表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/15

第四話 黄の示す展望

 隠れ家に到着する少し前、蒼氷そうひょうが桃太郎に話しかけている。


「ドンブラの周辺は、鬼に対する差別が酷いらしいのよ。それで私と黄土おうどが調べに来たの。とりあえず、このクロガミを拠点にした。隠れ家はあの辺よ。もう少し。」


「クロガミなら知っている。ドンブラとも交流があるからな。ドンブラの管理が優先だったので、直接来たことはないが。名産のクロ団子は食べたか?」

「食べてないわ。いつまでもつのを隠すのは難しいから、長居するつもりはなくて、村人とあまり話さないし。」


「ドンブラが生産のために援助をしていたんだ。作り方は村の秘伝らしい。甘くて旨くて力が出る。俺も昔から良く食べていた。誕生日には必ずクロ団子だったな。」



 隠れ家に着いた桃太郎たち。蒼氷の仲間の黄土が待っていた。


「ただいま、黄土。なにか変わったことはあった?」

「お帰り。それが少し大変なことになっていて。その人は?」


 蒼氷が黄土に桃太郎を紹介する。

紅炎こうえん。古い知り合いの鬼よ。」

 黄土は小鬼だった。桃太郎には7~8歳くらいに見える。軽く挨拶を交わしあった。


 黄土が簡単に状況を説明する。

「鬼の集落のほう。まだやってると思う。見に行く?」

(鬼の集落?そんなところがあったのか。)


 桃太郎は鬼ヶ島から戻って以来、ほとんど鬼に出会っていない。たまに見かけても、すぐに追い払っていた。

 人間と鬼が共存している村があるとは思わなかった。



 桃太郎たちは財宝を隠してから、その集落のほうに様子を見に行くことにした。

 それぞれつのを隠すために笠を身につけ、桃太郎は念のため隠れ蓑のままにした。



 村人たちの怒号が聞こえる。鬼の住む民家に石を投げる物もいる。


「川を氾濫させやがって!」

「ドンブラの火災もお前らじゃないのか?あそこの援助がないと我々が困るからやったのか!」


 黄土が小声で話す。

「今朝からずっとこんな感じみたい。」

(原因は俺か。しかし、蒼氷が火災を止めないと、クロガミもどうなっていたか。)



 そこに装束しょうぞくを着た神職らしき男が現れた。

 他の村人たちより小綺麗で、村での身分は高そうだ。30歳くらいに見える。


 その神職らしき男は、村人たちを制止しようとする。

「およしなさい。ドンブラの火災とクロガミの川の氾濫は、まさしく鬼の所業。しかし、彼らがやったという証拠はありません。」

(その通りだ。実際やったのは俺たちだしな。)


「ここの鬼たちには、今から私が話を聞いておきます。とにかく、川の近くは特に危険なので、近づくことを禁じます。」


 とりあえず騒ぎは収まったようだ。桃太郎たちは隠れ家に戻った。



「私や紅炎は特別だと思ってね。人間とさほど変わらない鬼も多いの。」


 桃太郎は蒼氷から話を聞いて、自分が勘違いしていたことを知った。強く暴力的な鬼ばかりだと思っていた。


 ◇◇◇


 次の日の朝、村の様子を見に行くと、なにやら人が集まっている。

 ある程度の人数が集まった後、昨日いた神職らしき男が、話を始めた。どうも祈祷師のようだ。


「占いの結果、川の復旧には、私の祈祷の力が必要とのこと。これから祈りを捧げますので、明日の朝には復旧しているでしょう。川に近づいては、神の所業に巻き込まれて危険です。決して近づかないように。」


「さすがはナルカマ様。お任せしておけば間違いはない。あの台風の被害すら復旧させてくださったからな。」

 村人たちが歓喜の声をあげた。


(どういうこと?人間にそんな力があるの?)

