第八話 黒の団子の謎
桃太郎たちは、鳥籠などを持って、紫金の家のほうに戻った。
ちなみに村長は、紫金が鬼だということに驚いた様子もなく、態度も変わらなかった。なんとなく気づいていたのだろう。
桃太郎と紫金が話している。
「しかし、なんで陰陽師は俺のことを狙ってきたんだ?ドンブラの火災が知られていて、危険だと判断されたにしろ、あまりにも強引すぎる。」
「陰陽師は情報網が広く、鬼には容赦がなさそうですな。」
「策もなく連行されていたら、どうなっていたことか。まあ策がなければ、すぐに歯向かっていたかもしれんが、面倒なことになっていた。」
「ワシは、冤罪を疑う話やら、鬼ヶ島の話やら聞いていたので、たまたま悪い事態を想定できました。それより…。
以前は詳しく聞きませんでしたが、あなたが昔、犬、猿、雉を仲間にした理由はなんですかな?」
「それは人から聞いて……」
桃太郎は考え込んでいる。
「あ!ひょっとして!」
桃太郎は何かを思い出したように、鳥籠の雉に向かって話しかけた。
「お前、話せるか?なにか人から食わされなかったか?団子とか…。」
雉が応えた。動物たちは、実際に言葉を話せる訳ではない。意思の疎通が出来ているだけだ。
「団子?食べてる。よく貰ってる。強くなる。」
桃太郎が紫金たちを集めて話し出した。
「聞いてくれ。まだ考えがまとまらないが、過去にあったことを話す。」
◇◇◇
数年前、桃太郎は、鬼ヶ島から財宝を取り返そうと決めて、育ての親である、爺さん婆さんに話した。
賛成した爺さん婆さんは、3日かけて準備をしてくれた。
鉢巻、羽織のような着物、木刀、クロ団子など。
「クロ団子、こんなに。買ったのか?」
「心配するな。お金はかかっとらん。話をしたら譲って貰えたんじゃよ。ワシは柴刈りついでに昔から良く買ってたじゃろ?団子屋と仲が良くての。」
「気をつけていってらっしゃいね。他に特にしてやれることがなくて、すまんの。」
「十分だよ。あとは自分でなんとかする。ありがとう。」
「ああ、そうじゃ桃太郎。隣村に鬼に詳しい人がおる。ここから西のほうじゃ。ええと特徴は……」
出発した桃太郎は、まず、爺さんから聞いた隣村に向かう。
(鬼ヶ島に向かう舟も手配しないとな。俺は相撲の強さで知られているから、鬼退治と言えば誰かしら協力してくれると思うが。)
少し聞き込みをしたら、鬼に詳しいという男の居場所が見つかり、会うことが出来た。
その男は言った。
「猿と鳥と犬を仲間にしなさい。その動物たちは鬼を弱らせることが出来る…。ところで、その腰に付けてるもの、団子かね?」
「ああ、クロ団子というやつで旨いよ。お礼と言ってはなんだけど、食べてみる?」
「この団子……。食べると力が湧いてくるな。どうだろう?その動物たちに与えてみては。」
◇◇◇
話を聞いた蒼氷が桃太郎に確認する。
「犬と猿と鳥は、人から指定されて仲間にしたのね?あとは偶然にせよ、例のクロガミの名産を食べさせたということ?」
「ああ、それであいつらは強くなっていった。人が食べても力が湧くのは一時的なんだが、動物だと効果が切れない感じで。神社にいた動物たち、普通より強そうだったろ?」
蒼氷と黄土が頷く。
「まあ私が動物と戦った経験というと、腹を減らした野犬やら熊くらい?だけど。」
「ボク怖かったよー。猿とか雉って、あんな乱暴だっけ?飛びかかってくるしー。」
紫金がいくつかの巻物を確認しながら、呟いている。
「うーむ。単に裏鬼門となると坤ですが、五果の桃に封印するのは、五気の金気ゆえ。金気に合わせての申酉戌か。五色だと白になる。団子は食べてしまうから、むしろ材料か…。」
桃太郎が紫金に尋ねる。
「どうした?紫金?」
「いくつか知りたいことが…。鬼に詳しいというものは、猿、鳥、犬という順で話しておりましたかな?鉢巻と着物の色は白ですか?それに虎の模様などは?あとは、団子の材料はご存知ですかな?」
「猿、鳥、犬の順で仲間にしたほうが良いと言われて、その通りにした。鉢巻と着物は白で、虎の模様があったな。クロ団子の作り方は秘伝らしく、材料は知らない。」
「ふむ。必要な件のみ話しますじゃ。五行思想というのに基づいて、猿と鳥と犬は、鬼に有効のようです。三種の攻撃を受けてしまうと、極めて危険と考えてくだされ。クロ団子も、鬼に対抗するために創られた可能性が高い。念のため、食べないようにしてくだされ。」
頷く桃太郎たち。
