転生後はスローライフを(その前に)
スローライフしているのが欲しい。だから前準備だ。
「・・・うーん ここは?」
俺は橘薫 2?歳。
ついさっきトラックに轢かれたと思ったんだけど、気が付いたら見たことない部屋にいた。 目の前には看板が立っている。 内容は・・・
「このたびあなたは不幸にも交通事故にあわれ、亡くなってしまいました。
ですが抽選により異世界に転生する権利を得られました。
この権利は破棄することができます。
その場合あなたは元の世界で輪廻の輪に戻ることになります。
もし異世界に転生することを望むなら右手の赤いボタンを、望まないのであれば左手の青いボタンを押してください。」
看板を読み終わったら床からボタンが生えてきた。
まさか、これは。
今増えている『異世界なろう小説』の最初の部分!
自分の身に降りかかるとは思わなかった。 そういえばなんでトラックに轢かれたんだっけ?
猫を助け・・・いや、飛び出した子供・・・。
そもそもトラックに轢かれるような場所に行ったっけ?
思い出せない。どうなっているんだ。
ピンポーン♪
どこからかチャイムの音が聞こえてくる。なんだと思い周りを見てみればボタンが光っている。
もしかして催促されている? こういうことは慎重に決めるべきものなんだけど。
点滅までしてきた。 ええい、ままよ。
俺は青いボタンを押した。別に転生しなくていいや。
「ボッシュートになります」
え?
次の瞬間床に穴が開き、俺は落ちていった。
その後彼は元の世界で鳥になった。
----------------------------------
ええい、ままよ。
俺は赤いボタンを押した。せっかくだし、転生するかな。
ピンポーン♪
・・・音がなっただけ? いや、今度は看板が生えてきた。
「異世界転生の承諾ありがとうございます。つきましては転生後にお礼としまして『言語翻訳』『収納』『鑑定』のスキルをあなたに付与させていただきます。
転生後に『ステータスオープン』と唱える、または『ステータスを見たい』と思い浮かべてください。そうすればあなたの情報パネルが展開されますので、そこで付与されたスキルを確認してください。」
これも良く見た『なろうセット』だ。ここまで露骨だと胡散臭さが出てくるなぁ。
「次はあなたが転生後どういう生活をしたいかお答えください。英雄、もしくは勇者になりたければ赤いボタンを。のんびりしたいのならば青いボタンを押してください」
TUEEEルートか、スローライフルートか。
せっかくだし、勇者王に、俺はなる!
俺は赤いボタンを押した。
「ボッシュートになります」
え?
次の瞬間床に穴が開き、俺は落ちていった。
その後彼は元の世界で蛙になった。
----------------------------------
スローライフで。
俺は青いボタンを押した。
ピンポーン♪
ガチャリ
後ろで音がした。
振り向けばドアが開いており、そこにはスーツ姿のお姉さんが立っていた。
ドアあったっけ?
「このたびは異世界転生を受けてくださり誠にありがとうございます。それでは最後にこのVRメットをかぶって研修を受けていただきます。
これを終了されればすべての行程が終了となり、異世界に転生していただきます』
VRメット・・・俺は訝しんだ。
「それはなんですか? いや、VRメットはわかりますけど急にSFぽくなったというか」
「すみません、これは昨今異世界に転生してもらった方たちの『スローライフ』がどうにも『スローライフ』からかけ離れたものになってきていますので、事前にこれから行く異世界の通貨、魔法などの常識。
あなたの居られた世界との差を説明するため、および身に付けていただくものとなっております。
このVRメットにつきましてはあなたの世界で開発されたからですね。以前は黒板に書いておりました。
脳に直接情報を流し込むと言う方法もありますが、2割は失敗します。そちらにしm「メットでけっこうです」
「そうですか・・・それでは学習が終わりましたら迎えに来ますのでよろしくお願いします」
そうしてお姉さんは部屋から出て行った。
断った時の少し悲しそうな感じは途中で説明を切られたからだと思おう。
そして俺はメットをかぶり学習を始めた。
これから行く世界の通貨、魔法、人種、相場、奴隷。
一通り終えた後。馬車が山賊に襲われる場面に切り替わった。
なろうシチュエーションのひとつ、襲撃イベントだ。
『あなたはどうしますか?』
見てしまった以上助けないと気分が悪い。
だけど自分の状況がわからないのに飛び出してもどうしようもない。
心苦しいけど見捨てるしかない、息を潜めてここから逃げよう。
俺は・・・逃げた・・・
VRとはいえ気が重い。どうしようもなかったのか。
『ほかの選択肢を見ますか?』
見れるのか?一応見ておこう。
①正面から無策に行く→問答無用で切り殺された。
-考えなしは良くありません。
②無言でだまし討ち→よくて一人殺したが殺された。まれに馬車の護衛が撃退に成功する。
-ほかの人が助かるかもしれませんが、やはり分が悪すぎます。
それでいいのであれば良いかもしれませんが、自分のことも大切にしましょう。
わからない状態で何かするのは良くないな!うん!
