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風の少女と呪いの絆4  作者: たき
2/7

(2)

思ったより早めに書けたので投稿します。

 翌日、登校したリリーはセピアやオルトと別れた後にソールを見つけ、声をかけた。さっそく父から聞いた例の調味料の使い方を伝えると、ソールがあごをなでながら「なるほど」とうなずいた。

「となると、煮込み料理にも使えそうだな」

 ついでに相性のいい調味料もリリーが教えていると、ルテウスとフォルマとレオンがやってきた。

「朝からずいぶん話し込んでるけど、何か深刻な話?」

 フォルマに聞かれ、リリーは笑って調味料のことだと説明した。

「キュグニー先生って本当に料理が好きなんだね。ソール、この際だからキュグニー先生に弟子入りする?」

 レオンの勧めにルテウスが眉をひそめた。

「キュグニー先生の貴重な時間をそんなものに使わせるつもりか?」

「お父さんなら喜ぶと思うよ」

「じゃあ、俺も行く」

 あっさり意見を覆すルテウスに、全員があきれた。

「お母さんと和解して、少しはキュグニー先生熱がおさまったかと思ったけど」

 肩をすくめるレオンに、「それとこれとは話が別だ」とルテウスが言い返す。

 もし本当にファイに教えを請うなら絶対に自分も誘えと念を押して去っていくルテウスに、レオンとフォルマもやれやれといったふうで後を追う。中央棟に入ったところで、リリーはソールに質問があったことを思い出した。

「ソールの守護神って何?」

「風の神だ」

 以前は、武闘学科生の守護神は一回生の合同研修の時に調べられていたが、両親の在学中に起きた粉蜘蛛事件がきっかけで、今は入学試験時に全学科で守護の儀式をおこなうようになっている。

