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ジゼルの婚約  作者: Chanma
野営訓練
107/129

80.叶うなら彫像になりたい

「おかえりなさいませ。」


 アイゼン家(いえ)に帰り、玄関ホールで執事達に出迎えられた。一昨日からジゼルは、俺が傷つけてしまったせいで、治療のためアイゼン家(いえ)の客室に泊まっている。


 軍服の上に着ていたコートとマフラーを、執事の一人に手渡した。

「……………」─そわ……─


「ノア様、先程ジルベール様に、ノア様のご帰宅をお伝えしておりますので、まもなくこちらにいらっしゃるかと思います。」

 コートを受け取った執事が、おもむろにそう告げた。

「ジルベール様は、本日の御夕食をノア様とご一緒にお召し上がりになりたいと、お待ちになられておいでです。」

「……分かった。」─そわ……─



「キャハハハ!」



 そう返事をした時、2階へ続く階段の方から、リアム達の笑い声がした。


────────────


「はい、出来ましたよジルベール様。今日も良くお似合いです!」

「ありがとうございます。」

 女医は、編み上げ終わった私の髪を、優しく撫でながらそう言った。

 客室の、大きな鏡台の鏡には、紺色のドレスと、紺色のカーディガンを着て座る、私が映っている。髪飾りには、大輪の花が使われており、もちろん紺色だ。


 何で…………


 毎日毎日、紺色一色なんだろう。


 いや、着せてもらっているのだから、文句は無いのだけど。しかし、こうも紺色だらけだと、さすがに疑問だ。


 何かそういう……掟でもあるのだろうか。

 この家は───


 実際に、貴族家であれば、その家独自の作法やしきたりがある事も、珍しくない。女医は毎日、さも当然の様に紺色の服を、私に着せ付ける。


「ジルベール様、今日のドレスのデザインも素敵でしょう⁈シンプルなデザインですが、胸元のフリルが可愛らしいですよね!生地も───」

「はい、凄く素敵です………」


 正直、毎回あまり違いは分からない……


「リアム様とジェイミー様の帽子も、とてもお可愛らしいですよ!」

 女医は、天蓋の付いたベッドの上で、仲良く本を読んでいる、リアムとジェイミーを見た。2人は、お揃いの、モコモコとした白い毛糸の帽子をかぶっている。両の耳当てからは、茶色で編まれた毛糸が一房垂れており、頭のてっぺんには、赤い毛糸で、丸い模様が編まれている。


 リアムとジェイミーは、本から女医に視線を上げると、2人揃ってニコッと微笑んだ。

「まぁ!天使っ…………」

 女医は可愛さに悶えている。


「あの帽子は、ンハゴ族の子どもが身につける物です。頭のてっぺんにある、赤い丸の模様は、ンハゴ族の民族衣装に度々見られる模様で、彼らはそれをシボメウと呼んでいました。」

