19.桜舞う丘の上で②
次の学院のお休みの日、僕達は学院近くで待ち合わせをしました。今回はエマとジェシーも居るので人数も多いから目立ってしまいますね。ここから一度学院へと移動して、地下の格納庫に移動します。
「ちょっと、こんな明るい時間に空を飛んだら、大騒ぎになるわよ。」
イリスさんの心配も最もですよね。以前は夜に飛びましたが、今度はそういうわけにはいきません。照明もないのに夜桜見物は出来ませんし、なにより真っ暗で見つける事も出来ないですもんね。
「僕も最近使ってなかったし、以前エルフの町に行った位だけど、その後もエリックさんがかなり弄ってるみたいだよ? 確認はしてみるけど、大丈夫じゃないかな。」
格納庫まで降りると、照明が点いて目の前に複数の機体が置いてあるのが見えます。むぅ、悪用はしてないでしょうね。そんな事を考えていると、エリックさんがやってきました。僕はエリックさんをジト目で見つめます。
「クロエ君、久しぶりに会ったのに、そんな目で見ないでくれよ。ここにあるのは大半が失敗作でね。いくらモーター等の強化や、必要魔力の省力化を図っても、君とアレクシアしか飛ばせないのは変わってないよ。
なので、昼間飛ばしても大丈夫なように、迷彩化や透明化できないか研究しているんだ。」
なら良いのですが。では、日中飛ばせるめどが立ったという事でよいのでしょうか?
「今回は日中飛べないと役に立たないのと、僕達6人がのれないといけないのですが、大丈夫ですか?」
僕の問いには、問題ないと答えてくれます。エマとジェシーには既に操作方法は教育済みということなので、早速乗り込みましょうか。機体後部の登場口から、エマ、ジェシー、僕の順で乗り込みます。イリス達は恐る恐るって感じですね。
「エマ、とりあえずまた操縦お願いね。ジェシーはユーリアちゃんの隣で、目的地まで方向のアシストお願い。みんな、ちゃんと椅子に座ったら出発するけどいい?」
2人は肯くと座席に移動します。え~と、今回は人数多いから最初から魔力供給しておきましょうって、あれ? 前回のような接触部が無いな。
ジェシーにきくと、左手の腕輪につける腕輪みたいなものを渡されました。どうやら、触るのを忘れて燃料切れになるのを避ける対策のようですね。
「クロエ、皆様、出発しますが宜しいですか?」
エマの声に全員が頷いた所で、ローターが回転を始めました。さぁ、出発です。
「ローター回転安定しました。浮上します。」
エマの声に、グラリと少し傾きつつも機体が浮上します。直ぐに安定を取り戻したので、大きな声で騒ぐ娘は居ませんでしたね。
「光学迷彩開始します。機体前進」
そのまま、浮上し滝裏の格納庫から空に飛び出しますが、特に問題なく上昇をはじめました。中からは自分達が見えているのかどうかはわかりませんが、誰もこちらをみていないので成功なのでしょう。高度を上げて目的地までまっしぐらですよ。
「すごい、飛んでる!!」
「これ、そこ抜けたりしないですよね。」
「……風が感じられないんですね。」
イリスが感動の声を上げています。ユイは足元の床が透明なのを気にしているようですね。高いビルとかの床が透明な場所に行くと、妙にざわざわするような気がする時がありますが、それでしょうか? ユーリアちゃんは、風を身体で感じられないのが残念なようですが、まだ寒いですよ? 三者三様の声を上げていますが、高所恐怖症の子が居なかったのは幸いです。
「ジェシー、方角は大丈夫? あと、鳥の群れとかにぶつからない高さで飛ぶようにね。あと、みんなこれ内緒だからね!」
きっちり念押ししておかないと、他の子に話しそうな勢いですからね。
*****
飛行時間も30分を過ぎると、流石にみんな飽きてきたようです。位置的にはエルフ領の中央当たりですので、あと20分くらいでしょうか?
