奥様の勘違い
拙いですが、読んで頂きありがとうございます。
今回は短いです。
玄関ホールから素知らぬ顔をして去っていくクリス様を視線で追い、にわかには信じがたい気持ちでその背を見送る。
私は、崩れ落ちるようにその場に座り込む。
「奥様!」
執事やメイドたちが駆け寄り心配されるが、全てが遠くの出来事のようで現実味がなかった。
気が付くと自室のベットに座って、呆然としていた。
(なぜ?クリス様。それ程私の事が、気に入らないの?私はただ、ゆっくり仲良くなっていけたらと・・・クリス様と年を重ねていけたらと、そう思っているだけなのに)
どれだけの時間を放心していたのだろう。夫婦の寝室のドアからのノックの音で、我に返った。
のろのろとドアまで行き、そっとドアを開く。
「クリス様・・・」
笑わなくては、と、口角を意識して持ち上げるが、上手くいかない。
「・・・フィア、話がしたい」
クリス様に手を引かれてソファーに座ると、クリス様は私の目の前に跪いた。
「今日は済まなかった。フィアに会いたくて、予定をずらして戻ってみたら庭でザックと仲睦まじげに笑顔でいるのを見て、俺は・・・出迎えてくれたのに、あんな態度を取ってすまなかった」
いつもの優しいクリス様の声音に安心したせいか、自然と涙が流れる。
私の頬にそっと手を触れるクリス様の様子に、涙が止まらなくなり嗚咽が漏れる。
くりすさまは心配そうな顔をして私を両腕の中へ閉じ込め、あやす様に背中をポンポンと優しく叩く。
「っふ・・・クリス様、ご、ごめんなさい」
「謝らないでくれ。フィアは悪くない。全部、俺が悪いんだから」
クリス様は、私と庭師のザックと談笑していた事が気に入らなかったらしい。
使用人と距離が近すぎる、という事かも知れない。
騎士団長の妻として、自分を律しなければいけないと改めて思う。
私たちは、お互いを知らないまま結婚した夫婦だ。
望まれて、結婚した訳ではない。
もっと頑張らなければ。もし、不興を買って離縁したいと言われたら、
喜んで離縁して差し上げよう。
それまでは、かりそめの妻としてこの腕の中に抱かれていていいだろうか。
心地よい温かさに、私は身を任せた。