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【エイプリルフール特別企画】L-1 嘘つきグランプリ

作者: 葵ひなた

毎年4月1日(エイプリルフール)に開催される嘘つきの祭典「L-1 嘘つきグランプリ」。

厳正な審査の結果、決勝トーナメントに招かれたのは、1024名の全国の猛者(うそつき)たち。

僕、正木真実(まこと)は、場違いにも、そこにいた。

参加者として(・・・・・・)ーー。

 どうして、僕はここにいるんだろう。

 嘘つきグランプリの決勝戦。その選手控室に僕はいた。

 なんと、僕は決勝まで勝ち進んでしまった。


 1回戦ーーーー残り1024人。

 2回戦ーーーー残り512人。

 3回戦ーーーー残り256人。

 4回戦ーーーー残り128人。

 5回戦ーーーー残り64人。

 6回戦ーーーー残り32人。

 7回戦ーーーー残り16人。

 準々決勝ーーー残り8人。

 準決勝ーーーー残り4人。

 決勝ーーーーー残り2人。


 セールスマン、占い師、カウンセラー、詐欺師、嘘が得意な旧友……。

 みんな、僕よりも遥かに噓が上手だった。

 それなのに(・・・・・)、僕が勝ち進んでしまった。


「どうしたの? なにか考えごと?」


 透き通った声に、はっとする。

 顔をあげると、彼女と目が合った。

 決勝戦の対戦相手、荒井咲楽(さくら)さんだ。

 赤いメガネが似合う、美しい女性だ。

 僕は思わず顔をそらすと、ドキドキ(・・・・)しながら答える。


「どうして、僕なんかがここにいるんだろう、と思っちゃって……」


 彼女は小さく笑うと、「それは謙遜? いえ、噓かな?」と(たず)ねた。


「本当は、自分の実力を誇ってるんじゃないの?」


 彼女の問いかけに、僕はぽかんとした。

 僕が自分の実力を誇っている、だって?

 僕は学生服の袖を掴むと、おそるおそる彼女に訊ねる。


「さくらさんは、自分の実力を誇ってるんですか?」

「そうね、自信はあるかな。わたしは何が何でも優勝しなければならないの」


「実は、わたし余命一年(・・・・)なんだ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 決勝の会場(ステージ)で、僕とさくらさんはテーブルを挟んで、向かい合って座っている。

 広々とした会場を取り囲むように設置された観客席では、大勢の観客たちが僕らを見つめていた。

 さくらさんが、僕を見つめて、にこりと微笑む。

 僕は彼女の笑顔にドキリとしながらも、彼女について考えていた。


 ーー実は、わたし余命一年なんだーー


 さくらさんは重い病気を患っており、治療するには莫大なお金がかかるらしい。

 嘘つきグランプリの優勝者には、一生遊んで暮らせるほどの賞金が渡される。


 ーーわたしは、何が何でも優勝しなければならないのーー


 さくらさんが生き続けるには、嘘つきグランプリに優勝しなければならない。

 つまり、僕は負けなければいけない(・・・・・・・・・・)んだ。




「それでは、これより『L-1 嘘つきグランプリ』決勝戦を行います!

 ルールは、これまでと変わりませんが、おさらいしておきましょう」


   ー・ー・ー・ー・ー ルール説明 ー・ー・ー・ー・ー


   ・攻撃側が「出題」をし、相手は本当かウソかを答える

   ・出題は本当かウソかを「証明」できるものに限られる

   ・ウソを本当だと思わせたらー攻撃側が3ポイント獲得

   ・ウソをウソだと見破ったらー守備側が1ポイント獲得

   ・本当をウソだと思わせたらー攻撃側が1ポイント獲得

   ・本当を本当だと見破ったらー守備側が3ポイント獲得

   ・先に4ポイント先取した方が勝ち


   ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「先攻・後攻は、コイントスで決めます。表か裏を選んでください」