「はい、とりあえず簡単な飲み物と、お菓子だよ。」
僕が取り出したのは、紅茶とチョコレート菓子です。アーモンドやナッツをチョコレートで包んだ一品ですが、量は少なめにして有ります。
「クロエ、これじゃ足りないんじゃない?」
「暖かくなってきたので、服じゃもう誤魔化せなくなりますよ? イリスさん。折角やせ「きゃぁぁ」……」
イリスさん、もうみんな知ってますってば。女性同士の目は誤魔化せませんよ? ユーリアちゃんでさえ、生暖かい目でイリスさんを見ていますし。
「クロエ、ご歓談中申し訳ありません。前方にかなり大きな結界領域があります。回避しますが宜しいですか。」
「わぁ、危険はすぐ回避して。報告は後でいいから。位置的には多分エルフの町クレナータかな。」
僕の声に、3人は窓の外を見ますが、森の樹以外何も見えません。
「なによ、クロエ。何も見えないじゃない。」
「イリスさん、それは精霊樹様の結界があるからですよ。正式なルートで、エルフの案内がないとクレナータには入る事ができないと聞いています。空からでも駄目なんですね。」
ユーリアちゃんの言葉に、みんな感心してます。流石、精霊樹様ですね。そこから更に10分程飛んだ頃、今度はエマの声が響きます。
「クロエ、前方に薄桃色の樹が見えます。恐らく目的地と思われます。」
「ジェシー、カメラで撮影開始して。あと、周辺の索敵をしてみて。付近に魔獣や魔物の存在はある?」
ジェシーの見ているパネルをみると、なにかこの真下辺りが真っ赤ですね。
「現在地の直下に、強力な個体の反応がありますが、気付かれてはいません。他にも反応が多数ありますので、情報通り危険地帯なのは間違いありません。」
ジェシーの報告を聞いて、みんな足元を見ながら、思わず脚を隠そうとずらしていますね。うん、なんかザワザワするよ。
「エマ、少し高度をとりながら目的地上空に移動して。ジェシーは周辺警戒を続けてね。あ、樹の真上は避けてね。花が散っちゃうから。」
エマとジェシーに指示をして、目的地上空に移動します。本当に桜だとしても、これでは地上に下りることは出来ないかもしれないですね。やがて、右前のほうに薄桃色の花をつけた大きな樹が見えてきます。不思議な事に、樹の周囲は平地になっていますね。
「目的地上空です。周辺に結界等は感知できませんが、この樹を中心に半径1kmほどはいかなる魔物・魔獣も存在していません。」
僕達は、桜らしい樹の生えている丘を見ます。丘の周辺は大きな石が点在していますね。なんとなく、その配置に規則性を感じて僕はエマに少し上昇してもらいました。
そして、気がつきます。樹を中心に、幾つかの同心円を描くように、石が配列されており、明らかに人工的な配置がされていることに。
「クロエ、これって遺跡なんじゃ……」
イリスの声に、みんな改めて周囲を見てみます。空から見ると一目瞭然ですね。樹を中心として、一番外側の円の端まで半径1km、直系2kmの円を描いて配置されている石の床があります。所々は風化していますし、ひび割れた場所から草が生えていたりしますが、大きく損なわれていません。
円は半径500mと、半径100mの三重の輪となっていますが、あるのは石の床と所々に石柱があるだけで、城壁とか建物の跡らしきものは見当たらないのです。都市の跡と言うには壁や道の痕跡もありませんね。
「もしかして、古代の神殿か祭事場なのかもしれませんね。」
「ジェシー、この遺跡生きてる? 魔力や他の力が感知できるかってことだけど。」
僕の問いに、ジェシーはNOと答えましたので、着陸を指示します。勿論何かあったときはすぐ浮上できるように、浮力を維持したままで。
「ちょっと、クロエ。危ないかもしれないでしょ。」
イリスさんはそう言いますが、ただの遺跡なら変な所を触ったりしなければ問題ないでしょう。イリスは呆れているようですが、肩を竦めて諦めた様子です。
周囲は全くの平地なので見通しも良く、これなら確かに魔獣や魔物がこのエリアに入ってくれば直ぐわかりそうですね。でも、本気で来られても困りますので、500m以内は魔法障壁を掛けておきましょう。
