第七話 紫の知恵(3)
昨晩、村長が帰った後。桃太郎が鬼ヶ島の件を話すと、紫金が考え込んでいた。
「犬、猿、雉ですか…。ワシの知識から思い当たる節もありますが…。少し時間を頂けますかの…。」
しばらく考え込む紫金。そして、なにやら結論が出たようだ。
「ふむ。これからワシの考えを話しますので、良く聞いてくだされ。あの火事はどうにも不自然です。
おそらく紅炎さんが狙われております。村長と交渉したときにいた側近が、情報を流したのかもしれません。」
それから紫金は、この先で予想される展開と、その対策について説明を始めた。
聞き入る桃太郎たち。
(確かに可能性はあるな。言うとおりにしたほうが良さそうだ。)
説明を終えた紫金が、最後の注意と言ってから、話を続けた。
「目的はあくまで我々全員が無事であること。動物たちの攻撃を避けることが最優先じゃ。直接攻撃を受けるだけでも、危険と考えてくだされ。
次に重要なのは、陰陽師を退かせることじゃ。倒すことが目的ではありませんからな。
陰陽師との直接戦闘は避けてくだされ。陰陽師は位が高く、都で重要視されておりますから、仮に倒せても面倒なことになりかねません。
向こうに楽には勝てないと思わせられれば、おそらく退かせることが出来ます。
陰陽師には、大怪我をしてまで、我々と戦う理由はないはずじゃからな。
それに身分の高いものは、普通は勝てる喧嘩しかしたがらん。」
桃太郎が尋ねる。
「動物たちが出てきても、殺す必要はないよな。あまりにも危険を感じたら話は別だが、無駄な殺生は避けたい。」
「ええ。ただ、動物を1体だけでも捕らえたいところじゃ。無理をしてはいけませんが、これも目的のひとつじゃよ。」
紫金は、更に少し考え込んでから続けた。
「動物たちの強さ次第じゃな…。万が一、蒼氷さんと黄土さんが間に合わない場合も考えなければ…。
念のため、ワシに宝珠を貸していただけますかな?参戦する必要があるかもしれませんので。外で少し練習するかの。」
◇◇◇
紫金の想定どおりの展開となり、桃太郎の孤立は避けられ、蒼氷と黄土が揃った。
元より桃太郎には、蒼氷が見えていて、合図で黄土がいることも知っていた。
蒼氷は隠れ蓑、黄土は隠れ笠を使って近くに隠れていたのだ。
蒼氷と黄土は、特殊能力を使えるよう、簑と笠を脱いでいる。桃太郎から少し離れた位置取りで、とりあえずは援護する構えだ。
陰陽師からすると、突然姿を現した蒼氷と黄土。かなり動揺しているようだ。
(あやつら、どこに潜んでいた?しかし、こちらも数は揃っている。やらせてみるか。)
「そやつは危険すぎる。殺しても構わん、やれ!」
桃太郎は、腕と脚から何度か炎を放って、動物たちを警戒させた。動物たちは本能的に怯んでおり、少し様子を伺っている。
桃太郎たちは、あくまで相手を退かせることが目的で、誰も殺したくはない。
山伏のうち2名が隙を狙い、錫杖で桃太郎を攻撃してくる。
桃太郎の足場だけ、一気に盛り上がった。錫杖で突けたのは土だけだ。
黄土が得意気に言う。
「石畳くらい、どうとでもなるよ。地面と繋がってるしね。」
桃太郎は、2メートル以上の高さになった足場から、炎を出しながら、山伏たちに向かって飛び降りる。
「燃えると言ったからな。火傷は覚悟しろよ。」
2人の山伏が燃えて苦しみながら倒れる。桃太郎は錫杖を奪って2人を叩き伏せる。
「頼む!蒼氷!」
蒼いオーラを纏っている蒼氷が、指から強力な水鉄砲を放って、燃えている2人を消火してやった。
「もう止めときなさい、あなたたち。次は消さないわよ。」
蒼氷は水鉄砲で、上空の鳥たちも牽制している。
鳥たちは蒼氷に標的を変えて、向かっていこうとする。
(5羽を同時に牽制となると、撃ち落とせるほど溜める余裕ないわね。)
「来なさい。鳥さんたち。」
陰陽師が叫んだ。
「止めろ!女には近づくな!」
鳥たちは高度を上げて離れる。
「あら、意外と女性には優しいのかしら?」
(近づけば凍らせられるのを知っているからな。厄介な女鬼めが!)