 今朝リアムが、マフラーが伸びてしまったと大泣きしていた。見ると確かに伸びていたので、編み直してあげた。そのついでに、お揃いの帽子も編んで、プレゼントしたのだ。

 ンハゴ族の集落では、子ども達が皆、この帽子をかぶって遊び回っていて、凄く可愛かった事を覚えている。


「そうなんですねー!リアム様、ジェイミー様、ンハゴ族の衣装、お似合いです。」

 女医は、羨ましそうに帽子を見つめた。

「よろしければ、先生にもお作りしましょうか?あの帽子は、子どもがかぶるデザインなので、ンハゴ族の大人用のデザインでお作りしますよ。」

「えっ……!ジルベール様、よろしいのですか⁈」

 女医は目を輝かせた。

「もちろんです。色は、紺色が良いですか?」

「やだ!ジルベール様ったら。私は紺色じゃなくて良いですよ。緑が良いです!」

「そうなのですね……分かりました。」



       ───コンコン───



「失礼します。ジルベール様、ノア様がお帰りになられました。」

 女医がンハゴ族の帽子を喜んでいる時、客室の扉がノックされ、部屋の外から執事がそう告げた。


「ジルベール様、丁度準備も終わりましたし、ノア様をお出迎えに行って下さいませんか?」

「僕も行くっ!」

「僕もっ!」

 リアムとジェイミーが、帽子をかぶったまま、ベッドの上から元気良く飛び出して来た。

「よし!皆で行こうか。」

 私がそう言うと、リアムとジェイミーは私の手を、左右からそれぞれサッと繋ぎ、元気良くぴょんぴょん跳ねた。


 可愛いな。本当に、ンハゴ族の子どもみたい。彼らにも、また会いたいなぁ……


────────────


「キャハハハハ!ノア、おかえりなさい!」


 玄関ホールから2階へと続く階段を、リアム達と両手を繋いだジゼルが下りて来た。双子の甥は、何やら白い、奇妙な帽子をかぶり、はしゃいでいる。


「お待ちしていました、少佐。」


 リアム達の甲高いはしゃぎ声に混じって、ジゼルの柔らかな声がした。こちらを見上げながら、微笑んだ様な顔をしている。

 ジゼルは今日も、紺色の服を着ていた。彼女の銀色の髪は、左右から一房ずつ丁寧に編み上げられ、白い、小さな耳が見える。


 紺色の服──着せられているのだと分かってはいるが……可愛すぎて、何だか気恥ずかしい……


「ジゼル、これを────」


 昨日と同じ花屋で買い求めた花束を、ジゼルに手渡した。今日の花は、黄色と白の小花だ。小さい花だが、野山に咲く、野生の花の様に力強く咲いており、彼女に似合いそうだと思った。


「わぁ………ありがとうございます、少佐。」


 ジゼルは、花畑に顔を埋める様に、花束から(こぼ)れ落ちそうに咲く花に、顔を寄せた。



「凄く、綺麗────わわっ!少佐⁈」



 ノアは花束を持つジルベールの両脇に手を添えて、両手で高く抱え上げた。紺色のドレスの裾が、ふわりと揺れ、ジルベールは目を丸くした。


「ジゼル、待たせてすまなかった。君の客室で、一緒に夕食を食べよう。」

 ノアは瞳を緩ませてそう言うと、そのままさっと、ジルベールの腰に右手を回して、ジルベールを小脇に抱えた。そして、さっさと階段の方へ向かって行く。

 ジルベールは、両手で花束を持ったまま、両足をジタバタさせている。執事達は慌ててノアを止めようとしたが、ノアは気にも留めない。──ジタバタ、ジタバタ──


「ノアッ!ジゼルを返せっ!」

「ジゼルを下ろしてっ!」

 リアムとジェイミーが、ノアの黒い軍服の裾を引っ張った。ノアは、纏わり付く、奇妙な帽子の双子をちらりと見て、近くで見れば案外可愛らしい帽子かもしれない、と考えた。──ジタバタ、ジタバタ──


