第十一話 全て話そうと決心した
今日も僕と福見は怪しい話題に花を咲かせている。今の席順では僕のすぐ後ろが福見なので、僕が後ろを向いている。普段はあまり気にしないのだが、福見の背後、つまり教室の最後列の席には、女子生徒がいつも一人で座っていた。僕はその顔を教室に入る前から見ている。ほとんど毎日、同じバスに乗ってくるからだ。
とうとう警察署の玄関をくぐった。警察官に言われるまま歩いていこうとすると、階段を駆け下りてきた人物に止められた。その女性警察官は、僕を長崎駅からここまで護送してきた男の上司らしかった。
「待ちなさい! ……彼に、話したいことがあるから」
息を整えるまで、僕にはその女性警察官の顔が、彼女の垂れた前髪に隠れて見えなかった。
「あなた、私の顔を覚えてる?」
彼女が顔を上げた。その瞬間、記憶の地層が掘り返されるような感覚がした。彼女の顔をほぼ毎日見ていたことがあるような、そんな気がした。この顔、絶対にどこかで見たことがある。逃亡中? 仕事中? 通勤中? 理央や子供たちと行った場所? 記憶のアーカイブで検索をかけるが、中々ヒットしない。そう、記憶の地層が掘り返されるような感覚がしたのだ。ここ一、二日の記憶ではない。
あれは、雨の日だった。僕の乗るバスは細い坂道を登っていた。途中の停留所から僕と同い年の女の子が乗車した。その日の彼女は透明なビニール傘を持っていた。そして、高校生だった僕と同じ教室に入った。僕のすぐ後ろに福見がいて、さらにその後ろ、教室の最後列の席に彼女が座っていた。いつも、一人で。彼女の名は、不破香。
「不破さん……」
忘れていた記憶の復活に戸惑いながらも、僕は彼女の問いに答えた。彼女は首を縦に振った。
「そう。私はあなたのクラスメイトの不破香。唯一あなたと三年間同じ高校に通った、ね」
不破さんは硬い表情を崩さないまま、僕に近寄る。他の警察官はそれを止めようとしない。じっと僕らを伺っている。
「あなたにかかってる容疑は、あなたが最初の一年間だけ通っていた◯◯◯高校の爆破と、あなたの友達だった福見光太郎の殺害よ。身に覚えはある?」
僕は正直に答えるしかない。
「そんなことをした記憶はない。でも、僕自身でもわからない。もしかしたら、眠っている間にもう一人の自分がやったんじゃないかって……」
それ以上の言葉は出せなかった。それ以上は考えても考え切れなかったからだ。不破さんが大きく息を吸った。
「今からの私の話を、最後まで聞いてくれる?」
「えっ?」
それは僕には脈絡のない発言に聞こえた。続けて、どうか最後まで聞いてほしい、と前置きしてから、彼女はこう切り出した。
「もし、その二件の真犯人が、私だとしたら?」