だから自分を知ってできる範囲でやるようにしよう。
なろうシチュエーション。以下省略。
おおまかにいえば冒険者ギルドで『収納』『魔法』でやらかすとか。
貴族、王族にあからさまに手を出して追われるとか。
俺自身も知らずにやらかすこともあった。
そのたびにシチュエーションからランダム選出されて何回もやらされた。
転生して実際にこんなこと起きたらこういってやる!
「これなろうでやったやつだ」
100点も夢じゃないぜ。
「やっと終わった」
疲れた。もういや。おうち帰る。
「もう亡くなられておりますので、帰られたら驚かれますよ」
「ひぇっ」
ドアのところにお姉さんが立っていた。
「申し訳ありません。驚かせてしまいましたか」
心を読まれた!?
「いいえ、読んでおりません。言ってみただけです」
うそだっっ!
「うそじゃありません」
うさだっ!
「だれですか?」
やっぱり読んでるじゃないか!
「それでは異世界転生しますので、転生室にご案内しますね。それとも休憩してからになさいますか?」
休憩してから
「・・・・・・」
休んでから
「・・・・・・」
「・・・今行きます」
「わかりました、それではご案内します」
俺はお姉さんの後に付いてゆく、不自然に長い廊下を。
「ほかに部屋はないんですか?」
「今は転生する方が居られないのでありません。転生者の数に応じて部屋は増減しますよ」
「そうなんだ」
「はい」
そのまま歩いて突き当たりに着いた。
上には「転生中」と書かれた表示灯がある。
「ここで異世界に転生してもらいます」
中にはいると部屋は床から天井まで魔方陣が描かれていた。
「それではこの中央の台の上にお立ちください。魔方陣が光り始めて数秒後に転生されます。注意といたしましては台から降りたりされますと不完全な転生になり命の保障はできかねます。決して降りないでください」
「はい、わかりました」
不完全な転生、まあ予測付くね。
「それでは、私はこれで失礼いたします。良き人生を」
「どうもありがとう、それじゃよいしょと」
俺は台の上に立った。
お姉さんは会釈をして部屋から出て行った。
魔方陣が光りだす。
次の瞬間俺は光に包まれて異世界に転生した。
----------------------------------
・・・馬車が襲われている。
転生してから俺はこんな状況に出会ってしまった。近くで獣を狩っていただけなのに。
だけど、あの時とは違う。あの世?で学習した成果がある。索敵スキルを身に付け、攻撃魔法を身に付け、程々に依頼をこなして整えた装備もある。襲っている山賊も何とかなりそうな強さだ。
今の俺なら助けられる。
(略)
俺は救出に成功した。
(略)
馬車のおじさんたちを見送った後、俺はこう思った。
「これ、なろうでやったやつだ・・・」
最終的に俺はアメール王国の片隅にある村で生涯を閉じた。
特に未練はない。程々に程々で満足した人生だった。
一人ひとりこういうことするのは両方ともめんどくさいだろうね。
神様とかならこういうことしなくても適合する人を転生できます。でも暇つぶしもかねてたまにこの手順をおこなってます。