「返せだ?お前達、それはこっちのセリフだ。何の権利を主張しているのか分からないが、彼女を自由にする権利は俺に────」──ジタバタ、ジタバタ──

「待て待て待て待てちょっと待てっ!お前は一体何をしているんだっ!」

 ノアが帰宅したと聞いて、一足先に帰っていたジョセフが、リビングからやって来た。


「……只今帰りました、父上。」──ジタバタ、ジタバタ──

「帰りました、じゃないんだよ!彼女を下ろしなさいっ!そんな荷物でも持つ様な抱え方をして──全く正気を疑う!」

「私の正気をお疑いなので───」──ジタバタ、ジタバタ──

「疑って止まないっ!ノア、客室に行く前に、一度リビングに顔を出しなさい。」──ジタバタ、ジタバタ──

「父上、夕食は彼女と客室で食べますので。お気遣いは不要です。」──ジタバタ、ジタバタ──

「お気遣いはしていない。エマが、お前達が揃ってリビングに来るのを待っているんだ。」──ジタバタ、ジタバタ──

「…………」──ジタバタ、ジタバタ──

 ノアは、小脇に抱えるジルベールをぎゅうっと握りしめた。──バタタタタタタ──

「ノア、早くジゼルを下ろしてよーっ!」

「ノア、お前少しは…エマを、安心させてやってくれ。」──バタタタ、バタタタ──

「………安心?……………」──バタタタタタタタ──

 ノアはため息を付いてジルベールを下ろし、下ろされたジルベールに、リアムとジェイミーが、さっと纏わり付いた。



……

…………

………………



「ノア、帰ったのね。まぁまぁ、ジゼルさん!素敵なお花だわ!ノアが選んだの⁈貴方にしてはセンスが良いわね。」

「ありがとうございます、母上。」

「ほら、座りなさい!ジゼルさんも。」

「ありがとうございます。」



………………

…………

……



「ノア坊ちゃん、お待たせしましたね。今日は東方のお茶を淹れましたよ。木の実のケーキにも、合うと思います。あと、おまけでこれも。ふふ、懐かしいでしょう?」

「本当だな…懐かしい。ありがとう。」

 料理長は、微笑みながらノアにティーセットと木製のボウルを渡した。


 結局、リビングに待ち構えていた母親があれこれと話し出し、俺とジゼルに執事が夕食を持って来る、という流れになってしまった。始終上機嫌な母親と、暖炉の前でリアム達と遊ぶ父親、しばらくして兄夫婦もやって来て、リビングを出る頃にはすっかり満腹になっていた。外には月が登っている時間だろう。

 ジゼルとは、客室で茶を飲む程度にしようと思い、彼女に先に客室に戻る様に告げ、厨房にティーセットを貰いに来たのだ。


「ノア、」

 厨房を出ると、直ぐに父親が声を掛けて来た。俺を待ち構えていたのだろうか。

「………なんでしょう、父上。」

「今日は、エマの我儘を聞いてもらって、すまなかったな。だが、エマも喜んでいたよ。」

「それでしたら、良かったです。」

「ノア、彼女の部屋に行くのか?」

「はい、そうですが。」

 父親は、よく分からない表情をして、こちらに向き直った。


「ノア、言っておくが……お前達は、まだ婚約していないのだからな。分かっているよな?」

「父上─────」

「なんだ。」


「何故、父上は、そう嫌な事ばかり仰るのです?」─しゅん─

「はぁっ⁈事実を言っているだけだっ!お前さては一切反省していないなっ!」

「何の事でしょうか。」

「貴様………」


「ノアッ!」

 ジョセフがノアのティーセットを取り上げようとした時、リアムが子供らしい、高い声を上げながら走って来た。


「リアム……」

 さっさとジゼルの客室に行きたいのだが……どうしてこいつらは邪魔ばかりするのだろうか。


「やっぱりここに居た!ノア、ジゼルのお部屋に行くんでしょ!僕も行くっ!」

 ノアは盛大にため息を付いた。

「駄目だ。」

「どうしてさっ!」

「お前はもう、寝る時間だろう?」

「やだっ!僕もジゼルと遊ぶっ!」

「そんな時間は無い。」


「じゃあ、2人で何するのっ!」

「何、と聞かれても───」

 リアムはノアを、同じ紺色の瞳で、じっ、と見上げた。

「ノアも、ジゼルにお話してもらうの?」

「……………」


「ノア、お前は子ども相手に何を言い悩んでいるんだ!リアム、お前はもう寝る時間だ。子ども部屋に行こう。」

 ジョセフが呆れた様にノアを睨みながらリアムの手を取った。

「やだやだ!ジゼルの所に行くっ!」

「じゃあ、おじい様と一緒に寝ようか。おばあ様も居るよ?」

「え⁈おじい様とおばあ様と⁈……いいの⁈」

「もちろんだよ。ノア、くれぐれもさっき言った事を忘れるなよ!」

「ノア、おやすみー!」

 リアムは、大好きな祖父に手を引かれ、祖父母の寝室に向かっていった。

 騒がしい者達がやっといなくなり、ノアはため息を付いた。


 アイゼン家(うち)がこんなに騒がしい場所だった記憶は、無かったのだが……


────────


「ふー……結局、お腹いっぱいになっちゃった。」

 ジルベールは、今日ノアに渡された花を、白い花瓶に生けて、窓辺に置いた。

 テーブルの上には、昨日貰った花が、まだ生き生きと咲き続けている。


 お花があるだけで、お部屋が凄く、華やかになるなぁ。良い匂いもするし。

 あっ、そうだ!枯れちゃう前に、ドライフラワーにしようかな!