 ソールが自分と同じ守護神であることに内心で喜んでから、はたとリリーは思い出した。ジェソは炎と風の紋章石が売れていると言っていなかったか。

「えっと……じゃあ、好きな色は?」

「好きな色……」

 返事に詰まったソールの視線が泳ぎ、最後にリリーに定まる。じっとリリーを見つめていたソールの口からぽろりと「……緑」と答えが漏れた。

「ああ、いや、何でもない」

 逃げるように離れていったソールを見送り、リリーも一限目の教室へ向かった。



「リリー、待って。どうしてそんなに急いでるの?」

 放課後、セピアやオルトに捕まる前に学院を出るつもりだったリリーは、追いかけてきたセピアに言葉をにごした。

「あー、うん、その……ちょっと急用があって」

 リリーが目をそらしたことで、セピアは何か勘づいたらしい。半目でずいっと一歩迫る。

「あやしいなあ」

 そのとき、水の法専攻生がセピアを呼んだ。

「セピア、頼む、助けてくれっ」

「何?」

「今日の放課後までに提出する課題が終わらないんだ」

「トニ―に教えてもらえばいいのに」

 水の法専攻一回生副代表の名前をセピアがあげると、男子生徒が首を横に振った。

「トニーは先に帰っちゃったんだよ。頼む、このとおりっ」

 拝み倒す同期生に、セピアは眉間にしわを寄せた。

「もう、しょうがないなあ。ケローネー先生なら少しくらい遅れても落第にはしないと思うけど」

「いや、あの口調で長々と説教されるのは拷問だぞ」

「確かにね」とセピアは笑った。そしてふり返ったセピアが何か言うより早く、「私は一人で帰るね」と告げてリリーは駆けた。

 セピアを足どめしてくれる人がいてよかった。オルトにも見つからないよう注意して正門を抜けたところで、リリーはようやく一安心して歩く速度を緩めた。  

 金額は昨日見ていたからわかっている。

 一人で行くのは勇気がいったが、誰かについてきてもらうのはやはり恥ずかしい。

 セピアにも内緒で動くのは初めてかもしれないと考えながら武具屋を目指していると、後ろからポンと肩をたたかれた。

 飛び上がってかえりみる。セピアがにんまりした顔で立っていた。

「セ……」

 叫びかけ、周囲を見回す。他に誰もいなかったのでひとまずほっとしたものの、リリーは困惑した。

「さっきの人の課題の手伝いは?」

「途中でレオンたちに会ったから押しつけてきた。だって気になるじゃない。リリーってばあきらかに変なんだもん」

 リリーはがっくりうなだれた。うまく逃げ切れたと思ったのに。

「それで、どこに行くつもりなの?」

 追及され、リリーは観念した。

「……ちょっと、武具屋に」

「武具屋? シータさんにおつかいでも頼まれたの?」

「違うの。その……お守りを買おうかなって」

「もしかして、ジェソ叔父さんのお店のお守り?」

 思い当たったのか、セピアが手を打った。

「ってことは、リリー、好きな人にあげようとしてる?」

「あっ、ちが……」

 否定しようとしたが、できなかった。さすがにもう自分でもわかっている。こんなふうに行動したい相手は一人だけだから。

「……ソールの誕生日、もうとっくに過ぎてて。誕生会は来年でいいって言われたんだけど、何かあげたいなって思って、それで……」

「ソールが好きなのね?」

 確認のためか質問を繰り返してきたセピアに、間を置いてリリーはこくりとうなずいた。 

 気のせいか、セピアが安堵したように笑った。

「うん、いいと思うよ。ソールも絶対喜んでくれるよ」

「そう……かな」

 正直、あまり自信はなかった。もうすでに本命だけでなくたくさんの女の子から似たようなものを受け取っている可能性が高いのだ。

 だから別のものにしようかと迷ったが、結局悩んだすえにお守りに決めた。冒険をするなら、やっぱりこれしか思いつかない。

「リリーから贈られて万が一にも突き返すようなら、私がしばき倒してやるわ。ほら、早く買いに行こう」

 セピアがリリーの背中を両手で押す。何だかセピアのほうが浮かれているように見える。それを不思議に感じながら、リリーはジェソの店の扉を開いた。

「……こんにちは」

 おずおずと顔をのぞかせたリリーを、ジェソが「いらっしゃい」とにこやかに迎える。リリーは店内に誰もいないことを確かめてから、セピアを連れて入った。

「今日はセピアが一緒か」

「ついてきちゃった。こんにちは、叔父さん」

 笑い合うジェソとセピアの雰囲気はやはり似ている。武闘館では総代表を務めたほどなのに、ジェソはとても優しい空気をまとっていた。

 妻のミュイアとは同い年で、リリーの母を介して親しくなったという。二回生の神法学科野外研修でミュイアの護衛を引き受けたことを機に交際が始まったらしいが、二人とも周りに言いふらすような性格ではなかったため、皆がそのことを知ったのは交流戦後の舞踏会だったと、母が笑いながら教えてくれた。

 剣士に店を継がせたかった先代店主カラモスは、娘の選んだ男が槍の使い手だったことを残念がってはいたものの、ジェソの腕と人柄を高く評価していたので、結婚を反対することはなかったと聞いている。

「へえー、これが噂のお守りね」

 セピアが陳列されているお守りを興味深そうに眺める。リリーは緑色のお守り袋をまず取り、次に青い紋章石をつかんだ。

「これください」

「風の紋章石でいいのかい?」

 リリーは恥ずかしさにうつむいて「はい」と小さな声で返事をした。

 ジェソが動かないのでリリーが不審に思って顔を上げると、何やら考え込んでいるふうだったジェソが「ああ、ごめん」とごまかし笑いを浮かべた。

「ちょっと予想がはずれたものだから」

 値段を告げて、ジェソが紙袋にお守りと紋章石を入れる。

「はい。君の武運を祈ってるよ」

「ありがとうございます」

 代金と交換で受け取った紙袋を胸に抱くと、触れたところがぽかぽかと温かくなった気がした。

「セピアは買わないのかい?」

「私は……まあ、そのうちね」

 ジェソの問いかけにセピアはあいまいに微笑み、視線をそらした。

 店を出て、ふうと大きく息を吐く。思っていた以上に緊張していたらしい。リリーは「買っちゃった」とセピアに照れ笑った。

「後はソールに渡すだけだね」

「うん……セピアは好きな人いないの?」

 交友関係の広いセピアは、女の子だけでなく男子生徒ともよく話している。治療室に行かずにわざわざセピアに治療を頼みにくる武闘学科生もいるし、神法学科に編入してすぐ友達が増えたのも、セピアのおかげだ。