「障壁、透明化」
これで安心だと思いますが、警戒はしておきましょう。
「エマ、緊急時にはすぐに浮上できるように、機体を待機モードにして。ジェシー、最初に周囲の警戒をお願い。30分毎にエマと交代してね。じゃあ、樹の所までいってみようよ」
呆れた顔の皆とドローンモドキ2を離れて、丘を登ります。丘はなだらかな斜面を形成して、他よりも数m高くなっています。丘を登っている途中から桜だと判りますね。薄い桜色の花が、枝いっぱいに咲き誇っています。樹下には、少し花びらが散っていますが、まさに満開ですね。僕はユイに、さくらで間違いないか聞いてみます。
「ユイ、東方の桜もこれと同じかな?」
「凄いですね。これほどの大きな樹は、東方の国々でもありませんよ。」
樹の幹廻りは15mを超えるでしょう。いったいどれほどの樹齢か見当も付きません。ユーリアちゃんも圧倒されていますね。
「エマ、樹の近くにも特になにもないかな?」
僕の問いに、エマはありませんと首を横に振って答えます。一応大丈夫と思うけど、皆の意見も聞いてみましょうね。
「大丈夫だと思うけど、みんなはどう思う?」
「凄いわね。こんな大きな木初めて見たわ。」
いや、イリスさん桜の樹じゃなくて、周りの安全とかなんですけど。
「精霊樹様には及びませんが、エルフ領では2番目に大きい樹だと思います。」
まあ、いいか。皆さん安全面より、桜の樹に見入っちゃってますし。余り近寄るのもなんですし、この辺に座ってのんびりお花の美しさを楽しみましょう。
僕は収納からカメラを取り出し、写真を撮ります。やはり、元日本人としては桜の花は春って感じがして和みますね。みんなも、それぞれスマホ型のカメラで撮影しています。
「じゃあ、皆さんお茶にしましょう。その後は、6人そろって周囲の確認をして帰る事になるかと。」
みんな肯いて、丘に敷いた敷物の上に思い思いに座ります。温かい飲み物を飲みながら、今日のお菓子はポテチです。機内でも食べましたから、後はサンドイッチなどの軽食です。アレキサンドリアでは水泳の授業等はありませんが、夏至祭がありますしね。この日は歌や踊りなど、様々なイベントがありますし、プロポーズされる女の子も多いそうですよ。勿論成人してる子が対象ですが、告られる女子も多いとの事です。この日に向けてみんなダイエットしてるようですしね。
桜の花を見て、ユイも故郷を思い出しているんでしょうか? そう言えば、ユイの遼寧時代のお話は余り聞いていませんね。今となっては、お母さんも亡くなっているから、僕が変に話をするのはまずいでしょう。僕はユーリアちゃんに話を振ります。
「ユーリアちゃん、エルフ族は特に花を見たりするお祭りとかはないの?」
僕が質問すると、ユーリアちゃんは嬉しそうに答えてくれますね。
「エルフ族は自然との調和を大事にする分、特にどの花を愛でるとかはないんですよ。夏至祭と新年祭位ですね。夏至祭の時は、精霊樹さまの下に皆で集まって踊ったり歌ったりしますよ。」
「エルフ族のお祭りですか。興味深いですね。」
「でも、魔獣・魔物も共存「それは禁句です」……」
イリスさんの不穏な口を慌てて塞ぎます。自然界に存在している限りは、なんらかの存在意義があると考えるエルフさんの信仰ですからね。他人の信仰に口をだしてもいいことは何一つ有りませんよ。幸い、ユーリアちゃんには聞こえなかったようで、僕はホッとします。
あれ? 急にイリスさんがおとなしくなりましたね。いつもなら大騒ぎするのに?
僕がイリスの様子を窺っていると、イリスは右手で桜の樹の根元辺りを指差します。ん~? 特に何もありませんよね。赤い着物の裾がみえるだけ……で?
僕とイリスが黙り込んだのを怪訝に思ったのか、ユイが次に赤い着物をきた女性に気がつきました。エマに目配せしますが、敵性反応は無いようですけど、さっきまで誰も居なかったはずですよ? まさかの昼間の幽霊ですか~




