越えてはいけない領域(3)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
午後8時半過ぎ。全室オートロックのマンションの一室に住む真由は、今日も義父である浦木守から理不尽な暴力を受けていた。
プライドの高い弁護士であり、早く再婚したいと願う彼にとって、真由は再婚相手が残していった邪魔者でしかなく、ちょっとの粗相の罰や日頃のストレスの発散を理由にして彼女を痛めつけている。
そんな守からすれば、児童相談所が来ること自体プライドを傷付けられることであり、とても看過できるものではない。
「真由。いいかげんわかれ。お前はただでさえ邪魔なゴミなんだ。そんなお前を俺は養ってやってるんだぞ? ならせめて、俺の役に立て」
髪を鷲掴みにしてこうやって罵るのは、最早常套手段。一辺倒だが、その迫力と殴られる痛さのせいで、真由は反抗する気力もわかないほど心が疲弊しきっていた。でなければ普通、殺し屋などに依頼しない。
「次、あんなことをしてみろ。お前を殺すからな。ゴミの処分ぐらい裏の掃除屋に頼めばどうとでもなるんだ。それが嫌なら、わかってるな?」
そう脅されて真由は、必死に首を縦に振った。横に振ろうもんなら、それこそ何をされるかわからなかったから。
だが、怯えながらもその内心では、
(もう、嫌……誰かこの人を殺して……それが無理なら、私…………)
と、自分か守の死を望んでいた。
その時、玄関の鍵が突然ガチャッと音を立てて開き、死神が彼女を救うべく入ってきた。その死神とはもちろん、玄武と獅子である。
「こんばんは。弁護士の浦木守さんですね?」
「何だ君達は!? いや、それ以前にどうやって入ってきた?」
「我が死獣神が誇る有能なハッカーのハッキングで、マンション内の防犯カメラを操作し、玄関の鍵を開けただけですよ」
玄武の口から出た『死獣神』という単語に、真由と守は驚きを隠せなかった。
「先輩が、死獣神……?」
「うん。浦木さん。君が出した殺人依頼、この僕、死獣神のサイトオーナー・玄武と獅子が請け負ったよ」
玄武のその言葉に、真由は希望の光を見出した。
有能なハッカーとはもちろんAIのことです。
彼女の手にかかれば、どんなセキュリティーもザル状態。今回みたいな使い方から高度のハッキングもお茶の子さいさいです。