 リリーの質問にセピアの表情がくもった。

「……いる……けど、片思いみたいだから」

 一度目を伏せてから、でも頑張ってみるとセピアが笑顔をつくる。誰だろうと気になったが、それ以上突っ込んで聞いてほしくなさそうだったので、リリーは話題を変えることにした。



 次の日の放課後、リリーは更衣室に入ったソールが出てくるのを、少し離れた場所で待っていた。セピアがリリーの肩をしっかり抱いて、落ち着かせてくれている。

 大丈夫。告白するわけではないし、ただ誕生日の贈り物を手渡すだけだから――頭の中でソールへの言葉を何度も練習しながら深呼吸したところで、ようやくソールが現れた。

 しかし当たり前のように、カルパたち同期生が一緒にいる。そのままリリーに気づかず彼らと話しながら歩きだしたソールを、セピアが呼びとめた。

「ソール!」

 ふり向いたソールをセピアが手招きする。ソールが先に行くようカルパに言って近寄ってきた。

「何だ?」

 セピアが軽くリリーを押す。一歩前に出たリリーはぎゅっと唇をかたく結び、ソールを見上げた。

「これ……遅くなったけど、誕生日おめでとう」

 手にしていた紙袋をソールに押しつける。

「……開けていいか?」

 リリーがうなずくと、ソールは一度紙袋を見つめてから中のお守りを取り出した。

 ソールの瞳が見開かれる。沈黙するソールに、リリーはあせって言い訳を並べた。

「あの、もうたくさんもらってるかもしれないけど……昨日セピアと一緒に買いに行ったの。いろいろ考えたけど、やっぱりお守りがいいかなって思って。ね、セピ……あれ?」

 助けを求めてふり返り、リリーはかたまった。いつの間にかセピアの姿が消えている。

 セピアを探してきょろきょろするリリーがあまりにも必死なさまだったのがおかしかったのか、ソールが吹き出した。

「ありがとう。大事にする」

 はにかんだ笑みを返され、リリーは泣きそうになった。何とかこらえて「うん」と微笑む。

 ソールがまぶしそうに目を細め、きびすを返す。廊下のずっと先からこちらを見ているカルパたちのほうへと向かうソールの背中をぼうっと見送っていたリリーは、いきなり背後からがしっと抱きつかれた。

「――キル!?」

 抵抗しようとしたところで相手がわかり、あげかけた悲鳴を飲み込む。どこかに隠れていたらしいセピアもやってきて、「ちょっと、キル、何やってるの」とキルクルスを引きはがしにかかった。

