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死獣神~死の書~  作者: 天馬光
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応龍神撃(4)

 闇に暗躍し、ターゲットの命を奪い取る裏稼業・殺し屋。

 これは、その中でも最強と謳われた1人の殺し屋と仲間達の終わりの物語。

 超必殺とも言える大技・応龍神撃(おうりゅうしんげき)をやりきり、手応えから動きを止める青龍。そんな彼に対して黒龍は、徐に口を開く。


「……1つ聞かせてくれ。俺を討った君は、これからどうやって人類を進化へと導いて行く気だ?」

 そう問われた青龍は、穏やかかつ毅然とした口調で自らの考えを伝えた。


「そんな大それたこと、僕にはできませんよ。僕ができるのは、せいぜい人の営みを見守ることぐらいです。人が人を導くなんて所詮エゴですし、過激な手段で発展を促すなんて、間違ってます」


「そんな男が俺を否定するとは……笑えんな」


「別に全部を否定しているわけではありません。あなたの人を想う心や人の未来のためにやってきた覚悟は、これでも理解しているつもりです。ですが、黒龍さんが思っているほど、人は弱くもなければ、バカでもありません。自分の足で立って歩けます。あなたが泥を被ってまで、過保護に世話をする必要は無いんです。だからこれからは……あの世で人類(ぼくたち)のことを、優しく見守っていてください」

 あくまで人として語った青龍の言葉に、黒龍は気付かされた。

 そうか。自分はもう頑張らなくていいんだ。人類はとっくの昔に、自らの足で歩いていけるほど、強く、利口な存在に成長したんだ、と。

 それを知り、責任と使命から解放された黒龍の心に、朝日のような光が灯った。


「……それを聞いて安心した。少なくとも、君達なら人の未来を託せそうだ」


「黒龍さん……」


「青山龍」


「はい」


「俺が言えたことではないが、黒猫を……柚のことを頼んだぞ。あの手のかかる寂しがり屋を、誰よりも幸せにしてやってくれ………………」

 それだけ言うと、黒龍の体は左右に分かれ、バラバラになりながら崩れていった。


 運命の悪戯で復活し、組織と人類のために仲間さえ犠牲にした冷酷非情の男・黒龍。

 36歳で2度目の生涯を閉じた彼の最期は、ブラック・ナイト司令・黒龍としてではなく、1人の人間・斎藤龍一として、若き世代に人類の行く末と、思い入れのある部下の幸福を託したものだった。


 その想いはしっかりと、青龍の胸に刻みこまれた。


(任せてください。人の行く末を左右する力はありませんが、大切な者を守ることなら僕でもできます。なので、ご心配なく。柚は、僕が責任を持って幸せにしてみせます)


「龍君……」


「あ、柚……その……」

 心中を察した青龍が、申し訳なさそうに言いかけると、黒猫は首を横に振り、


「もういいの。もう何もかも、終わったから……」

 と諦めたように言って、夜空を見上げた。

 次第に彼女の目から哀悼の涙が溢れ、頬を伝う。デビル化した影響で黒くなった血と混ざったことで、さながら血の涙を流しているようだった…………

 黒龍の最期にしては、少し綺麗すぎたかもしれませんが、黒猫の涙から、本来の彼が垣間見えるかもしれません。

 青龍にとって最大の敵である彼もまた、絶対悪ではなく、ただ使命に殉じただけの男。それだけの話だったのでしょう。

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