越えてはいけない領域(6)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
数日後。保護者を失った真由を徳島に住む母方の祖父母が養うことになり、彼女は転校。綱手中学校を去ることとなった。
そのことを大牙から聞いた武文は、最後の下校をする彼女の姿を、仲間達と共に遠くから見ていた。
「いいのか? 武文。彼女を転校させて。お前なんだろ? あの子のじいさんとばあさんに受け入れてくれるよう説得したのは」
「そうだよ。何も転校させなくても……」
龍と翔馬はそう言ったが、武文の決意は固く、彼は首を横に振った。
「2人の気持ちはわかる。けど、あのまま一緒にいたところで、僕らはもう昔の関係には戻れない。それぐらい僕らの間にできた溝は広く、深いんだ。そんな状態で一緒にいても、お互い辛いだけだよ……」
「先輩……」
「それに僕が良くても、先生は嫌だろうからね」
武文がそう言うと、紫乃は当然といった感じで頷いた。
「えぇ。そんなことになったら、私はあの子を殺しかねない」
「だから、これでいいんだ……」
そう自らを納得させるように言う武文の顔は、どこか寂しげで物悲しそうだった。
その後、武文に対する恋心を捨てた真由は、祖父母の愛情を受けて真っ当に育ち、徳島の郵便局に就職。結婚し、3人の子宝に恵まれた。
彼女がごく普通の幸せを掴むことができた理由。それは、武文の言う領域を踏み越えなかったから。彼の言いつけを守り、一般人として分相応に生きれたからこそ、彼女は人並みの幸せを得れたのだ。
それがはたして本当に最善なのか。それを知る答えは彼女らの今後の人生にかかっている………………
もし、紫乃と真由の依頼を出す順番が逆だったら、武文の恋路は今とはだいぶ違っていたでしょう。無論、彼女の運命も。
そんなありえた展開を想像するのも乙かもしれません。