黄土は、度々地形を変化させて、犬たちと猿たちの動きを鈍らせている。
桃太郎は、襲ってくる動物たちを錫杖で払いながら、陰陽師のいる拝殿に近づいた。
陰陽師を守るために、階段下の山伏たちが壁を作っている。先ほど2人がやられたのを見ているため、少し怯えながら…。
「貴様!私とやるつもりか!清浄なる社殿を汚すことは許されんぞ!」
「俺も神社が燃えるのは避けたいけどな。あんたには色々と聞きたいことがある。」
桃太郎は、手持ちの錫杖に熱を与えて紅くして、陰陽師を睨みつける。
(万が一にも、ここで私が囚われるわけにはいかない。)
陰陽師は、両脇にいる護衛の2人に伝えた。
「社殿を汚すわけにはいかん。お前たち急いで退くぞ。」
「下の天狗衆と動物たちは、鬼どもを足止めしろ!」
陰陽師は退くことに決めて、護衛と共に足早に逃げていく。
「逃がすかよ!」
桃太郎は、陰陽師を追いかけるふりをして、階段下の山伏たちと錫杖で戦う。
山伏たちは人間としては決して弱くはないが、5人では紅の武器を持った桃太郎の相手にはならない。
炎を使うまでもなく、適当に痛めつけて退散させた。最初に倒した2人もよろよろと退散する。
紫金は離れたところで、村長と一緒に見守っていた。
(ここまでは理想的ですな。これで動物たちに集中できる。)
犬たちと猿たちは、黄土のほうに向かっていく。
黄土は地形を変えて進路を妨害しているが、相手が身軽なので止めきれない。黄土には、即座に広範囲の地形は変えられない。
「あらら。もうムリかもー!」
黄土は自分の足場を盛り上げて、高いところに逃げる。
蒼氷に牽制されていた鳥たちが、標的を黄土に変えて向かっていく。
蒼氷が水鉄砲を放つが、一羽を止めきれなかった。
桃太郎は黄土のほうに向かっているが、犬と猿に足止めされている。もともと鳥は炎の届く範囲でもない。
「やーめーてー!下にも敵ー!」
『バン!』
黄土に近づいた鳥に、強力な水鉄砲が放たれ、鳥が撃ち落とされた。
放ったのは、頭巾を脱いだ紫金だった。
「ワシにも出番ありましたな。練習の成果ですぞ。捕らえてくだされ!紅炎さん!」
紫金の手には珠が握られている。
鬼ヶ島の財宝のひとつ、宝珠。鬼の放つ力を封じ込めておくことが出来、力を持たない鬼でも放つことが出来る。
桃太郎は、撃ち落とされた鳥のほうに走り、鳥を捕らえた。
「鳥籠はあっちのほう、置いてあるよー。」
黄土たちは、動物を捕らえられるよう鳥籠などを持ってきている。桃太郎は移動して鳥籠に入れた。
「さて……。陰陽師の指示は足止めでしたな。おそらくですが……。みなさん!近くの動物たちに、陰陽師に逃げられたので追うのを諦めた、と伝えてください!」
言われた通りにする桃太郎たち。
「あーあ、あいつに逃げられちゃったね。諦めよー。」
「上ばっか見てて、首が疲れたわ。もう、面倒くさいし。」
「あの野郎!逃げきりやがった!諦めてやるよ!」
動物たちは、社殿のほうを見てから退散していった。
============
次回予告
============
蒼氷よ。読んでくれて嬉しいわ。
陰陽師の能力は、わからずじまいだったけど、完勝だったわね。
水鉄砲の描写は悩んだそうよ。水鉄砲というと、なんか弱そうだし。溜め次第でかなりの威力になるんだけどね。
それと、空気中の水分を集めて放つにしろ、連発はどうなのかって。
私は隠れ蓑で隠れてたから、事前に十分な水分を近くに寄せといたということで。小雨でもいいけど。
じかーい、じかい。
桃太郎が犬猿雉を仲間にした理由が明らかに。
ようやく翠嵐も再登場。
それと、えっと、大きい定春みたいな犬の妖怪?さだはるって何?
定春の歌、銀河に響け。
ちょっと何言ってるか分からないんだけど。
ねえ、そのカンペ合ってる?ADさん?
【設定の付記】
動物を捕らえるため、蒼氷と黄土は、竹製の大きな籠を持って神社に行きました。
以降も鳥籠が出てきますが、鎌倉時代に頑丈な鳥籠がないなら、村で相応の物を用意する描写を追加するかも…。