「ジゼル、待たせてすまない。寝てなかったか?」



 私の頭が、今日一番の閃きを見せた時、少佐が部屋に入って来た。

 少佐は、持っていたティーセットをテーブルの上に置いた。そして椅子を引き、窓辺にいる私に手招きをした。


 私が引かれた椅子に座ると、少佐は手際良くカップにお茶を注いでくれた。

「料理長が、今日は東方の茶にしたらしい。」

 向かいの椅子に座りながら、少佐が言った。カップの中では、金色のお茶が揺れている。

 その隣には───

「わぁ、木の実のケーキだ!あと、これは………」

 木の実のケーキの他に、市場の出店でもよく見かけるものが、木製のボウルに山盛りに入っている。


「ポテトチップスだな。」


 少佐はキリッとしながら言った。庶民的なお菓子なんだけど、少佐の口から聞くと、何だかちょっと、格式高い物に昇格したみたいだ。

「ふふ……」

「ジゼル、何がおかしいんだ?」

「あ、いえいえ。何でもありません。こんなに山盛り…美味しそうですね!」

 薄切りのジャガイモを、カリカリになるまで油で揚げて、塩と胡椒が振られている。

「揚げたてだ。」

 少佐は、少し嬉しそうに瞳を緩めた。

「少佐、ポテトチップスお好きなんですか?」

「ああ。」

 即答するなんて……

「そんなに目を丸くして…驚く事では無いだろう?」

「いえ……以外だな、と思いまして……」

 少佐は、何か考える様な顔をした。


「まだ、入軍する前の子どもの頃………遅くまで部屋で本を読んでいると、料理長がこれを持って、部屋に様子を見に来てくれていた。食べ終わったら寝る様に、と。最初は本当に、本を読む事を止められなくて、起きていたのだが、そのうち、これ目当てで、頑張って夜更かしをする様になった事を覚えている。」

 昔を懐かしむ様に話してくれた少佐の顔は、リアムに似て見えた。

「少佐も……そんな事するんですね。」

「誰にでも、子どもだった頃はあるだろう?」

 私が笑いながら言うと、少佐は少し拗ねた様に言って、ポテトチップスを一枚食べた。

 少佐の口から、カリッと乾いた音がした。


「だが…こんなに山盛り貰った事は、無かったぞ。記憶が正しければ、俺の時は小皿に少しだった。」

 少佐はカリカリと音をさせて食べ続ける。

「じゃあこれは、ほとんど私の分ですね。」

「君は欲張りだな。」

 私も一枚手に取って頬張った。乾いた、軽い音がするそれは、市場で食べた時より、美味しい気がした。

「あの──」

「何だ?ジゼル。」



「少佐は……お幾つの時に入軍されたのですか?」



 私は思い切って、気になっていた事を聞いた。

 少佐は、アイゼン家の人だから、早くから軍に居ると聞いたけど……いつからなのだろうか。


「俺か?6歳の時だ。」

「6歳⁈」

 私はびっくりして大きい声を上げてしまった。だけど、少佐は何事も無かったかの様に、ポテトチップスをパリ…と噛み砕いた。


 私やオーウェンでも、10歳の時からなのに。

 そんなに……小さい時から……

 アイゼン家に生まれたから───


「嫌では……無かったのですか?」

 私の問いかけに、ポテトチップスを食べながら、少佐はこちらを見た。本当に、大好きなんだな。ポテトチップス……

アイゼン家(このいえ)に生まれた以上、軍人になる事は決まっている。特に疑問に思った事は無い。戦果を上げ、役割を果たすだけだ。」

「そうなのですね……すみません、込み入った事をお聞きして……」

「構わない。それに───俺は、君と違って、他にやりたい事がある訳では無いからな。」

 少佐は、無表情に見える顔で、そう言った。だけど…きっと、何か考えている。


「私の……やりたい事……」

「ああ。君に比べたら、自分は空洞の様にさえ思う。」

「………そんな事は───」

「だが───」

 少佐は、ポテトチップスを食べる手を止めて、私を見た。


「ジゼル、君に会ってから……俺にもやりたい事が出来てきた。」

 そして、軍服のポケットから、何やら四つ折りにされたチラシを出して、テーブルに広げた。

「これは───」

「兄上に、教えてもらったのだが……ジゼル、君は街へ食事に行きたいと、言っただろう?俺と、一緒に行ってくれないだろうか。」

 ジルベールは、広げられたチラシに目を落とした。



        〜リソー国 市場〜


          肉の祭典


 各国の腕利の狩人達が狩った、珍しい肉が市場に勢揃い!!普段流通の難しい物も、新鮮な状態で、並びます。その場で焼いて食べれば、お口の中に幸せが……ぜひ、ご家族、ご友人と。

 警備はもちろん、安心のリソー警察と、リソー国軍にお任せ下さい!



