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愛情表現が苦手な騎士団長は離縁したくないらしい  作者: さとうあゆみ
第1章 騎士団長と公爵令嬢の出会い
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奥様は刺繍する

アルが国境にいる部隊に戻って、十日が過ぎた。

ここは本家ではないので、私はやる事が何もない。本家の嫁だったならば、家の内幕を任されて

忙しいのだけれど。

本来、跡継ぎではない子供は結婚したら、家を出る事になる。下手したら、平民にだってなってしまう。が、クリス様はこの国の要の騎士団長であり、三大公爵家の実務を担う次男で、更に三大公爵家筆頭の家から嫁いだ私がいる。

なので、特例だがクリス様は爵位もそのままに、ラング公爵を名乗っている。


ある日、洗濯場担当のメイドが蒼白な顔で、執事と一緒に私を訪ねて来た。

その手には、紺色に銀糸でぐるりと刺繍がされた大き目の布が、捧げるように乗せられていた。


「奥様、申し訳ありません」


執事の緊張した声に、何事かと立ち上がる。


「実は、旦那様の騎士服のマントなのですが・・・」


執事の話によれば、今朝早くに替えのマントが手紙と一緒に屋敷に届いたそうだ。

手紙はアルから執事に当てたもので、その足で私のところに来たそうだ。


「手紙には、なんと書かれていたのです?」


「それが、こちらをお読み頂ければ」


私は執事が差し出した手紙を、そっと開いて読んだ。少し癖のある走り書きのような文字が並ぶ。


「・・・分かりました。すぐに取り掛かりますわ」


私は手紙を執事に返しマントを受け取ると、侍女に裁縫道具と刺繍糸をティーラウンジに用意するよう伝える。

部屋で身軽な服装に着替え、髪をまとめる。そして、ティーラウンジに移動した。

マントの大きさを把握しようとマントを広げると、クリス様の香水の香りがして頬が熱を持つ。

アルからの手紙には、長期戦が予想されるのでクリス様の無事と早い終息を願って、マントに刺繍を施して欲しい、と言うものだった。図案を決めて、早速取り掛かる。

マントも結構な大きさがあり、少し凝った図案にしたので想像より時間が掛かりそうだった。

悪戦苦闘している私を見兼ねたのか、暇があれば侍女やメイドが入れ替わり部屋を訪れ、刺繍を手伝っていく。


「もっと、簡単な図案にしても良かったかも知れないわね・・・。手伝わせてごめんなさい」


「いいえ、奥様!滅相もありません!奥様とお話しながら刺繍をするのは、とても楽しかったです」


「ありがとう」


元々執事を始め、メイドも侍女も好意的で優しく接してくれていた。この事があり、更に信頼関係が構築できたと思う。

みんなから、結婚後すぐに夫が不在で不憫に思われているのも、仲良くなれた理由のひとつかも知れない。

みんなのおかげで、四日でマントが出来上がった。ばさり、と広げる。

銀の糸と緋色の糸で、蔦や鷲、家紋や名前を見栄え良く縫い付けてある。

これを綺麗な紙で包みリボンを掛ける。添えるカードには私の名前と、少し考えて使用人一同と書き足してリボンに挟んだ。これを執事に渡しておく。


「みんな、お疲れさまでした」


クリスの幼少期の話など聞きながら、わいわいと刺繍をするのは良い気分転換になった。

それがアルの狙いだと気づきもせずに。


(クリス様の事ばかり考えていたから、会いたくなってしまったわ)


私は西の国境と繋がっている青い空を見上げた。

 

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よろしくお願いします。

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