4.どしゃ降りの紅茶
「それにしても酷い雨だな」
隣国の山間部での、偵察任務中、どしゃ降りの雨になった。何とか岩陰に避難出来たが、服も靴も泥水まみれだ。
「足跡にさえ気をつければ、活動しやすくていいじゃないか、ノア。」
一緒に偵察任務に来ているテオドールが、ずぶ濡れの上着をしぼりながら笑う。
上着からは大量の水が落ちてくる。
雨足は更に酷く、岩陰から落ちてくる水は、滝の様になってきた。
「まぁこの雨じゃ、しばらくは動けそうにないな。残りのルートの確認でもしておくか。」
岩陰の奥の、濡れていない地面の上に地図を広げた。
「それでも時間は余りそうだな、この雨足じゃ…2日は延びるかな?」
「そうだな。地面も泥濘むだろうから、速くは進めない。帰ったら何か予定があったか?」
「いや、特にはないけど、久しぶりに国に戻るからね。妹が帰りを楽しみにしてくれているんだ。」
テオドールの色の薄い金色の髪から、耐えず雫が落ちている。テオドールは荷物の中からタオルを取り出し、髪の毛をゴシゴシと拭きながら地図を覗き込んだ。
「かわいいんだ、ジゼルは。家に居ると、お兄さまお兄さまってずっと後をついて来てね。」
「そうか。俺は下の兄弟がいないからな、分からないな。」
「あ〜そうだったな!じゃあ俺を兄さんだと思って、後をついて来てもいいんだぞ。」
「バカ言うなよ。」
「冗談だ。」
テオドールは白い歯を見せて、人の良さそうな笑顔を見せた。
「今度暇な時にでも、うちに来いよ。ジゼルと遊んでやってくれ。」
「お前の家か、行ってみたいな。」
「最近ジゼルはお茶会ごっこにはまっているんだ。ジゼルは木の実のケーキが好きでね、それと紅茶を淹れてくれるんだけど、カップに注ぐとき大体溢れさせるんだ。」
「大胆なレディになりそうだな。」
「本当だよ。大胆すぎて、父は嫁ぎ先を心配してる。大きくなったらお前がもらってやってくれよ。」
「俺の家は代々軍人の家系で、中々家に居ないし、いつ死ぬかも分からない。そんな夫じゃ妹がかわいそうだぞ?」
「そういう意味じゃ、俺の家の方がよっぽど前から軍人の家系だぞ?しかも強制的に!妹も軍人がどういう仕事か分かってるから、理解があるしお似合いだぞ!」
「確かにそうだな。カップから紅茶を溢れさせなくなったら、俺で良ければもらってやるよ。」
「じゃあ無理かもな。あの子は大きくなってもカップから溢れ出させそうだ。結婚は諦める様に言っておくよ。」
「テディ、どんだけなんだ、お前の妹は。」
岩陰の外では、カップから溢れた紅茶の様に、大量の雨が降り続けている。