◇◇◇
その日の夜。
桃太郎が考え込んでいるようなので、紫金が話しかけた。
「考えごとですかな?おそらく、陰陽師はすぐには手を出してこないじゃろ。」
「陰陽師やらクロ団子やらで思い出しててね。今年の誕生日に来てくれた、友人の次郎は、陰陽師になると昔から言っていたんだ。それと、俺はその誕生日、たまたまクロ団子を食べなかったな。」
「その次郎とやら、敵となるやもしれませんな。覚悟しておいたほうが…。」
「ああ…。ところで紫金。たまに読み書きを教えてくれないか?人間と鬼の共存にも役に立つし。」
「もちろん構いませんぞ。」
◇◇◇
桃太郎たちが陰陽師と争った日のこと。
彼らのいる村から少し離れた村のはずれに、翠嵐がいた。
「ご馳走さま、爺さん。この辺は鬼に冷たくてな。仕方なく野宿ばかりだったんで、こんな旨いもんが食えるとは、ありがてえ。」
「ご馳走さまっす。爺さま。」
「いえいえ、助けて頂いたのはこちらのほうですし。」
翠嵐はドンブラの火災の後、一人の鬼を連れて旅をしていた。鬼であることは、常に隠していない。
そして昨日、人間の老人が熊に襲われそうになったのを助けていた。
翠嵐が老人に問いかける。
「もう少しここに世話になってもいいかい?なにか困ってることあるなら手伝うぜ。」
「だいぶ前に婆さんが亡くなって独りですからな。好きなだけ居てくだされ。
出来たらで良いのですが、滝の上流の妖怪退治はお願いできますかの?昨日の熊は、おそらく妖怪のせいで食糧不足になったために来たのかと。
滝口の近くに、珍しい茸があるので、たまに採りに行ってたのですが、大きな化け犬を見たのです。」
「狸や狐ではなく犬か。普通に戦うだけで済みそうだな。一匹だけなら楽勝だろ。任せとけ!」
「出た!兄貴の楽勝。それでドンブラにも10人で殴り込みだし。あいつ白鉄さんまで倒してんすよ?」
「実際楽勝だったじゃねえか。暴走した紅炎は、ありゃ別だ。」
老人が心配している感じで言った。
「とても、とても大きいですぞ。気をつけてくだされ。無理はしなくて良いので。」
「まだ昼間で天気もいい。さっそくぶっ飛ばしてくんわ。行くぞ、緑風!」
翠嵐と、弟分の緑風は、大きな滝のほうに向かった。
「あの滝だな。上流ってえと…。あっちから行くか。」
二人とも風の力を使える鬼で、ドンブラの翠嵐と同じく、特殊な甲冑を身に付けている。武器のようなものは持っておらず、頭部に装備はない。
二人は甲冑で風の流れを制御することで、さして消耗せずに、常人の倍以上の速さで走れる。
走るというより、たまに身体を浮かせて軽く跳ねてるような感じだ。
滝口の付近に来た翠嵐たち。緑風が滝口から下を見下ろしている。
「高いっすねー。ここから落ちたら、うちらもタダじゃ済まないっすよ。」
「妖怪とやらを落としちまえば、それで終わりよ。探すぞ!」
『ドンドン!ドンドン!』
「て、向こうから来たっすよ。うちらに気づいてたのか…。あれっしょ、兄貴……」
「「………………」」
((でか!!))
「でけえな、おい…。ま、まあ、楽勝…だろ。」
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次回予告
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Yo!Yo!読んでくれてありがとな。
ひさしぶりの翠嵐だぜ。
犬、猿、鳥の理由は、五行
団子を食わせりゃ鬼なんて五秒
ということか?俺には良くわからんけどな。
またまた伏線が張られてるぽいが、それよりあの犬だぜ。
俺は嵐の力、ヒップホップ育ち
悪そうなやつは大体友達
でも
あんなでかいの見たことねえぜ!
定春なんて目じゃねえぜ!
じかーい、じかい。
皆さんお待ちかねぇ!
翠嵐と緑風の前に現れた、大型犬の定春!
風の咆哮と犬の咆哮が激しくぶつかり合います!
極限のラップバトルを制するのはどちらなのか!
次回、『強敵!定春現る』にぃ、レディィィ、ゴォォォ!!
だから、定春どころの大きさじゃないってばYo!
【設定の附記】
五行思想の五穀は、種類がいくつかあるようで、金=黍とは限らないようです。
少なくとも、この時点では、団子の材料は不明です。
風の漢音は『ほう』で、そもそも、この時代は『風』という漢字ではないかもしれません。
知識不足のため、読みやすさ重視で、緑風で『りょくふう』としました。