「リリー、僕の誕生日は『風の神が駆ける月』の一日なんだけど」

「え、そうなの?」

 目をみはるリリーに、キルクルスはじとっと恨めしそうな視線を送った。

「そうだよ。ねえ、僕へのお祝いは? 僕にもちょうだい」

 ソールだけずるいよとキルクルスが文句を垂れ流す。催促の嵐にリリーは嘆息した。

「わかったから、離して」

「くれると言うまで離さないよ」

「だからあげるってば。キルは何が欲しいの?」

 とたん、キルクルスが華やかな笑みを広げた。

「祝福の接吻」

「それはだめ」

 即座に却下したリリーに、キルクルスがむくれる。

「えー、なんで? くれるって言ったじゃない」

「それをあげるとは言ってないでしょ」

「リリーの意地悪。いいよ、じゃあ離さないから」

「もう、キル!」

 キルクルスはしがみついたまま、リリーの肩にぐりぐりと顔をこすりつける。のがれようとリリーはもがいたが、意外と力があるのか執念か、キルクルスはびくともしない。

「あっ、オルト」

 こうなったら奥の手だとリリーが告げると、キルクルスがぱっと手を離した。しかし嘘だとわかり、キルクルスはますますふてくされた。

「ひどいよ、リリー」

 キルクルスの猛抗議に耳をふさいでから、リリーは笑った。

「キル、時間ある? 帰りに屋台で何か食べて帰ろうよ」

「……リリーのおごりだよね?」

「もちろんだよ。お祝いだもの」

 まだ不満げではあったが、キルクルスが承知する。セピアがあきれ顔で言った。

「リリー、キルに甘すぎない?」

「そうかも」

「僕はもうちょっと甘くなってもいいと思うけどね」

「欲張りなんだから……セピアも一緒に行かない?」

 リリーの誘いにセピアは苦笑した。

「いいわよ、付き合う。リリーとキルが二人だけでいるのを本当にオルトに見つかったら、大変だしね」 

「あーあ。リリーの幼馴染がソールだったら、もっとリリーにべたべたできたのにな」

「今でも十分すぎるくらいべったりだと思うけど」

 遠慮なくぼやくキルクルスに、セピアが突っ込む。リリーはもしソールが幼馴染だったらどうなっていただろうと想像し、一人で照れた。

 お守りを断られなくてよかった。恥ずかしそうに受け取ったソールの顔を思い出し、リリーは速くなる鼓動を鎮めるために、そっと胸を押さえた。

 


 翌朝、生徒会室前の掲示板に『ゲミノールムの黄玉』の投票結果が貼り出され、大勢の生徒が群がった。

 リリーたちも騒ぎが少し落ち着いた昼休みに見に行った。噂で結果は聞いていたが、男子は接戦を制して『黄玉の騎士』に選ばれたのは、オルトだった。

「おめでとう、オルト。ソールとリリーとキルは惜しかったね」

 レオンの言葉に、リリーはかぶりを振った。自分としてはほっとしている。

 ソールは三位で、二位の三回生、一位のオルトとも僅差だった。男子は一回生が上位に食い込むことはあまりないので、オルトもソールも相当目立っている証拠だ。

 一方リリーは三位、キルクルスは四位だった。一位は三回生、二位は二回生らしい。

「やっぱりリリーとキルで票が割れたのが痛かったね」

「いや、そもそもキルに入れた奴、何を考えてるんだ」

 セピアのつぶやきにルテウスが顔をしかめる。キルクルスはまったく嫌そうではなく、むしろ「もうちょっと票がのびるかと思ったんだけど」と納得のいかない様子だった。

 四人以外にも一回生は炎の法専攻生のチュリブが九位、フォルマが十位に載っている。男子もレオンと弓専攻一回生代表のブレイが同数で十位に入っていた。

「本当にこの冒険集団ってすごいよね」

 セピアがため息をついたとき、「ああそうだ、セピア」とルテウスがポケットをさぐり、セピアに手紙を押しつけた。

「ほらよ。お前に渡してくれって頼まれた」

 全員の視線がセピアに集中した。

「え、それってもしかして告白?」

「へえー、セピアもやるね」

 レオンとフォルマが目をみはる。

「セピア、これで何通目?」

 私は一回ももらったことないよと感心するリリーに、「え!?」と驚きの声があがった。

「……ああ、そうか。リリーの場合、届く前ににぎりつぶされてるんだと思うよ」

 どことなくむすっとしている幼馴染をちらりと見ながら、レオンが苦笑する。

「そろそろ行くぞ。休憩時間がなくなる」

 オルトの声かけにうなずき、みんながぞろぞろと歩きだしたところで、レオンがセピアを肩越しに見た。

「セピアは誰かと交際する気はないの?」

「……いつかはって思ってるけど。そういうレオンは?」

「僕? 僕は、人の恋愛模様を眺めてるほうが好きだな」

「お前は眺めてるんじゃなくて、わざとかき回してるだろうが」

 あきれたさまのルテウスに、レオンは肩をすくめた。

「だって、そのほうが面白いじゃないか」

 誰かがつつかないと進展しない恋もあるんだから、とレオンがリリーに笑みを投げる。リリーはぎょっとして、慌ててよそを向いた。

「からかうのもほどほどにね」

 セピアが軽く注意する。そのまなざしが一瞬オルトの背中をとらえ、それていった。 



 放課後、セピアはリリーとの待ち合わせ場所である生徒会室付近まで来た。風の法の実習が長引いたようで、リリーは先ほどバタバタと更衣室へ駆け込んでいた。そのままリリーについていこうとしたキルクルスと押し合いになっていたのもいつもの光景だ。

