王妃様の憂い
新章開始です。
お楽しみいただけたら、幸いです。
「国王に、感謝しなくてはいけないな」
この言葉を口にしたことを、心から後悔する日が来るとは思っていなかった。
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やっと、フィアと心身ともに結ばれ、延期だった結婚式も滞りなく終わり晴れて夫婦となった。
朝、目が覚めるとそこにフィアがいる。仕事に出掛ける時は、頬にキスして見送ってくれる。
帰れば、可愛い声でおかえりなさい、と・・・毎日が楽しくて堪らない。
「アル、どうしよう。幸せ過ぎて死ねる」
「遅すぎた春ですね、ヨカッタヨカッタ」
溜息をついた半目のアルが、じっとりとこちらを見る。
俺たちはいろいろ反省して、時間が合えば必ず食事を共にし、寝る時にはその日にあった事や、
相談事などをお互い話そうと決めた。
言わなくては分からない事がある、と身に染みた。それに、フィアが何を考えているか、単純に知りたかった。
そんな幸せな日を送っていたある日。
王室を現す鷹の紋章が押された、金糸で飾られた豪華な封筒をアルが持ってきた。
「もう、そんな時期か」
社交シーズンになると毎年王宮で、2週間にわたる舞踏会が開かれる。
どんな辺境に住んでいる貴族も、一日でも参加するために王都に集まるのだ。
なので、この時期の騎士団はとてつもなく忙しくなる。
毎年、父か跡継ぎの兄が参加していて自分に招待状が届くのは初めてだった。
俺は仕事が詰まっているし、フィアをエスコートできない。が、招待状が発送されているのだ。
仕事を休み、一日くらいは参加する方が良いだろう。
「フィア、王宮の舞踏会に出席の返事を出した。ドレスを新調しよう。あと、宝石も買わなければ」
「良いのですか?まだ、袖を通していないドレスがありますが・・・」
「良いんだ、俺がフィアの着飾った姿を見たいのだから」
王室御用達の洋品店のデザイナーを呼び、フィアと一緒に生地から選ぶ。
「クリス様は、騎士団の礼服ですか?」
どうしようかと迷っていると、アルが提案してくる。
「舞踏会用に、クリス様もお仕立てください。騎士団の礼服では、警備と間違われます。
クリス様と奥様、統一感のある装いにしたらいかがでしょう」
「・・・揃いの衣装か。そうだな、俺も仕立てよう」
生地を選び、デザインを決めて採寸し、昼を挟んで行われたドレス選びは一日かけて終わった。
宝飾品に関しては、俺が選んだものが良いとフィアが言うので後で選ぶことにした。
午後は、騎士団に顔を出す事になっている。
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団員たちが走り込んだり剣の稽古をしている間、俺は執務室で事務作業に没頭していた。
団長ともなると、こういう地道な作業が多くなる。
そろそろ終盤に差し掛かった頃、アルが執務室に飛び込んできた。
「クリス、やばいやばい!」
息を切らしたアルはすっかり素が出てしまっている、珍しい事もあるものだ。
「何がやばいんだ?」
「王妃様がいらした!」
アルが開け放していたドアから、エリザベート・ド・ガルフォン王妃が護衛を伴い入ってきた。
俺とアルは、ざっと騎士の礼を執る。
『光輝の姫君』と呼ばれているだけあって、輝く金色の絹糸のような髪に薄青色の瞳が美しい人だ。
王が三十八歳なのに対し、王妃はまだ二十三歳のはずだ。
「王妃様、このようなむさ苦しい所へ、何用でございましょう」
王妃は護衛に部屋から出るよう目線で促し、俺とアルにやんわりとほほ笑む。
「クリスに、少し内密な話があるの。畏まらないで、いつものように」
「分かりました、リザ様。こちらへ」
三人でテーブルを囲んでソファーに座る。
リザ様は少し青い顔をして、アルが入れたお茶を少し口に運びほうっと息を吐く。
「クリス、あなた舞踏会に呼ばれたわね?我が王は、なにか企んでいるわ。
多分、あなたの奥様の事。まだ、何を企んでいるのかは掴んでいないの。でも、気をつけて」
リザ王妃の真剣な眼差しに、神経がぴんと張り詰める。
「ご忠告、感謝いたします。何があっても、彼女の事は守り抜きます」
「ええ、お願い。ソフィアは、私にとって可愛い妹みたいなものなの。頼むわね。
また何か分かったら知らせるわ」
リザ王妃とフィアは、貴族令嬢が通う学校で生徒会役員をしており、そこで先輩後輩として仲良くなったそうだ。
なので、俺との結婚が決まった時にも呼び出されて「くれぐれも頼みます」と直々に言われていた。
リザ王女が帰った後、アルにいくつかの指示を出しておく。
王は、ある事に関してだけは狡猾で策略家になる。
リザ王女も、それを身に染みて分かっているから忠告に来たのだろう。
フィアは私のものだ。誰にも奪わせはしない。そんな事は許さない、絶対に。
フィアでなくては駄目なのだ、私の隣に立つの人は。
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