第一話
高校のレクリエーションに部活紹介のコーナーがあるということは、既に教室で貰って居たしおりから得ていた情報の一つだった。しおりというよりはパンフレットに近いそれは、いったいどれくらいのお金を費やしているのだろうかと考えてしまいそうになる。しかしながら、すんでの所でそれを止める。あまり考えるべき内容ではないと判断したためだ。あまり考えるべきことではないと理解したためだ。
部活紹介と言っても簡単なレクリエーションを提示するだけの、簡単なものであり、例えばバスケ部なら実際にダンクシュートを決めてみたり、野球部ならピッチングを決めてみたり、吹奏楽部なら実際に一曲演奏してみたり、と様々なスタイルで各々の部活動を紹介していた。
そして、最後。
大トリを飾るのは――俺も、皆も、想像が出来なかった部活動だった。
「何だ? SF同好会、って」
誰かが言った。
「きっと、SFのことを研究しているんじゃないの?」
「じゃあ、文化系かあ。面白そう」
そんな雑音をよそに、一人の少女が壇上に上がってきた。
おさげを揺らしながら歩く少女は、どこか堂々としたたたずまいをしている。
そして少女はマイクを持って、言った。
「皆さん、SFは大好きですか? サイエンス・フィクションでもすこし不思議でも構わない、その定義は問いません。もう一度言います、皆さん、SFは好きですか?」
それを聞いてざわつく一年生連中。
何を言っているのかさっぱり分からない俺は、しかし何か不思議な魅力を感じてしまっていたのか、彼女の話を聞いていた。
「私が求めているのは普通の人材じゃありません。SFが好きで、好きで、大好きな人たち。そんな人たちと日々不思議について研究していきたいと思っています。部員は……えーと、私だけなのだけれど! 今ならなんと副会長の座も着いてくるぞっ!!」
それは完全に人材不足であるということを隠しきれていないだけなのでは……!?
「以上、SF同好会の紹介は終わりです! もし何かありましたら、文化部部室棟に張り紙を貼ってあるから、そこに来ること! あ、そうだ。最後に私の名前を行っておかないと。私の名前は、塩山昭穂。どうぞ、SF同好会をよろしく!」
そうして。
まるで嵐のように暴風雨だけをまき散らして去って行ったかのように。
塩山昭穂は壇上から降りていくのだった。
このようにして、何にも部活の紹介をしていないにもかかわらず、大トリを飾ることとなったSF同好会に興味を抱いた人間も少なくなく、文化部部室棟に張り紙が貼られているという情報を元に、放課後俺はその場所へ歩いていた。
何故、歩いていたのだろうか、って?
それは俺にも分からない。でも今思えば――子供の頃、『妄想だ』と投げ飛ばしたSFへの理解を少しでも強めたかったからかもしれない。
「駄目ね。全然、駄目。あんたは、この同好会には向いてないわ」
扉を開けようとすると、昭穂の鋭い声が聞こえてくる。
大方、拒否された時の反応なのだろうけれど――にしては、強すぎないか? その当たり方は。
そうして外に出て行く一人の男子生徒。
「お前も、ここの狙いか? ここ、楽そうでいいもんな」
急に声をかけられて、何を言い出してきたのかと思ったが、先ずは話を合わせておくことにした。
「……まあ、物珍しいからな。興味が湧かなかった、と言えば嘘になる」
「辞めといた方が良いぜ。ここは」
「どうしてだ?」
「何だって知らないけれど、あの会長とは馬が合うとは思えねえ。ほんとうにアンドロイドや宇宙人や異世界人が居ると思い込んでいやがる。そんなの、居る訳ねえってのに」
成る程。
つまり、そういうことを信じている頭の中がお花畑の人間だということか。
やはり、諦めるべきだろうか。そう思って、踵を返そうとした――そのときだった。
「何だ、まだ一人居るじゃない! さあさあ、あなたも面接希望者なんでしょう?」
扉を開けて、中から塩山昭穂が出てきたときには、流石に何も出来ない、と思った。
ここで、いいえ違います別人です、と言えれば良かったのだろうが、それ程までの力は俺には無かった。