第二話 みんな望んでいると思っていた
バスは細い坂道を登る。この白いバスの終点が高校でなかったら、もっと晴れやかな気分になれるだろうに。僕は今日も、現実味のない学校爆破計画を頭の中で企てている。誰かが爆弾を放り込んでくれさえすれば。そう他力本願なことを思い描くときもあった。途中の停留所で、同じ高校の生徒が乗り込んだ。僕のよく知っている顔だった。今日に限ったことではないが、このバスの乗客は一人残らず、黙って憂鬱そうな顔をしている。
ドラマが終わったのとほぼ同時刻に、妻の理央が風呂から上がった。入れ替わりに今度は僕が風呂に入る。金曜日は少しだけのんびり夜を過ごせるところが好きだ。大抵の人は、これを小学校からの刷り込みだと言うだろう。金曜日が終われば二日間の休み。確かに、一時期を除いて、これまでの人生はずっとそうだった。だが、ある一時期の間に僕のその体内時計は破壊された。原爆資料館には十一時二分で止まった柱時計が展示されているが、ちょうどそのイメージだ。
明日は何をしようか。もちろん、何でも勝手にできるわけではなく、約束通りに子供たちをどこかへ連れて行くことが前提だ。姉弟揃ってお気に入りのペンギン水族館などどうだろう。体を動かすなら、稲佐山公園が適している。あるいは、長崎市科学館で何か面白い企画でもやっているかもしれない。子供の遊びに付き合うという名目で、僕も休日を謳歌できそうだ。
風呂から上がると、わくわくしている気分の僕とは裏腹に、不安そうにテレビを見つめる理央が、僕に振り返った。長い前髪の向こうから、僕を見つめている。
「あんた、警察から被疑者にされとうよ」
テレビは臨時ニュースを放送していた。ドラマで速報が流れた、学校の火災についてのものだった。警察官で育児休暇中の理央は、今でも県警の情報をスマホで知ることができるが、公開されていない捜査状況を僕に知らせるのは、これが初めてのことだ。
「被疑者? どういうこと?」
「この火事、爆弾事件だったみたいで、現場からあんたの名前が書かれた犯行声明文が見つかったんやって。他にあんたがやったって証拠はまだないみたいやけど、任意同行するって。このままじゃ、犯人扱いよ」
衝撃的なニュースだったが、僕は努めて冷静になるよう考えた。
あの学校は爆破されて、犯行現場に僕の名前があった。当然、任意同行や事情聴取の対象になるはずだ。たとえ直接の犯人でなくとも、犯人になり得る人物を知っているはず、と警察が考えるのは想像に難くない。
「じゃあ……どうすればいい?」
妻に返せた言葉は、実に弱々しいものだった。