第三話 白の守る宝
桃太郎は荷台を用意して、蒼氷と共に城の近くにある蔵に向かった。
蔵の中には、一見すると生活用品と金銀しか置いてない。
鬼ヶ島の財宝は、その地下に隠してある。
しばらくは洞窟に隠していたのだが、度々必要になる宝があるため、自然に取りに行けるよう蔵に移した経緯がある。
桃太郎は例の矛を使って、てこの原理で床にある重たい石をどかした。すると、人が入れる程度の縦穴が出てきた。
桃太郎は、地下に降りて財宝を取り出しながら、財宝を得た経緯を思い出す。
(あいつら、俺が鬼だと知ったら何て言うかな。また協力してくれるだろうか。)
◇◇◇
鬼ヶ島に渡った桃太郎と仲間たちは、倒した鬼から、財宝が城の最上階にあることを聞き出した。
城に向かった桃太郎たち。城門を守る鬼には苦戦したが、勝利して侵入することが出来た。
城は鋼で出来ているようだ。この時代にこんな建物を作れるんだろうか。
桃太郎は、仲間の協力を得ながら、紅の矛でバタバタと敵を薙ぎ倒しながら、最上階に向かっていく。
鬼が最上階のリーダー格に報告する。
「白鉄様、紅の戦士が間もなく!」
「たった1人で乗り込んでくるとはな。いや、動物の仲間が3体だったか?」
先行して桃太郎だけが白鉄の前に辿り着いた。仲間たちは途中の鬼と戦闘中だが、すぐに追ってくる。
「なにが目的だ、小僧。」
「この城に財宝があると聞いたんでね。あんたが大将か?」
(財宝?あれをどうする気だ。人間に使いこなせるとは思えんが。)
白鉄には、どうにも桃太郎の本来の目的が想像できない。
なんにせよ、財宝は非常に大事なものだ。白鉄は深く考えずに応戦することにした。
「おとなしく渡すわけがなかろう。」
白鉄は2メートルほどの巨体で、かなりがっしりとした体格だ。桃太郎がそれまでに戦ってきた鬼より、ふた回りくらい大きい。
いくつものトゲが付いた鉄球に鎖が繋がった武器を持っている。
白鉄は白いオーラを纏い、鎖鉄球をぶんまわし、桃太郎に向かって鉄球を飛ばしてきた。
それなりに速いが、狙いが読みやすいため、桃太郎にとって避けられないほどではない。
避けながら隙を窺う桃太郎だが、なかなか間合いを詰められそうなタイミングがない。
常に気をはっていなければ、当たってしまう。
攻めあぐねる桃太郎だったが、仲間の雉、ゲツが駆けつけてくれた。やや大きめの雉だ。
「ゲツ!上から頼む!」
ゲツは空中で翻弄しながら突っついて攻撃する。
「ええい!ちょこまかと鬱陶しい!(こやつ、なぜ、我が硬い身体に何度も攻撃できる。)」
翻弄される白鉄は、鉄球の狙いが定まらない。
ゲツが隙を作ってくれたため、ようやく間合いを詰められた。
鎖鉄球は近距離では扱いづらいため、桃太郎には余裕もある。
まずは鎖鉄球を振り回せないよう、腕の力を削ぎたい。
桃太郎は矛を振りかぶり、白鉄の肩の付近にぶち当てた。
硬い。とにかく硬い手応えがあった。金属でも殴ってるようだ。おそらく白鉄のダメージは少ない。
いったん離れて距離を取る桃太郎。重たい矛での連撃は厳しい。
桃太郎は考える。
(同じ箇所を何度も狙うしかない。仮に金属の性質があるとしたら、高熱を帯びた矛ならば、いずれ…)
苦戦する桃太郎の元に、仲間の犬と猿も駆けつけた。
犬のハナは、振り回される鎖鉄球を避けながら、間合いを詰めて、白鉄の脚に向かって攻撃する。
「ゲツ!セツを頼む!」
桃太郎が叫ぶと、雉のゲツが猿のセツのほうに向かった。
セツがゲツの脚に掴まる。ゲツの脚には、掴まりやすいよう細工がしてある。
ゲツは見た目からは想像もつかないような力があり、セツを掴まらせた状態でも飛ぶことが出来る。
白鉄に向かって、セツが上空から飛びかかる。桃太郎はそれに合わせるように、間合いを詰めていた。
セツの攻撃が当たったとき、白鉄は自身の力が弱っていることに気づいた。驚く白鉄。
(なにが起こった?)
