さよなら死獣神(4)
闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。
これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。
その背を未来は見逃さなかった。
「どこに行くの? 柚さん」
親友に呼び止められ、黒猫の足がピタッと止まる。
「柚さん。まさかこのまま?」
「…………当然でしょ? 理由はどうあれ、私はみんなに嘘をついてまで、黒龍さんを殺そうとし、生まれ育った大切な居場所を自分の手で潰しちゃったんだよ? そんな私が幸せになるなんて、間違ってる」
「けどそれは、あいつらが悪いんだし、あんたは自分やみんなのためにやったんでしょ? だったら……」
「それでも……!」
黒猫は強い口調でそう言い、振り返った。その頬には、また一筋の涙が流れていた。
「それでも……ダメなものはダメなんですよ……」
「柚……」
「じゃあね龍君。みんなと幸せに、ね。ペガサス君。私のことは予定通り、死んだことにしておいて」
そう別れを告げ、黒猫は歩き出そうとする。
本当は一緒にいたいはずなのに、自分を偽って幸せから逃れることで、自らを罰しようとしているのだ。
そんな悲しい生き方を、ペガサスが容認するはずがない。これ以上同類を増やしたくないからだ。
「……できない相談だね。そうやって1人で背負い込んで、幸せから逃げるつもりなら、死んだことになんてしない。今すぐ君を殺して、地獄に送ってあげるよ」
「…………それなら、それで……」
「えぇなんて言わさへんで。柚。そうなったら龍がどんだけ悲しむか、わからんあんたやないやろ。ほんなら、こいつみたいに幸せから逃げて、孤独に、不幸になろうとすんな!」
朱雀からの説得を受けて、黒猫の決心が鈍る。その心に青龍は強く訴えかける。
「柚。前に僕が言ったこと、覚えてる? 『君がいなくなったら、僕らは幸せになんかなれない』『君を幸せにすることが、僕の償いであり、義務だ』って。だから、行くな! 僕はまだ、君に……一生分の幸せを与えてないっ!」
「龍君……」
そう言い、断る理由を失った黒猫は黙り込む。
そこへ、あの2人も青龍らの加勢をするべく現れた。デートを早々に切り上げて駆けつけた宙と美夜である。
「何勝手にいなくなろうとしてんのよ。バカ柚!」
「え? 宙君と美夜さん? どうしてここに?」
「バーカ。普段自分から電話をかけてこねぇお前が、学校のキャラでかけてきて、切り際に『ありがとう……じゃあね』なんて言われりゃ、誰だってなんかあったと思うだろうが」
「そっか……ドジったなぁ……」
自らが犯した凡ミスに、柚は苦笑する。
「言っとくけど、行かせねぇからな。ネコ。お前が全部捨てていなくなっちまうとか、耐えらんねぇし、龍達が可哀相だ。それでも行くってんなら、こいよ。体を張ってでも全力で止めてやる! ダチとして……お前をまた孤独になんかさせっかよ!」
そう言って、仁王立ちする宙の幼なじみとしての覚悟を知り、黒猫は改めて気付かされた。自分を大切に想ってくれている友達がこんなにもいる。
そう思うだけで、不思議と暖かい気持ちで胸がいっぱいになっていた。
自分を罰していいのは、自分ではありません。それはただの自己満足であり、場合によっては、大切な人を不幸にしかねません。