 不思議に思う蒼氷。とりあえず、隠れ家に戻ることにした。



「訳が解らないわ。人間には、そういうことが出来る術師がいるの?」

「俺は聞いたことがないな。祈祷師は雨を降らせるために祈るとか、その程度しか。」


「私たちがやってしまったことだし、夜に川の様子を見に行きましょう。何も起きていなければ、私たちで少し復旧させない?あの人間の手柄になっても構わない。黄土も手伝ってくれる?」

「ボクは構わないよ。つのを出しちゃって大丈夫?」

「夜だから気づかれないと思うわ。寝ていると角の力は弱いし、集落から川までは距離もある。」


 黄土は土を操る力を持ち、土の形を自在に変えることが出来る。川の復旧には最適だろう。


「俺に出来るのは、力仕事くらいかな。」

「岩を割ったり運んだりね。やることあるわよ。」



 桃太郎たちは、夜遅くに川の様子を見に行った。川に辿り着くと、集落の鬼たちが復旧作業をしているのが見えた。


 蒼氷が問いかけた。

「あなたたち、何をしているの?」

「危ないから人間は戻ってください。我々がナルカマ様に怒られてしまう。」


 集落の鬼たちに、黄土ほどの特別な能力は無さそうだ。人間とやっていることが大差ない。

 これで夜のうちに復旧させるのは重労働だろう。


 蒼氷は鬼だと明かして、手助けすることにした。

「私たちも鬼よ。」


 桃太郎たちが加わったため、作業が一気に捗るようになった。


 蒼氷は作業がしやすくなるよう、川を流れを止めた。

 黄土が地形を少しずつ変えて、川の流れを調整する。

 桃太郎は岩を適度な大きさに割って、集落の鬼たちと共に岩を運び、堤防のようなものを作った。


 蒼氷が少しずつ川の水を流していき、土や岩で流れを調整する。それの繰り返しだ。

 かなり復旧させられた。


 集落の鬼たちに経緯を聞いてみると、例の祈祷師、ナルカマに指示されたという。


 ◇◇◇


 次の日の朝方、またナルカマが村人を集めていた。


「見てごらんなさい。これが私の祈祷と神の力です。」

「さすがナルカマ様。ありがたや、ありがたや。」


(そういうことか。悪いことがあったら鬼のせいになり、ナルカマが鬼を働かせて解決する。こんなの鬼に何の得がある。)


 鬼が働いたと言いたいが、こちらも鬼だとバレたら、村人に信用されないだろう。



 桃太郎たちは、鬼の集落で詳しい話を聞くことにした。


「いつもこんな調子なの?私は強い力を持つ鬼をかなり知ってるつもりよ。けど、台風や地震を起こせるほどの鬼は知らないわ。きっと、鬼のせいでなくても働かされてるんでしょ?」


 蒼氷が問いかけると、集落の鬼たちが応じた。


「我々は解っていながら、ナルカマ様に従っている。報酬の食糧は貰えているから、心配は要らない。」


「もともと我々は、人間によって山奥のほうに追いやられていたんだ。そんな我々を村に迎えてくれたのが、ナルカマ様なんだよ。」


「山奥のほうは生活を維持するのが大変だよ。畑を作っても人間に畑ごと奪われることもある。」



 桃太郎たちは、隠れ家に戻って話し合う。蒼氷から切り出した。


「彼らが納得しているなら仕方がないわ。私は納得がいかないけど。」

「ボクもあのナルカマという人間のために働きたくない。」

「俺もまともな共存とは思えない。しかし…」


「なによ?」

「蒼氷や黄土のような力があれば、人間の役にも立てる。うまく共存する道はあるんじゃないか?」

「ナルカマみたいな人間に力を貸すのは嫌よ。」


「そこは同意だけど、俺は交渉できる人間もいると思う。そして、鬼が住みやすい村を作れる気がする。能力の高い鬼は、それなりにいるんだろ?」

「私たちみたいなのは特殊だけども、人間の役に立てるという意味なら…かなりいるかな。」


 なんにせよ、ここに長居する気にはなれない。桃太郎たちは他の村に移動することにした。


 桃太郎は思った。この先の生き方が見えてきた気がする。

 それはとても険しい道のりかもしれないが…。



============

 次回予告

============

 読んでくれてありがとー。黄土おうどだよ。

 今回もまた伏線が張られたみたいだねー。


 クロだからって、なんでもかんでも『ゴルゴムの仕業だ!』は酷いよねー。


 こんな感じで、住むところを、少しずつ人間に奪われてるんだ。人間と大差ない鬼も大勢いるのにー。


 じかーいじかい。

 頭のいい鬼の爺ちゃんが、人間と鬼の共存のため、仲間になるよー。そろそろ陰陽師も登場するみたい。


 つことで、どっすか? ゲッゲーロー。


 ところで、犬猿雉はまだー?

 ボク、早く一緒に遊びたいよー。


【設定の附記】

黄土は漢音だと『こうと』だと思いますが、読みやすさから『おうど』にしました。

鬼の服装は、基本は人間の庶民と変わりません。虎柄の腰巻きは一部の鬼の戦闘服という設定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