第六話 紫の知恵(2)
時は少し遡り、村長と交渉した日の夜。
紫金は、交流を深めるため、家に村長を招いて酒を振る舞っていた。
「さすが紫金殿。今回の作品も素晴らしいですな。」
村長が紫金の和歌を読んで感心している。紫金は時折、和歌を書いて村長に贈呈しているようだ。
(まったく意味が解らん。)
桃太郎は芸術には疎い。
桃太郎が退屈そうにしながら、ふと外を見てみると…。外のほうが妙に明るい。
「なんだ?火事か?」
「どうも畑のほうですな。」
「私が行ってくるわ。」
蒼氷が外に出る準備をした。
「なにか嫌な予感がしますな。村長は危険ですので…。紅炎さんも残りなされ。」
なぜか桃太郎も紫金に強く止められた。
蒼氷と黄土が、問題の畑に辿り着いた。
何匹かの猿たちが松明のような物を持ち、火をつけていた。
上空には、複数の雉が桶を持って飛んでいる。
「猿…と…雉…?あなたたち、何をしているの!?」
多くの鬼は、動物と意志疎通が出来る。蒼氷も例外ではない。
蒼氷は猿たちを追い払い、周囲の水と、空気中の水分を集めて消火した。それほど被害は大きくない。
蒼氷たちは紫金の家に戻り、消火したことを村長に報告する。動物たちのことは伏せることにした。
「燃え広がる前に消し止められたわ。原因は良く解らなかったけど…。」
「ふむ。あなたの水の力ということですかな。ありがとうございました。拝見してみたかったものです。」
村長は帰る準備をして挨拶をした。
「さて…私は御暇させて頂きます。畑の様子を少し確認して、そのまま帰ります。」
村長が帰った後、蒼氷と黄土が動物たちのことを話す。
桃太郎が少し驚いた様子を見せる。
「猿と雉?(まさか…。)」
「なにか心当たりでもありますかの?」
桃太郎は鬼ヶ島に行った頃の話を簡単に伝える。
彼らはその後、話し合いをしてから眠りについた。
◇◇◇
次の日の朝、桃太郎たちは、村の様子を把握するために外に出た。
角は笠などで隠しており、紫金が村を案内している。
「眠そうね、紫金。」
「昨晩、頑張りすぎましたかな。」
突然、ひとりの男が桃太郎を指差して騒ぎ出した。
「あいつが畑を燃やしたんだ!俺の住んでいたドンブラを燃やした鬼だ!」
桃太郎は少し呆れぎみだ。
(食糧に困りやすい鬼が、わざわざ畑を燃やすかよ。それと、あの男は見覚えがないな。)
桃太郎は、ドンブラの村人を大抵は把握している。村人ではない可能性がある。
火事の時は外に出ていないので、もちろん言いがかりだ。村長という証人もいる。
近くにいる村人たちが、ざわめき立っている。
クロガミさながらの状況だ。
桃太郎のほうに、山岳の修行僧・山伏のような風貌の者たちが寄ってきた。
2人は大きめの体格で、170センチほどの錫杖を持っており、肩から法螺貝をぶら下げている。
村人の話し声によると、天狗衆と呼ばれる山伏のようだ。
山伏たちは、桃太郎の前に錫杖を突きだして、進路をふさいだ。
「来てもらおうか。」
「はいはい、分かったよ。しかし、事情を知る者たちを同行させて欲しいんだが。」
桃太郎は仲間たちのほうを見る。紫金が山伏たちに向かって言った。
「ワシが状況を話せる。それと、村長ならば、彼が燃やしていないと証明できますぞ。」
「分かった。爺さんと村長だけは同行を許そう。見覚えのない他の者までは許可できん。」
蒼氷と黄土の同行は断られた。大人しく従うことにして、桃太郎から離れる。
桃太郎は両手を縄で縛られて、笠を脱がされた。
そして、頭巾を被らされてから、足軽向けの兜である陣笠まで被らされる。
