騎士団長の懸念
この回は、短いお話になってしましました。
ので、もう一話、投稿いたします。
俺は王宮から戻ると執務室に籠り、何通かの手紙を書き上げ執事に託す。
「王は、何を考えているんだ!!」
アルが乱暴に言い放ち、がしがしと頭を掻きむしる。
「何も考えてはいなのではないか?でないと、こんな事を言わないだろう?」
「それにしたってさぁ。リザ様の時と、全く同じじゃないか!」
「しっ!フィアに聞こえる。」
モーリス王の妻である、エリザベート妃は、隣国リリアンテールの姫君だった。
ここカナリザルとリリアンテールの国同士の友好と、硬い結びつきを他国へ知らしめるため、13歳の時にこの国に留学生として受け入れられ、16歳で婚姻を結んでいる。
ただし、モーリス王にではなく、王弟であるリシュアン殿下に、だ。
エリザベート・・・リザ様は、金色の髪と薄青色の色を持つ美しく聡明な姫君として、他国でも名を馳せていた。
王弟であるリシュアン殿下とも、政略結婚とは言え仲睦まじくゆっくりと愛を育み、王子を二人成している。
二人目の王子が1歳を迎えるために行われた、生誕パーティーで事件が起こった。
「エリザベートを側室に迎え入れる事とする。」
家臣たちがお祝いムードで集まる最中、突然宣言したのだ。何の前触れもなく。
もちろん、王弟もリザ様もモーリス王を諫め宥め、必死に説得した。
だが、王は首を縦には降らず、王命という最低最悪の手段を用いてリザ様を手に入れたのだ。
「子は要らぬから、連れてどこへでも行くがいい」と、弟であるリシュアン殿下に言い放って。
もし逆らえば、リザ様の故郷であるリリアンテールへ攻め込む事、王家の血を引く子供の命をも奪う事、など非道な条件を持ち出してきたため、王弟は王子二人を連れてカターリアへと亡命したのだ。
リザ様を連れ、リリアンテール軍と共に戦う選択肢もあったのだが、国の規模が違い過ぎることと、関係ない民を巻き込みたくないと言うリザ様の想いを汲み、甘んじて側室と言う立場を受け入れたのだ。
「それにしても・・・」
今、リザ様は王妃だ。リザ様が側室になった時には、当たり前だが別に王妃がいた。
モーリス王がリザ様を側室にすると宣言し、もちろん直ぐに王妃も王を諫めた。
が、その王妃は『事故死』した。
「だが・・・」
俺は懸念を隠せないでいる。
王妃の崩御に関しての資料を検めた事がある。リザ様の命で。
どうにも不審な点ばかりで、暗殺されたのではないかとの疑いを持っている。
誰かが、リザ様を王妃にするため・・・それは、やはりモーリス王なのではと。
今回、フィアを側室にした後、王の気まぐれでリザ様の命が危ぶまれるのではないか、そう危惧している。
もう少し、状況を調べたい。
俺は協力者として白羽の矢を立てた相手の顔を、思い出していた。