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第九話 逃げ出したかった

 僕は何となくこの高校を受験し、そして合格した。塾にこそ通ったものの、正直、難しい入試問題だとは思わなかった。入学することは簡単なのだ。僕はいわゆる落ちこぼれのレッテルを貼られるほど、授業内容が理解できなかった。同時に、理解しようとする意欲もなくなった。そこで両親に退学したいと相談したのだが、上手く説得させられてしまった。かくなる上は、ということで、一年生の三学期が始まる日、僕は通学路の途中で抜け出した。登校するべき日に登校しなかったのは、風邪で休んだ合格者説明会以来だ。




 左足はかなり楽になってきた。もう普通に歩けるくらいだ。標識によると、今は鳥栖市にいるらしい。思えば遠くへ来たものだ。とは言っても本州まではまだまだ遠い。少しずつ前進していく自分を褒めながら、今日のスタートを切ろうとしたとき、うしろから誰かに肩を叩かれた。振り返ると、警察官の制服を着た男が二人いた。さらにそのうしろには、警ら中のパトカー。僕の肩に手を置く男は、もう片方の手で警察手帳を見せつけていた。


「皮郷隼人さんですか?」

 全力で振りほどき、逃げ出そうとするも、今度は腕を強く掴まれてしまった。

「皮郷隼人だな?」

 先ほどよりも強い口調、鋭い眼光になっていた。それは無辜の民に向けるものではなくなっており、僕の逃亡生活がここで終焉を迎えることを明確に表していた。


「そうです」

 僕はパトカーで鳥栖警察署へ連れて行かれた。明日、JRの特急列車で長崎へ護送されるらしい。警察署でそう説明されても、僕には他人事のように感じられた。また、警察は僕を犯人と見ていると聞かされた。理央の言った通りだ。でも、僕は理央のアドバイスを達成することはできなかった。あまつさえ、僕は家族も職場も残して塀の向こう側行きというわけだ。そう考えると、涙が止まらなかった。留置所の職員には、この涙はどう映っただろうか。


 そう言えば、結局のところ犯人が本当に僕であるという可能性も捨て切れていない。この際、僕が犯人でもいい。それで全て丸く収まるではないか。どうせ捕まってしまった今となっては、どれだけ足掻いても無駄だ。僕が犯人であるという明確な証拠がないのと同様に、僕が犯人ではないという証拠もない。あるのは、僕が爆破事件に関わっているかもしれないという証拠のみ。いや、警察なら福見の部屋から僕の指紋や髪くらい見つけているに違いない。


 人間とは不思議なもので、どんなに深い絶望の涙を流そうとしても、十五分もすれば感情の維持ができなくなる。だんだんと落ち着いてくるのが自分でも感じられた。その次に来た感情は、無だった。なんだか懐かしいようにも思えた。僕は明日、警察が手配する列車で長崎まで護送される。それに何の感想も持たなかった。初めて留置所で食事をした。食事というよりは栄養補給と表現した方が感覚としては正しいかもしれない。それから僕は機械的に布団に入り、一日を終えた。

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