「どちらにしようかな。まこと君は、どっちにする?」

「僕は残った方でいいです。さくらさんが決めてください」

「ふふ、謙虚だね。それじゃあ、お言葉にあまえて『裏』にするね」


「荒井咲楽さんが『裏』、正木真実さんが『表』ですね」


 審判(アンパイア)は確認すると、指でコインを弾いた。

 くるくるくるくるとコインが回転し、落ちてくる。

 結果は……『裏』だった。


「荒井咲楽さんの先攻です!」




 さくらさんは、小さく握りこぶしを作った。

 それもそのはず。

 嘘つきグランプリは、先攻が圧倒的に有利(・・・・・・)だからだ。

 先に4ポイントを獲得した方が勝ち。

 つまり、互角の戦いをしていても、先攻が先に4ポイントを獲得する。


「それじゃあ、わたしから出題するね。

 この大会に申し込んだのは、実はわたしじゃないんだ。

 友達が応募してて当たったのを、わたしに譲ってくれたの」


 嘘つきグランプリには、厳正な審査の結果(・・・・・・・・)、招かれた者たちしかいないはず。

 それを友達に譲ってもらった、だって?

 普通に考えれば、それはありえない。


「だから、わたしの本名は『咲楽』じゃないの」


 彼女はそう告げると、バッグから財布を取り出した。


財布(ここ)に免許証が入ってる。それが『証拠』よ」




 彼女の『出題』をおさらいしてみよう。


 ・嘘つきグランプリに応募したのは、彼女ではない

 ・嘘つきグランプリの出場権は、友達に譲ってもらった

 ・彼女の本名は、咲楽ではない

 ・免許証が、出題が本当かウソかを証明する


 つまり、


 ・免許証の名前が『咲楽』であればーー出題はウソ

 ・免許証の名前が『咲楽』でなければー出題は本当


 ということになる。 


 ・嘘つきグランプリに応募したのは、彼女ではない

 ・嘘つきグランプリの出場権は、友達に譲ってもらった

 