「君が、興味があるのでは無いかと思って……その……無理にとは言わない。」

 軍事基地から広がる、市場一帯を上げて行うこのイベントは、どうしても行きたかったものだ。だけど、数日後から始まるため、日程が野営訓練と重なっていて……懲罰覚悟で抜け出すか、迷っていたのだ。

「行っても良いんですか⁈私……凄く行きたくて……!」

「ああ。リーには、適当に言い訳しておく。一緒に行こう。」

「ありがとうございます、少佐。」

 本当に…夢見たいだ!


「やっぱり、知っていたのだな。このイベントを。」

 喜ぶ私を他所に、少佐は、何か含みのある言い方をした。もしかして───

「少佐、知ってるも何も……」

「そうだな。」



「このチラシ、広報部の仕事で、私がイメージモデルですから。」



 そう、広報部の仕事で、私がモデルとして写真撮影をし、チラシ一面に載っている。

「…………」

「少佐、このチラシに、何か仰りたいのですか?」

「いや……別に意見はないのだが……」

 少佐はチラッと私を見た。



「どうして……君は裸で彫像を抱えているのだ?」



 そして、ポスターの私に意見をしてきた。意見は無いって言ったのに。


 少佐の言う通り、ポスターに映る私は、両足を折って床にペタッとつけて座り─俗に言う女の子座りで─裸で彫像を抱えている。


 裸で彫像を抱えている───


「いや、どうしてなのかは私が聞きたいですよっ!でも、広報活動の写真やポスターの構図は、全てアデル部長に一任されているんですっ!」

 私はテーブルをバンバン叩いて抗議した。衝撃で跳ね上がったポテトチップスが数個、ボウルから飛び出してテーブルの上に落ちた。

「君の案で無い事は、もちろん理解している。だが……言わずにはいられなかったというかだな……」

 少佐は、口に手を当てて、小さく震えている。


「祭典のポスターなのだろう?関係無いのではないか?君が裸で彫像を抱える事と、一体何の繋がりが……ふ……ふふっ───」

 少佐はついに、我慢出来ずに笑い出した。

「あっ!酷いです少佐っ!笑うなんて……」

「君だって、さっき俺がポテトチップスと言った時に笑っただろう?お互い様だ……ふ……あはははは!」

「むー…………」

 ジルベールは、額を押さえて大声で笑うノアを睨みながら、頬を膨らませ、怒りでぷるぷると震えている。


 確かに。少佐の言う通りなのだ。肉の祭典という、楽しそうなイベントのポスターなのに、私が裸で床に座り、何故だか大事そうに彫像を抱えている。

 彫像は、顔の左半分が故意に割られて欠けている─アデル部長曰く傑作─白い石膏作りの筋肉質の男の上半身だ。そんな彫像に、私は愛おしそうにおでこをぴたっと付けている。

 正面に彫像を抱えているせいで、私の体はほとんどが、彫像に隠れて見えないが、肩や腕、足、腰の一部と、若干お尻が……晒されている。


「わ……私だって……一応抗議したんですよ⁈こんなポスターで……集客出来るのかなって。だけど…アデル部長が絶対これで行くって……う……うう…」

「ジゼル、泣くな。昨日、軍でこのポスターの反響について聞いた所、確かに賛否両論あったそうだが、最終的にはその芸術性が高く評価され、かなりの集客が見込めると結論付けられたらしい。悪いが、俺は芸術の分野には詳しくないため、評価の内容は上手く説明出来ないが──ふ……ふふふ……」

