29.精霊樹
町に戻った僕達は、いつも通り町への入り口で二手に分かれようとしましたが、今回は問題が問題ということで、町を横切って族長の家へと向います。
ケイティーさんにはお母さんエルフの一人が連絡してくれるといい、離れていきました。狩人達はそれを見て舌打ちしたりしています。
集落と畑を横断する縄打たれたエルフの狩人達と、よそ者である僕達をみて、通行人や畑で働いていたエルフさん達が後を着いてきて、集団の数がどんどん多くなってしまいますね。
族長宅の前は集会やお祭りが出来るようにと、かなりの広さの広場となっていますが、僕達はその場で、族長が来るのを待たされます。まっている間に、お母さんエルフさんに連れられたケイティーさんも到着し、僕らの傍までやってきます。さて、どうなりますかね。
族長さんがでてくると、捕縛された狩人達をここまで連れてきたエルフの方が、族長さんに状況を説明しています。事情を了解したのか、族長さんは背後を振り返り、大きな巨木(これが精霊樹らしいですが)に一礼をしました。
「まず、双方の言い分を聞こう。お前達は人間の少女達を襲った事は相違ないか?」
やはり、エルフ族側から事情を聞きますか。彼の立場ではそうするしかないのでしょうね。族長の斜め後ろには、いつぞやのヴィクトルが立っています。
襲ってきた狩人達は、自分達は森の中で3人で居る僕達を見かけたこと。僕達が不振な行動をしていた為、声をかけると突然切りかかられ、幼い子供達相手なので手加減しているうちに、武器を壊され、どうやってか魔法の詠唱すら出来なくなってしまったこと。最後に光りの球を打ち上げ、やってきたエルフ達に自分達を襲ったとして引き渡されたといいます。
手加減をしていたとはいえ、いつもは下等種族と馬鹿にしていた人間の子供に、武器を壊され、魔法を封じられた事に、周囲のエルフ族の方々から失笑が漏れます。失笑したのは、特に若い世代のエルフさんに多いようですね。
狩人達の言い分を聞いた後、族長はこちらの言い分を聞く為、こちらに視線を寄こします。下等種族とは話したく無いのでしょうかね? ケイティーさんの顔を見ると、頷くのでこちらの言い分を、僕が族長さんに話します。
エルフの森で子供達といつも通り散策した後、町への帰路で土魔法と矢での攻撃に遭い、子供達と分断された事。子供達に被害が無いようにと、お母さんエルフ達と別れたこと(お母さんエルフ達もその通りと言ってくれます)。
その後、背後からの矢に追い立てられ、岩場に追い込まれたこと。岩場で狩人達が『兎狩り』と言って、矢や魔法での攻撃を行ってきた事。その際に、お母さんエルフ達や他のエルフさんが現われたときは、一緒に殺せば言いと言っていたこと。最後に身を護る為に、彼等の武器を破壊し捕縛した事を伝えます。魔法を封じた事はあえて言いません。
僕達の言い分に、お母さんエルフさんも同意してくれたのと、狩人の彼等の日頃の言動や多種族の被害者から奪ったと思われるものを換金していた事実などが、周囲のエルフさんからでて、どちらが正しいかが明らかになってきて、自分達の立場が危ないと思ったのか、狩人の男が喚き出しました。
「族長、こんな下等種族やそれに迎合する恥ずべきエルフ達の言い分を信じて、我等を処分するんじゃないでしょうね。それに、下等種族の一匹や二匹死んだところで、尊いエルフ族の血に比べればたいした問題じゃないでしょう。」
男はそう言い、周囲のエルフ族の人々を睨みます。族長の後ろで話を聞いていたヴィクトルも大声で口を出しました。
「こいつら下等種族は、我々エルフ族に対して妬みや僻みをもっている奴らです。平気で我々正しいエルフを陥れ様とするでしょう。奴らに迎合しているエルフの仲間達も、巧妙に騙されているに決まっております。」
「はぁ」
僕はがっかりして口を閉ざします。周囲のお母さんエルフや若いエルフの人達からも、
「そんな馬鹿な」
という声は聞こえますが、ヴィクトルの大声に扇動された守旧派というか、他種族卑下派の騒ぐ大声に、声がかき消されてしまいます。
その声に圧され、族長が決断を下そうとしたその時の事です。長老の背後遠くにある巨木の一部が光り輝きます。やがて、眩い緑の光の球となったそれは、真っ直ぐこちらへと飛んできました。
周囲のエルフ族の皆さんからは、「精霊樹様が!」 と声を出しひれ伏す人も現われ、混乱状態です。
真っ直ぐ飛んできた、光の球は族長さんやヴィクトルの頭上を素通りして、真っ直ぐこちらに迫ります。僕は、後ろのエルフ族の誰かに向うのだろうと、光球の軌道から右に避けましたが、直後に光球も軌道を変えて、僕にと向います。
「ちょっと……」
僕の言い分を聞く気も無く、僕は光の球に直撃されました。
*****
光の球に当たっても、特に痛くも熱くもありませんね。ただ、体全体が光に包まれています。僕の視線に、右手が入ります。先程の狩人の男を指差しますね。
『ん? 僕右手動かしてないよね?』
あれ? 声もでないって。もしかして、身体が何かに乗っ取られてる?
