓子や食べ物は、リビングに持って行って、皆で頂きましょうか?アイゼン家(ここ)で働く皆さんにも、食べて頂きましょう!リアム、ジェイミー、箱を開けるの手伝ってくれる?」

「わーい!」

「ジゼル様、宜しいのですか⁈でしたら、沢山お茶を淹れなくては……!」


 楽しそうにプレゼントを開けるジルベール達を見ながら、ノアはそっと客室を出て、軍へ向かった。


ベーコンちゃんの愉快な仲間達紹介

ジゼルの周りの人達を、紹介していくよ!プルル!


〜アイゼン家編〜


「ノア・アイゼン」

アイゼン侯爵子息。アイゼン家の三男。

大好きなものは、ジゼルと紫煙草。

好きなものは、料理長の作ったポテトチップス。

嫌いなものは、無駄口、フィンレー。

軍内屈指のヘビースモーカーだが、ジゼルの前では非喫煙者を装っている。いつか禁煙したい。ドS。


「ジョセフ・アイゼン」

ノアの父親、アイゼン侯爵。中将。

ジキルと、ノアの向かい部屋の上官とは戦友。

家督はルーカスに譲っているが、なかなか隠居出来ない。孫を溺愛する。


「エマ・アイゼン」

ノアの母親、アイゼン侯爵夫人。

ノアが幼くして入軍する事を、止められ無かった自分自身に後悔しており、そのせいで、ノアの性格がおかしくなったと思い込んでいる。ジョセフに対して不満があったが、ジルベールの出現により、最近一筋の希望が見えた。割と流行り物好き。


「ルーカス・アイゼン」

ノアの一番上の兄、アイゼン侯爵子息。

首都に勤める軍人。数年前に家督を継いだ。2人の弟を愛している。ノアの願いを叶えたい。


「フィンレー・アイゼン」

ノアの二番目の兄。アイゼン侯爵子息。性格は、あまり良く無い。


「ソフィア・アイゼン」

ルーカスの妻。ルーカスに頼まれ、義弟の恋を応援する。エマと同じく、流行り物好き。


「リアム・アイゼン」

ルーカスの息子。双子の兄。ジルベールに一目惚れして、ノアから奪おうとする。最近、ジルベールが映るポスターを見て、大人の階段を登った。


「ジェイミー・アイゼン」

ルーカスの息子。双子の弟。兄の恋を応援する。


「フレデリック・アイゼン」

ムカつく軍馬!プルルルルッ!

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