 この2つの発言は引っ掛け(・・・・)だ。

 僕の考えでは、ウソだと思う。

 嘘つきグランプリに応募したのは、彼女自身で間違いない。


 しかし(・・・)、出題の答えは『本当』なのだろう。

 つまり、免許証の名前は、咲楽ではない(・・・・・・)のだと思う。

 出題とは無関係のところでウソをつき、出題は本当のことを言っている。

 僕は、そう考えた。


 でも、信じたくなかった。

 さくらさんは『咲楽』さんだ、と信じたかった。


 だから、僕はーー。


「まこと君、答えはどっちかな?」

「ーー答えは、ウソです」


 僕と審判は、彼女から手渡された免許証を確認した。

 そこには『荒井咲楽』と書かれていた。

 彼女の名前は、咲楽で間違いなかった。


 僕は彼女のウソをウソだと見破ったのでーー1ポイント獲得した。




 次は、僕の出題だ。

 咳払いをすると、おずおずと口を開く。


「えっと、身長や学生服のせいで誤解されていますが、

 実は、僕は中学生ではありません」


 さくらさんは、少し驚いた顔をした。

 さくらさんも他の参加者と同様、僕を中学生だと思っていたのだろう。

 身長も頭一つ低いし、詰襟の学生服を着ているので、そう思うのも仕方ない。


 僕は胸ポケットから学生証を取り出すと、裏を向けてテーブルに置いた。


「出題の証拠は、学生証(これ)です」




 さくらさんは少し悩んだ結果、ウソーー僕が中学生であるーーを選んだ。


「いい出題だと思うよ。

 今日が4月1日だから、ちょうど今日から高校生になる、と思わせたんだね。

 わたしにウソを本当だと思わせたら、3ポイント獲得で合計4ポイント。

 だからこそ(・・・・・)、裏の裏をかいて『ウソ』なんでしょ?」


 解説するさくらさんに、僕はそっと学生証を手渡した。

 学生証には免許証が挟まっている。

 バイクの免許証を取得できるのは、満16歳から。

 つまり、免許証を持っているということは、高校生以上であるということだ。


 僕は彼女に本当をウソだと思わせたのでーー1ポイント獲得した。

 僕が2ポイント先制してはいるものの、勝負はまだまだ分からない。

 次にさくらさんが「ウソを本当だと思わせたら」3ポイント獲得して、逆転だ。




 さくらさんは、メガネを片手で触ると、出題し始めた。


「メガネをしてるけど、わたし、視力は悪くないんだ。

 実はこれ、伊達メガネなの」


 僕は、さくらさんの顔をじっと見つめた。

 メガネのレンズによる「顔の歪み」はできていない。

 確証は持てないけど、伊達メガネである可能性は高い。


 いや、それよりも、もっと確実な「証拠」がある。

 最初の出題のときに見た「免許証」だ。

 免許証の顔写真では、さくらさんはメガネをかけていなかった。


 ということは、出題は『本当』だということになる。

 しかし、どこか引っかかった。

 ーーそうだ。


「さくらさん。証拠は『伊達メガネである』ということでいいですか?」


 僕の質問に、しばらく沈黙した後、さくらさんは観念したかのように答えた。


「いいえ。出題は『実際の視力』で証明します」


 なるほど。

 僕は、さくらさんの狙いを理解した。


 伊達メガネであるーーは、本当だが、

 視力は悪くないーーーは、ウソだ。


 先の出題で、免許証を提示したのも布石だったのだろう。

 僕が、免許証の顔写真を見ることを念頭に置いた「引っ掛け」だ。

 おそらく、コンタクトレンズをつけているはずだ。


 僕に「ウソを本当だと思わせる」ことで、3ポイント獲得を狙ったのだ。


「答えは、ウソです」


 僕は彼女のウソをウソだと見破りーー1ポイント獲得した。

 3ポイントを獲得し、ついに「王手」となった。




 さくらさんは、後がなくなってしまった。

 次の僕の出題を「見破らない限り」、僕が1ポイント以上獲得し、優勝する。

 僕が勝ってしまう(・・・・・・)


 さくらさんが生き続けるには、嘘つきグランプリに優勝しなければならない。

 僕は負けなければいけない(・・・・・・・・・・)のにーー。


 僕は悩んで考え続ける。


「正木真実さん、そろそろ出題してください」


 審判が急かしてくるが、僕は無視して考え続けた。

 さくらさんが勝つ方法を。

 僕が負ける方法を。

 さくらさんの命が助かる方法を。


 そしてーー思いついた。


 僕は大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。

 肩をまわして、呼吸を整える。


「正木真実さん、出題をーー」

「わかりました」


 僕は審判の声を遮り、静かに出題をする。


「僕は、この大会で優勝する気はありません。

 賞金は、すべてさくらさんに譲ります」


 さくらさんが僕をみつめて、しばらく、ぽかんとしていた。

 そして、僕の出題を理解したのか、口元を両手で押さえた。


 さくらさんは『ウソ』を選べばいい。

 出題が本当であればーー僕が優勝し、さくらさんに賞金を譲る。

 出題がウソであればーーさくらさんが優勝し、賞金を獲得する。


 どちらにしても、さくらさんは賞金を手にして、治療を受けられる。


 さくらさんは、目に涙を浮かべながら、震える声で答えた。


「答えはーーウソ、かな」


 その瞬間、嘘つきグランプリの優勝者が決定した。

今年の「L-1 嘘つきグランプリ」は、大盛況のうちに幕を下ろした。

司会者が、優勝者である(・・・・・・)僕にマイクを向けて訊ねる。


「おめでとうございます。勝因は何だったのでしょうか?」

「僕が噓をつかなかったこと(・・・・・・・・・・)ですね」

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― 新着の感想 ―
[良い点] とにかく最後の展開に感動して、全てが報われた気分になりました。 文法・文章的に全く問題を感じず、正確で適正だと感じました。 [気になる点] 主人公がどうしても優勝しようとした理由が見えない…
2019/04/01 08:56 退会済み
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