(角を覆って能力を落とすためか。この状態では炎を使えないかもしれない。)
紫金と共に連行されることになった。途中で村長も合流する。
連れていかれた先は神社だった。鳥居をくぐり、奥のほうにある大きな建物、社殿に向かっていく。
参拝者向けの拝殿の前で止められた。
賽銭箱のような物はない。建物に入るためには、階段を少し昇る必要がある。
建物の外、階段の下には5人の山伏が待ち構えていた。
拝殿は開かれており、中には神職らしき男がいる。その両脇には護衛なのか、やはり山伏らしき男が2人。
こちらを見下ろしている。
(あれが陰陽師か…。印象はクロガミの祈祷師と変わらないな。)
桃太郎は、陰陽師について紫金から聞いていた。神職と陰陽師はそれほど変わらないそうだ。
正確には役割が異なり、服装も狩衣や浄衣など違いはあるそうだが、桃太郎たちにとっては似たようなものだ。
陰陽師が指示を出す。
「角は確認済みだな?そこに座らせなさい。村長と紫金殿はそちらに。」
桃太郎を連行した2人の山伏は、桃太郎を地面に座らせ、簡単には身動きが出来ないよう、錫杖を突きだした。
陰陽師は外に出るつもりはないようだ。桃太郎からは5メートル以上は離れている。
(随分と慎重だな。それとも身分の違いを示すためか。)
陰陽師が、拝殿の中から大きめの声で桃太郎に問いかける。
「昨晩、畑で火事があった。近くにそなたがいたと聞いておる。そなたがやったのだな?」
桃太郎が紫金と村長のほうを見ながら応える。
「昨晩、俺は紫金の家にいた。近くの畑で火事があったが、そのとき俺は家から出なかった。村長も一緒だった。」
村長と紫金が頷いた。
(村長が一緒だったとはな。少々予定が狂ったが、どうするか…。蒼氷たちは引き離した。見張りからの法螺貝も聞こえない。近くにはいないはずだ。)
陰陽師は少し考えていたが、覚悟を決めたように声を荒らげた。
「しかし、ドンブラの大火災は、そなたの仕業であろう!極悪な鬼であることに変わりはない!まずはその裁きを下す!それから、村に来た狙いを応えてもらおう。」
陰陽師が口笛を吹くと、犬と猿と鳥が集まってきた。近くに潜んでいたようだ。
合計で15体。動物たちの大きさは様々。雉だけではなく鷹もいる。
「やれ!天狗衆!動物たち!」
桃太郎を抑えていた2人の山伏は、錫杖で桃太郎を叩き伏せようと振りかぶった。
階段の下にいた5人の山伏と動物たちが、桃太郎に襲いかかろうとしている。
そのとき、蒼氷と黄土が、どこからともなく現れた。
黄土は黄色のオーラを纏い、地面に両手をついた。
桃太郎を叩き伏せようとしていた、山伏たちの足元の土を盛り上げて、バランスを崩す。
桃太郎は、体当たりで山伏を押し退けて距離を取った。
桃太郎は、縄を焼き切るくらいは出来た。陣笠と頭巾を脱いで角を出す。
紅のオーラを纏った桃太郎。
腕を振って周囲に軽く炎を放って威嚇する。
「燃えたいんなら、かかって来いよ。」
============
次回予告
============
読んでくれてありがとう。
やっと自らの意志で炎を放った、桃太郎こと紅炎だ。
建物や木々など気にすることが多すぎて、こちとら大変だぜ。
山伏は普通の人間みたいだし、手加減しないと大火傷だな。
どこぞのゲームみたく、『燃えたろ?』とか言いたいぜ。ごめん、燃えたらすぐ消して蒼氷。
神社が燃えると大変なんで、外に出てきてくれよ、陰陽師。
安西先生、鳥取砂丘でバトルがしたいです。
じかーい、じかい。
蒼氷と黄土が来れたのは何故なのか?
遂に陰陽師たちと戦闘開始で、鬼ヶ島の財宝、宝珠を初使用?
やってやるぜ!