桃太郎は紅の矛に力を込め、先ほどと同じく肩を攻撃した。白鉄が膝をついた。明らかに効いている。
桃太郎たちが攻撃する度、白鉄の動きは鈍り、硬い手応えも無くなっていく。
攻撃を何度も繰り返し、遂に桃太郎たちは白鉄を倒した。
宝物庫に向かった桃太郎。そこにあった財宝は意外な物だった。
小鎚、笠、蓑、他にもいくつか…。
「なんだこれ? 鬼たちはこんな物を奪っていたのか?」
桃太郎は、いわゆる金銀や高級な着物を想像していたので、拍子抜けした。
高価に思える物もあるにはあったが…。
(持ち主を探そうにも探せそうにないものばかり。こんなもの村の役に立つのだろうか?)
小さめの物ばかりだったので、舟には乗せきれる。
(まあいい、これらを持ち帰ろう。)
◇◇◇
蒼氷と共に、財宝と必要そうなものを荷台に乗せていく。矛は大きすぎるから、担いでいくことにした。
「その長い棒?必要なの?」
「ああ、これでも矛なんだ。使いなれてるしな。ところで、人間には使えないのに、どうして財宝にこだわる?」
「私たちが生きるためにも大切なものなの。長い期間をかけて創ったものだし。」
桃太郎たちは、まずはドンブラから少し離れたところにある、蒼氷の隠れ家に行く事になった。仲間が待っているそうだ。
蒼氷が言った。
「不要な争いを避けたいから、角は隠していくわ。あなたは、普通の笠と隠れ簑にして。」
「財宝の笠では駄目なのか?」
「隠れ笠は鬼からも見えなくなるの。隠れ簑は人間からだけ見えなくなる。」
「なるほど。俺は火災の件があるから、目撃されないほうが良いってことか。矛と荷台はどうなる?」
「矛は担いで簑に触れていれば見えないわ。荷台は無理だから、私が引いていく。あなたは後ろから押してね。それと…。」
蒼氷は、説明の仕方を少し考えてから続けた。
「鬼は角を隠すと全体的に能力が弱くなる。それと、気配も弱くなるの。」
「それなら、俺は角は隠さずに、隠れ蓑で人間から隠れるだけのほうが良さそうだが。」
「少し事情があってね。私やあなたのような強い鬼は、感知能力も気配も強くて、遠くからでもお互いが解る。翠嵐もね。」
翠嵐に感知されるのを防ぐためだろうか?桃太郎は、とりあえず、それ以上は問わなかった。
城のある丘から、いったん降りることになったが、やはり低地は酷い有り様だった。
焼死体がそこら中に転がっている。
「ここから登るわよ。」
隠れ家は、山の上のほうの村にあるそうだ。
山を登っていると、木々が薙ぎ倒されているのが見えた。
「仕方なく川を氾濫させたの。間に合いそうになかったし。」
山火事が燃え広がると終わりだ。やむを得ない判断だろう。
蒼氷から経緯を聞いた。蒼氷は旅の途中で偶然、近くの村まで来ていた。
その村は山の上のほうだったため、大火災に気づき、川を氾濫させて大量の水を流しつつ、急いでドンブラに来たそうだ。
そして、鬼の感知能力で、もとから知り合いだった翠嵐が近くにいることに気づいたそうだ。
山道を登っていき、特にトラブルもなく、蒼氷の隠れ家についた。
「ただいま。なにか変わったことはあった?」
「それが少し大変なことになっていて。」
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次回予告
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我が名はガン…、もとい白鉄である。
白い巨大ロボットではないわ!
武器としてモーニングスターは使うがな。
我は生身だ。能力によって硬くなれるだけに過ぎん。
白い木馬の案もあっただと?ボツ!
とにかく、読んで頂けたなら光栄である。
戦闘シーンがもう少し上手く描ければ良かったと思うが。
何故に我が、覚醒してない紅炎に負けたのかの説明は必要だがな。
ちなみに財宝は3種だけではないぞ。いくつか集めると、龍が現れて願いを叶えてくれるかもしれんな。
じかーいじかい。
主要キャラに子供もいたほうが良いからという理由で、小鬼が出てくるぞ。
それよりも、テーマ的に次回からが本番みたいだな。
君は、刻の涙を見る。
ところで、我はまだ登場するのか?死んでない?
【設定の附記】
蒼氷は山の上のほうにいたため、消火のためにすぐに海水を利用することが出来ませんでした。
周囲の川の流れを速くして、いくつかの川の流れをまとめて消火に利用します。自身は川の上に大木で乗りながら、ドンブラのほうに下りていきました。