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ウォンバットの森

ウォンバットの森


 マリア・アイランドの散策コースは、私たちがまわったような1~2時間の日帰り観光客用だけでなく、1日がかりの登山ルートや自転車による周遊コースもあるようです。まだ時間があるので、フォッシル・クリフの反対側のルートをたどってみることにしました。

 19世紀に植えられたとおぼしきどっしりとした並木道から、ルートはすぐに森の中に。ユーカリの森は落ち葉ならぬはがれた樹皮が地表を覆っています。倒木のかげや梢近くに小鳥がちらほら見え隠れ。さあて、わからない、わからない。

 バードウォッチングでは、まず10種かそこらの基本種を脳裏に焼き付けて、そこから類推して行きます。見られた環境や、よく見られるものかどうか等で似たものをいくつかにしぼりこみ、そこに識別ポイントを加えて、日本であればたいていの鳥はしっかり見えれば(聞こえれば)種類がわかるはず。ところが、国外ではそもそも基本種が頭に入っていない。それでも、お弁当を食べた広い草地で近くにきたフレイム・ロビンーノドアカ三食ヒタキーの雄は見誤りようがないと思いました。鮮やかに光って見えるような蛍光色の赤。図鑑にはジョウビタキと大差ないオレンジ色に描いてあるのですけれど。だけど、ああ、翌日見られたスカーレット・ロビンーサンショクヒタキーとのどが赤か黒かで見分けなくちゃいけなかった。

 ひらっと近くの枝に止まった鳥。「あっ、カッコウ」と尚ちゃんに言われて、え、そうだったの、とびっくり。ウチワヒメカッコウ。動いた時に尾羽の白黒もようがくっきり。「フ、ピィー」と繰り返し聞こえる声、口をとじたままです。のどがかすかに動くので、この鳥が鳴いた、とわかるまでにずいぶん時間が。

「ワラビー!ほら、すぐそこ」 倒木の後、そう言われてよく見ると、丸い耳の輪郭が見えてきました。距離は10メートルと離れていなかったでしょう。フォレスト・ワラビーというだけあって、背景の森にしっくり溶け込んでいました。

「あ、あれ、ウォンバットじゃない?」

 ひとかかえもありそうなベージュ色の背中がガサガサと下生えのシダを分けて行きます。しげみの切れ目で、ほとんど全身を見せたまま、おちついて草を食べ始めました。全体の感じはコアラみたいで、ネズミ+クマのようなかわいい顔をしています。もう1頭出てきて、ちょっと小走りに追いかけあいをした後も、しばらくお食事。なかなか姿は見られないそうで、尚ちゃんも大喜びしています。大きさはふとった中型犬といったところでしょうか。なんとなく暗褐色の姿を想像していたのですが、白っぽい淡い色、ちょうどはがれたユーカリの樹皮のような色合いでした。糞が四角い(ホントです)とか、お尻がとても硬くて、まだ小さいうちからお尻を向けて攻撃してくるとか、ずっとウォンバットの話を尚ちゃんに聞いていたところ。

 ゆっくり姿を見せてくれてから、シダのしげみに姿を消しました。そのすぐ後で、別方向を小走りに逃げるウォンバットがもう1頭。3頭も出現してくれたわけ。らっきー!ウォンバットは導入種とは書かれていなかったので、きっすいの野生状態を見たことになるのでしょうか。大型の捕食者がいないせいか、何となくもたもた、おっとりとした、どんくさい様子が魅力的。


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