騎士団長、呼びつけられる
家族大集合
それから十日ほどして、王から再びの呼び出しが掛かった。
訓練中だったので、身なりを整え騎士服を身に纏い謁見の間へと急ぐ。
「遅かったな、クリス騎士団長」
「申し訳ありません。訓練中だったものですから」
「まあ、良い」
王は玉座に座り高い所から、俺たちを見渡すとにやりと嬉しそうに笑う。
「わしは、気が短いか?どれほど待たせるのだ、クリス。気が長い方ではないと、言っておいただろう?この状況、お主が作り出したのだぞ?」
今、この場には王と宰相、他に・・・俺の両親と弟、まだデビュタント前の妹が二人。
それに、義両親と義兄が二人、集められていた。
「――これは、どういう事でしょう」
「お主がなかなかソフィアを寄越さぬから、気が急いてな?周りの者とも交渉しようかと思ったのだ」
俺の側に、両親がやってくる。
「王より話は聞いた。クリス・・・」
俺は拳をきつく握り、両親を見据える。
「俺は・・・私は、妻と離婚するつもりはありません」
「そうか・・・」
父はそれだけ言うと、王に対峙した。
「成人し、騎士団長である息子がこう言っている以上、親の私たちは何も出来ません。
息子から妻を取り上げる事は、ご容赦頂けないでしょうか。ラング家当主としての、お願いにございます」
「ふむ・・・」
「王よ発言をお許しください。我がベリー家としても、この二人の離縁は避けたい所存です。元より、王からの政略結婚のようなもの。だが、二人は愛し合っております故、どうかお許し願いたい」
二人の父親が、王に向かい頭を垂れる。母二人も、膝を折り家長に習うように頭を垂れた。
兄弟までもが。
「ふ、ふ、ふはははははは」
王が高笑いをし、玉座から降りてこちらへ来る。
「そうか、そうか。ラングもベリーも、そういう考えなのだな?そうだな、愛し合う二人を引き裂くのは勘弁して欲しい、か。ふふふふふ、まあ、そうだろうな」
こつりこつりと靴音を立てて、俺の妹のところまで進み出た。妹たちは、青い顔をして慌てて平身する。
「良い、顔をあげよ。そなたらは、クリスの妹だな?まだ、社交界デビュー前と聞く」
父が慌てた様子で、速足で妹たちの元へ向かう。
「ラング公爵よ、無事に娘たちのデビュタントが済めば良いな?社交界の噂とは、厳しいものよ。社交界デビューで躓けば、縁談も舞い込まず外に出る事も罷り通らぬこともある。ふふふ」
王は、妹に何かあれば飛び出せるようにしていた、弟に目を向ける。
「ふむ。勇ましいな、クリスの弟だな。確か、騎士に志願しているとか。試験は、来春だとか。
受かると良いが。まあ、クリスの弟だ、心配はしていないが、怪我には充分に気をつけろよ?」
「なっ!」
父が目を尖らせ、弟と王との間に体を滑り込ませる。弟に、母が寄り添う。
「仲が良いのだな。ラング公爵、それと婦人」
人を食った様な顔で、王はそのまま後ろを向き、フィアの兄たちへと目を向けた。
「ベリー卿。長男は確かジェームスだな。政務に携わる文官だったか。次男は、司法の文官だったな。そうそう、ジャックと申したか。議会で見たことがあるぞ。陰謀に巻き込まれず、このまま何事もなく無事に勤めてくれることを願おう」
「――脅し、でしょうか」
俺は、奥歯を粉砕しそうなほど噛みしめ、王を睨みつける。
「いや?ただ、今はどうであれ、何が起こるか分からんからな、と、言う事だ。クリスよ、お前もだ。いつまで騎士団長として、出仕できるのか楽しみだな」
王は両手をぱんっ、と合わせ、俺に対峙し耳元で囁いた。
「ソフィアを三日以内に、王室に入れろ。そうすれば、ラング家もベリー家も安泰だ。保障しよう。・・・分かったな?」
「っ!」
「ああ、そうだ。クリスよ、騎士団長としての出仕、いつまでか楽しみにしておったが・・・」
王は笑みを深めて、大声で宣言する。
「今日、この時間までだ!クリストフ・フォン・ラング、そなたを王国騎士団長の任から解く!変わりに・・・騎士団の厩 務 員をして貰おう。下働きとしてだ!」
「っ・・・御意に」
王は満足げに俺たちを見回して、謁見の間から去って行った。
「クリス・・・」
父が俺の肩に手を置く。母は、俺の背をそっと摩る。
その手には温かさが籠っていて、胸の奥で何かが握り潰されるのを防いでくれるようだった。
俺はそんな父と母に頷いて見せ、フィアの家族の元へ向かった。
そして、膝をつき頭を垂れる。
「義父上、義母上、申しわけ・・・ありません」
義父が俺の腕を引き、立たせてくれる。その瞳には、慈愛が込められ優しく俺を包み込むようだった。
「君のせいでは無い。私も力不足だった。ソフィには、この話を?」
「今日、帰ったらするつもりです。でも、俺は諦めていません。必ずフィアを守ります」
「君を、信じるよ。・・・君こそ、大丈夫かね?騎士団長の任を解かれ、厩務員とは」
「俺はどうでも良いのです。それに、その方が動きやすいので」
義父と義母は「娘を頼みます」と、頭を俺に向かって下げてくれる。
義兄たちも、力になれることは何でもすると言ってくれた。
さっそく、義兄たちにいくつかお願いをして、俺は速足に謁見の間を離れる事にした。
「――時間がない」
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