 ふと、昼休憩のときに見た黄玉の投票結果が視界に入り、セピアは薄紫色の双眸を細めて揺らした。

 一回生ながら三位になるほど人気なのに、リリーは今まで一度も男の子から手紙をもらったことがないという。

 それはたぶんレオンの推察どおり、オルトが妨害しているからだろう。

 対する自分は手紙だけでもすでに四通はもらっているし、直接告白されたこともある。

 つまりオルトは、セピアに好意を寄せる人のことは見逃しているということだ。

(私のことは……どうでもいいの?)

 誰と付き合ってもかまわないと思っているのか。

 いらだちと悲しさに唇をかんだとき、甘ったるい声音が耳に届いた。

「あらあ? 投票結果を見て一人で落ち込んでる人がいるみたい」

 目をやると、チュリブを中心に炎の法専攻一回生の女生徒数人がくすくす笑いながら近づいてきた。

「何度見ても結果は変わらないのにね」

()()()()()が入ってないのがおかしいとでも思ってるんじゃない?」

 チュリブたちが横目にセピアをとらえたまま眼前を通り過ぎる。誰かが何か言ったのか、彼女たちはきゃあっと悲鳴に似た笑い声をはじかせて走っていった。

「……何なのよ」

 自分の名前が載るわけないのは最初からわかっている。ほんのわずかでも期待したことなどないのに。

 レオンに相手をしてもらえないからとやつあたりするのはやめてほしい。

 ため息まじりにくしゃりと前髪をかきあげたセピアは、いつの間にかグラノがそばに立っていることに気づいた。

「あんな奴ら、放っとけよ」

「……うん」

 全然気にしてないからとセピアが苦笑すると、グラノは「それならいいけどな。お前、おおらかに見えて意外と繊細だから」と言って隣に来た。

「グラノ、けっこう鋭いね」

 目をみはるセピアに「だろ? 俺はできる男だぞ」とグラノがにやりとする。

「訂正。やっぱりグラノは何か軽い」

「ひでえな。こっちは大真面目だってのに」

 グラノが顔をしかめる。それから二人は同時に吹き出した。

 軽口のおかげでもやもやした気分が少し楽になった。礼を言おうとしたセピアに、先にグラノが言葉を発した。

「お前、今日手紙をもらっただろう」

「なんでグラノが知ってるの? もしかしてオルトが――」

「大地の法専攻生がルテウスに頼んでるのを見たんだ」

 セピアは床に視線を落とした。オルトが愚痴でもこぼしたのかと一瞬はっとしたが、違っていたようだ。

「そいつと付き合うのか?」

「……断るつもりだけど、それがどうかした?」

 グラノには関係ないじゃない、とセピアはよそを向いた。

「なあ、セピア。俺のことどう思ってる?」

「どうって……」

「俺の恋人にならないか?」

「えっ……」

 突然の告白にセピアはかたまった。

 いつもの冗談でないことはグラノの表情でわかる。まっすぐに自分だけを見つめる黄色い瞳に、セピアは縛られた。

「お前がオルトを好きなのは知ってる。でもあいつはリリーのことが――」

「やめてっ」

 つい声を荒げてしまい、セピアは手で口を押さえた。そのとき、更衣室を出たリリーがこちらへ向かってくるのが見えた。

「ごめん、今は――」

 すぐに答えられない。うつむくセピアの肩にグラノがそっと触れた。

「考えといてくれ。じゃあな」

 グラノがリリーと反対方向へ去っていく。その背中をじっと見送るセピアに、リリーが声をかけてきた。

「セピア、遅くなってごめんね……どうかした?」

 リリーが小首をかしげる。セピアは「ううん、何でもない」と無理やり笑顔をつくり、リリーと一緒に下校した。 


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