第十二話 何もかも終わった
僕は二年生の一学期から、別の私立高校に移った。友達とまでは呼べなくても、話し相手はすぐに見つかった。前の学校で得たものなどない、あの学校は憎むべき場所だ。毎日そんなことを考えて過ごした。ある日、隣の教室の前を通過しようとしたとき、教室から出てくる女子生徒とぶつかりそうになった。互いの前方不注意だ。すみません、と言いながら相手の顔を見た。その人は目にかかるほど長い前髪が特徴的だった。不破さんだった。
不破さんは僕と同じように、あの学校を快く思っていなかった。毎日のように爆破、爆破と福見に言っていた僕を見て、本当にその気になってしまったのだ。彼女は自身を、冗談や誇張表現と普通の発言の区別が付かない人間だと評した。自閉症スペクトラム障害というらしい。誰だって他人と感覚が違う部分はあるだろうが、彼女の場合はそれが極端なのだ。言葉をそのままに捉えてしまう。僕が本当に学校爆破を計画していると思ったそうだ。
だが、一年生の三学期限りで僕と不破さんは成績不振を表向きの理由として自主退学する。偶然にも、編入先は同じ学校だった。僕がいつまで経っても計画を実行に移さないことから、彼女は自らの手で学校に裁きを下すことを決意した。非常に用意周到に、かつ僕の犯行に見せかけるために計画を練った。爆破現場の犯行声明や、福見の殺害がその一環だった。また、福見のアパートへ向かう途中で僕が見えたため、僕を気絶させて死体の隣に置いたそうだ。
警察官に採用されたことも、不破さんにとってはプラスに働いた。僕と福見がまだ長崎県内に住んでいることを別の事件の捜査中に知ったからだ。学校内に爆弾を仕掛けたとなれば、警察は現在の学校関係者や直近の訪問者を最初に疑う。疑わしい人物がいなければ、次に調べるのは近隣住民か過去の学校関係者。さらにかつての生徒が殺害されたとなれば、学校への怨恨で捜査は進む。犯行声明やアリバイなどの後押しがなくとも、僕に疑いをかけさせることは容易だ。
こうして、不破さんは悪魔の囁きに応じてかつての学び舎をこの世の地獄に変え、同じ教室の仲間だった人物を刺し殺した。爆破事件の日は三学期の始業式があったため、数少ない保護者の一人を装って侵入することができた。爆破当時、校内には二人の教員が残っていたが、どちらも生還することはできなかった。僕たちの時代にはあの学校にいなかった、何の関係もない若い先生だった。
犯行後になって、自分が起こしたことの重大さに気づいたという。つい先ほど、昨日のうちに僕が佐賀県で逮捕されてこの警察署まで移送されることを知り、慌ててやって来たのだそうだ。
「一番迷惑をかけたのは、皮郷君だと思ったから、最初に謝りたかった。ごめんなさい」
彼女は罪の意識に耐えられず、出頭したのだ。焦燥しきった顔で、僕に頭を下げた。不破さんに取調室へ行くよう、隣の警察官がそっと促した。




