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不夜城に蝶は舞う  作者: 名月
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01-04

「アタシ的には、ここが一番可能性高いとは思うっすけど。探偵サン的にはどうすかね?」


 一つ目の倉庫は外れだった。どこにも奴らが乗っていた車はなかったし、中ももぬけの殻だった。というわけでそこはさっさと後にして、今は二つ目の倉庫の門の前まで来ている。


「同意見よ。少し、慎重に行きましょう。向こうに気づかれたらどんな手に出られるか分かったもんじゃないわ」


 椎名と奏はここが一番可能性が高いと踏んでいるようだ。一応私も自分なりに考えてみたけれど、結局理由は思いつかなかった。


「えーと、お二人さん。ここが一番だって理由は?」


 というわけで正直に聞いてみる。どうにも私は推理能力では事務所の他のメンツに大きく劣っている。割と真剣な悩みなんだけれど、今の所それに対してどうすればいいのかの答えは出ていない。なので当面の間は、素直に答えを聞くのが一番だろう。幸いほかの皆は卓越した推理能力を持っている。私は私にできるほかの事で貢献しよう。     


「割と簡単な理由っすよ?まず一つ目は単純に、あいつらの車の最後の足取りから一番近いって事すね。まあこれはさっき言った通りあんま参考にできないんで、あくまで理由の一つっすけどね」

「後は、この倉庫の立地も割と怪しいのよね。ここ、近くにほかの建物がないでしょ?必然、人もこの倉庫の近くにはあんまり来ない、つまりは人目につきにくい、ってことになるのよ。他の候補になってる倉庫と比べてもね」


 確かにこの倉庫の周辺には空き地しかない。わざわざ近くにくる人は少ない、というわけか。


「とまあアタシも探偵サンも色々言いましたけど、一番の理由はアレですよ、アレ」


 奏が指を差している方向を見つめる。ぱっと見、雑草が生い茂っているだけのような……いや、なにか違和感が……


「アレ……?……あ!」


 見えた。生い茂るツタやら雑草、それに夜闇に紛れてかなり見づらいけど、確かに倉庫の脇に一台の車が停まっていた。


「見えました?まあ確かにかなーり見つけにくいとこに停めてありますけどね。あの車、最初に教えてくれた特徴と大体一致してると思うんすよ。どうすかね?」

「ええ。間違いない、と思うわ。ナンバーを確認しないと確証は得られないけど」

「なら確認しましょう。どのみち中も見てみないといけないんだし」


 さっそく、私たち3人で倉庫の門を乗り越え車に近づく。もしこの中にナナがいた場合、助けたらすぐに逃げないといけない。そのためすぐに車を動かせるように運転手である幹也さんには車の中に残ってもらっている。女3人、奏は腕っぷしは全然なので、何かあったら私と椎名で何とかするしかない。不安がないと言えば嘘になるけれど、椎名の技量は確かだし、私もここ最近はずっと鍛えている。なんとかするしかないだろう。


「どう?」

「……間違いないっすね」


 奏の確認で、疑惑は確証に変わった。ナナはこの倉庫の中にいる。一刻も早く助けてあげないと。


「どうする?」

「アタシはこの辺で待ってますよ。中に入ってもお役に立てませんし。マスターに連絡でもしときます」

「分かったわ。愛名、いける?……まあ私はそのナナって子の顔知らないし、来てもらわないと困るけど」

「ほんとはあんまり行きたくないけど。まあ腹決めていくしかない、か。ナナを助けるためには」


 こういう修羅場への突入は今まで椎名と松葉さんに任せっきりだった。不安はあるけれど、だからってここで止まっている訳にはいかない。覚悟を決めよう。


「じゃ、行ってくるわ」

「ほいほい。骨は拾ってあげますから。頑張ってきてください、お二人サン」


 *


 正面のドアは閉まっていたので裏口から侵入する。少し歩くとすぐに開けた場所に出た。倉庫という割にはほとんどものは置かれておらず、真ん中に椅子がポツンとあるだけ。そしてその椅子に座らされているのは、


「ナナ……!」

「ドラマかって言うくらい捻りのない展開ね。見張りは3人。別になにかしてる訳でもない。誰かが来るのを待ってるのかしら?」

「誰か?」

「まあ想像だけどね。上の方の組員が直接尋問でもする気じゃないかしら。じゃないと今何もしてない事に説明がつかないし」

「そ、それは……」

「ええ、まずいわね。上の方の組員ともなれば護衛がいたりするかもしれない、流石にこれ以上数が増えたら流石に捌けるか怪しいわ。さっさと行きましょうか」

「了解」


 椎名の予想や想像はよく当たる。だから探偵をしてる訳だけれど。それはつまり高確率で時間が経てば人が新たに現れる、という事になる訳で。そうなる前に、決着を付けなければ。


「愛名は男には構わないであの子の所に走って行って縄をほどいてあげて。男どもは私がどうにかするわ。あ、最低限の自衛はしてね?」

「分かってるわよ。頼んだわ、椎名」

「頼まれたわ。任せなさい」


 その言葉を皮切りに、私達は走り出した。当然すぐにあいつらも気づく。


「おい、なんだおまえぐあっ!」

「てめぇ……あがっ!」


 まあその内の二人は、椎名に瞬時に倒されてしまったけど。一人は顔面、もう一人は股間に一発ずつ。二人ともあっさりと地面に崩れ落ちてしまった。あと一人。一番ナナに近い位置にいる男が、私めがけて殴りかかってくる。


「おっと」


 ぎりぎりのところで躱す。力を入れた一撃がからぶった反動で男の態勢が崩れる。その瞬間を狙って、膝めがけて足払いの要領で軽く蹴りを入れてやる。


「うわあっ!」


 なんとも情けない声を上げてすっ転んだ。だがすぐに立ち上がり再び私に殴り掛かろうとする。


「はい、ごくろうさま」

「ぐぼっ!」


 まあ、近づいてきた椎名の回し蹴り首筋に思いっきり喰らって、地面に叩きつけられてしまったけど。この間約45秒。結局私がナナの元にたどり着く前に全員を無力化してしまった。


「ナナ!大丈夫?怪我はない?」

「先輩……!大丈夫、です。とくに怪我はないです」

「よかった……。ごめんね、遅くなって」

「い、いえ!とんでもないです!ありがとうございます……!」


 ナナの縄をほどいてあげる。思ったよりは適当に結んであったのですぐにほどけてくれた。


「先輩!」

「わっ、ナナ!?」


 縄がほどけた瞬間、感極まったらしいナナが私に抱き着いてきた。よっぽど怖かったんだろう。


「先輩、先輩……!」

「ふふっ。もう大丈夫だから、安心して。さぁ、さっさと車に乗って逃げるわよ。……って、椎名?」


 元来た道を戻る為に振り向くと、椎名が何やらふくれっ面をしていた。


「いや、別に。なんでもないわ。気にしないで」

「もしかして、嫉妬?」

「違うわよ。……ちょっと、その顔は信じてないわね。ホント、本当に違うから。……違うったら違うんだからね!」


 そんなに違う違う言われると、却って信じられないんだけど……。まあ、言わぬが花というやつだろう。


「話は後にして、さっさと逃げましょ。椎名、後ろお願いしてもいい?」

「はいはい」


 明らかに拗ねてるけど、それでもちゃんと私たちを守ってくれる辺りが椎名のいいところだ。


「椎名」

「なに?」

「ありがと。たすかったわ」

「何言ってるの?まだ終わってないわ、気を抜かないの」

「はーい」


 そんななんとも気の抜けた会話をしながら、私達は廃倉庫を後にしたのだった。


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