「笑ってるじゃないですかっ!」

「いや、すまない。ふ……ふふ……だが、多少過激過ぎると個人的には思うからな。今後は露出を控える様、広報部に伝えよう。」

「本当ですか?お願いします。」

 私はすがる様に少佐を見た。少佐は、ポスターを手に取って、じっと見つめた。



「しかし…広報部の撮影技術は凄いものだな。」

「え?」



「顔の傷もそうだが……肩や腕の古傷も、綺麗に消されている。右肩と、ここにもあるはずだ。あとここも……残念ながら下半身は見てない為分からないが、もしかすると、ここは古傷があるのでは──」

「…………………」



────────────



「何の騒ぎだっ!ジル大丈夫か⁈ノアッ!お前はまた何を───」



 ジゼルの客室からすごい物音がすると、執事から連絡を受け、ルーカスが客室に飛び込んだ。


「この………」

「ま、まて……何を怒っているんだ⁈落ち着いてくれ、ジゼル!笑ってしまった事は謝罪するが、俺は決してこのポスターを悪く思っている訳では……むしろ、叶うならこの彫像に───は、早まるなジゼルッ!キャーッ!」 

      ──ドカバキグシャ──


 客室の中では、椅子を振り上げるジルと、床にへたり込んで今にも椅子を振り下ろされそうなノアが悲痛な声を上げていた。

 そして止めに入る前に、椅子は振り下ろされ、ノアは一般市民の様な叫び声を上げながら椅子をかわし、椅子は足の方からノアの真横で粉々に砕け散った。ノアは木片と化した椅子を、目を見開き、息を呑んで凝視した。


「君達、これは一体……とにかく、止めなさいっ!椅子がいくらあっても足りないよっ!」

「少佐のバカッ!あっちへ行けっ!」─バキッ─

「キャーッ!」

「ノア、君被害者面してるけど、どうせまた何かしたんだろ!」



         ──ススス──

 大人気も無く、大人達が騒ぐ中、ルーカスに付いて来たリアムが、ドアの隙間から、そっと部屋へ入って来た。

 そして、テーブルの上に、山盛りのポテトチップスを見つけ、こっそり取ろうと近寄った。だが、ポテトチップスの横に置いてあるチラシに気付き、それを目にして固まった。



         ──バタッ──



「リアムッ!」

 大人達は、テーブルの横で、音を立てて倒れたリアムに気付くと、冷静になり駆け寄った。

 そこには、チラシを握りしめ、何かに……恐らくは芸術に目覚めてしまったリアムが、鼻血を出して仰向けに倒れていた。


ベーコンちゃんの愉快な仲間達紹介

ジゼルの周りの人達を、紹介していくよ!プルル!


〜ガルシア家編〜


「ジルベール(ジゼル)・ガルシア」

ガルシア男爵令嬢。

好きなものは肉と酒、木の実のケーキ、テオドール。

嫌いなものは紫煙草と軍人。

狩の腕は本職に引けを取らない。よく酔っ払って朝帰りする。

何故か、アイゼン家の一部の人間から執着される。

愛称:ジル


「ジキル・ガルシア」

ジルベールの父親、ガルシア男爵。退役軍人。

現役時代の剣の腕前は、軍内でも上位だった。

ジルベールの軍人としての活躍を、密かに期待している。(公にすると、フレイヤが怒る)


「フレイヤ・ガルシア」

ジルベールの継母、ガルシア男爵夫人。強い。

ジルベールが軍人である事に反対しているが、ジルベールの酒癖の悪さには何故か寛容。


「メイジー・ガルシア(ミラー)」

ジルベールの腹違いの妹。フレイヤの子。強い。

オーウェン・ミラーと結婚。


「テオドール・ガルシア」

ジルベールの兄。ジルベールが10歳の時に殉職。

痩せていたが大食漢だった。ノアの同窓で戦友。

愛称:テディ


「エイダン」

ガルシア家の、数少ない執事の執事頭。

テオドールとは乳兄弟であり、友人。ジルベールとメイジーの教育係。淑女教育を受けていないジルベールを、特に気にかけている。料理が得意。


「ベーコンチャン・ガルシア」

銀色で、ふわふわの毛並みの、可愛いロバだよ!

好きなものは、肉とお花(食べるよ!)。

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