第二話
「さあさあ、あなたの名前はなんて言うの? とかそういう堅苦しい話は後にしましょうか! あなたは何か……そうね、のほほんとしているから、ポンタにしましょうか! よろしくね、ポンタ!」
「突然ニックネームをつけられるほどの間柄では無いと思うのだが?」
「何よ、硬いわねー。それだからポンタなんて柔らかいニックネームをつけてあげたんでしょうに。今度からそう呼ぶからね。よろしくね、ポンタ! ええと、あなたは元々どんな部活に入っていたか教えて貰える?」
説明できることはあらかた説明したような気がする。小学校では卓球クラブに入っていて、中学校には囲碁部に入っていた。卓球と囲碁といういかにも交わらないものに入っていた訳だけれど、それについてはあまり深く触れないで貰えると有難い。
「ふうん……囲碁は面白いわよね。白と黒の碁石で繰り広げられる知略戦は見ていて面白いものよ。で? 段とか級とか持ってる訳?」
「……残念ながら、そこまでの実力では無い」
「何だ、残念。級でも持っているなら対戦でもして貰おうかと思ったのに」
対戦してどうなるというのだ。そもそもここはSF同好会とやらじゃないのか。
「それはそれとして。あなたがこの部活動にどのような利益を齎すか、教えて欲しいわね」
「利益? それは入ってみないと分からないだろ。どこまで利益を追求するかによるけれど、さ」
「……成る程」
さらさらとノートに何かを記述していく塩山昭穂。
何を書いているのだろうか。
「では、これで質問を終わります。……おめでとう、ポンタ。これからあなたはSF同好会の副会長よ」
「全力で断らせていただきます」
「なんで? 断ることは認められないわよ?」
「いやいや、普通に考えておかしな話でしょう! どういう話題から『合格』に持って行ったのかさっぱり分かりゃしない!」
「勘、よっ!」
「は?」
たたたっ、と彼女は部室内を走り回り。
「私の勘は当たるのよ~!」
「…………はあ?」
拝啓、母上殿。
俺はどうやら訳の分からない部活動に入ってしまったようです。
◇◇◇
話を戻して。
「で、結局部員は何名集まったんですか?」
正確には同好会だから会員、と言うべきなのだろうが。
「二人だけよ」
「は?」
「あなたと、わたし。合計二名。まあ、これで同好会の体裁は保てるから問題無いと言えば問題無いのだけれど。……あ、でも会計が必要か」
「いやいやいや、あんだけ人を惹かせるようなことをしておいて、駄目だったと?」
「そういうもんじゃない? 私は結局誰も来ないと思っていたし。そしたら非公式だけれど、部活動は遂行する。SFなコンテンツを捕まえるためにはね!」
「そのSFなコンテンツって具体的にはどのような……」
「宇宙人、未来人、異世界人」
「……はあ」
「あとアンドロイドも居れば完璧よね」
「やっぱり俺が入っている理由が納得いかない」
「だから、言ったじゃない! 勘だって!」
勘とかそれ以前の問題のような気がする。
「結局、後の部員はどうやって集めるつもりなんですか? ローラー作戦でもかますつもりですか?」
「それも有りね!」
うわあ。
いやな知識を植え付けちゃった気がするぞ。
「善は急げ、よ! 後は任せるわよ、ポンタ! とにかく、私は面白そうな部員を片っ端から攫ってくるから! そこんとこよろしく!」
そう言って、塩山昭穂は廊下を走ってどこかへ消え去っていくのだった。
はっきり言って、嵐のような女だった。