慌てる僕の耳に、声が聞こえます。
「これが、我が守護していた一族の成れの果てだというのか」
え、え~?
*****
『これが、我が守護していた一族の成れの果てだというのか』
なんと情けない。そう思う気持ちで一杯になる。古き時代より、森を守護し、森に生きる全ての生命に私は生きる場所と糧を与え、周囲の種族や魔物・魔獣・野獣といったものから身を護る力を与え、短い生の種族では約束が月日を経つうちに都合の良い様に改変されていく事を目撃した為に、種族全体に加護としての長命を授けた結果がこれ。
他の種族を見下し、蔑む事を当たり前と感じ、加護による能力を得た自分達を選ばれた存在と誤解し、信じようとする矮小な心を持つ存在。
『なんて醜悪で残念な存在なのだ。』
他種族を殺し、貶め、辱めてきたその男に指先を向けると、言葉を紡ぎます。
『Holy deprivation(神聖の剥奪)』
指さされた男から光が滲み出て、それが指先へと繋がります。光が消えた後、周囲の人々は驚きから彼から離れました。
「なんだ、どうしたんだお前等」
そう言葉を発する男は、自分の声が皺枯れて居る事に気づかぬようだ。まあ、耳も遠くなっているからね。
『君には私の加護は与えない。加護無き生を楽しむがいい。』
男にそう言い捨て、私は周囲を見渡します。
「まさか。まさか、精霊樹様なのですか? この100年余り、そのお声を発せず懸念しておりました。それもこれも周囲の下等種族のせいかと、我等一同心を痛めておりましたのに、何故このような事を……」
ああ、そういうことか。私の声が届かなくなった事を、自分達に都合よく解釈していたのですね。
『私が声を発していなかった訳じゃありません。あなた方が私の声を聞かなくなったのです。私の声を聞いた純真な子供達でさえ、精霊樹様がその様なことを言うわけは無いと、その声を潰してきたのはあなた方でしょう。他種族と蔑んだ者達の血で、森を汚してきたあなた方に何を期待すればよいのです?』
私は族長と呼ばれた者から目を外し、傍らに居る白と黒のお嬢ちゃん2人に、それによりそう女性に声をかけました。
『私の加護する者達が、迷惑をかけてすまなかった。このまま、彼等と消え行くのも良いかと思っていたんだけどね。寄り代に相応しい彼女が居たので、お邪魔させてもらったよ』
白い方のお嬢ちゃんが、尋ねてきます。
「クロエは何処にいるの?消えちゃったの?」
ああ、心配しているんだね。私は頭を振って否定してあげます。
『大丈夫。眠っても居ないよ。君達の声はちゃんと今も聞こえているから。』
そう聞くと安心したようだね。再び周囲のエルフ族を見渡すと、逃げようとする者・視線を逸らす者・きらきらした瞳を向ける者、様々だね。
『この森に生きる私の加護を持つ者よ、罪に応じた加護減免を今ここに! Holy reduction(加護の減免)』
森中から放たれた、緑色の光は靄となって、私の指へと帰ります。そして2人に寄り添う女性に声をかけました。
『彼らのしてきた罪に相応しい罰とはいえないかもしれないが、悪意ある存在は力を失ったと思う。君達が、森を護る為に助力してくれていたのに、仇で返す結果となってすまない。今後はエルフ族の意思によって、君達との共存を選ばせてやってくれないか?
森が消えてゆく様な変革は避けて欲しいけど、私は一度はこのまま消え行こうとして身だ。彼らが選んだ結果で森が消えてしまうのなら、それも仕方ない事だと思っているよ。』
罪を犯したエルフ達は、総じて止まっていた老化が進み、加護により魔力や肉体の強化は無く、他種族の同年齢の者達と代わらないでしょうし、ここ数年で人口も半減するかもしれませんね。
『残った者達に伝える。君達の残された加護は罪に応じて下げさせてもらった。森に残り余生を過ごすか、他所へ行くのかは君達の判断に任せる。
だが、私の加護はこの森に根付くもの。森が弱り消えうせれば消滅し、森から遠く離れればまた力も減免される。その程度の力だと理解し今後を決めてくれ。では、私は樹に帰らせてもらうよ。』
彼らを見ながら私は意識を元の樹へと戻します。いつか、身体を借りたお礼をしないとね。身体を持てるほど同調できるのは久しぶりだったからね……
*****
うわぁ~、最悪だ。
僕は内心頭を抱えてしまいます。みんなこっちを見ていますが、僕の意識が戻ってきたことは伝えなければなりません。
「え~と、ケイティーさん、エマ、ジェシー。ただいま~?」
僕が声をかけると、エマとジェシーに抱き疲れます。
「本当にクロエですか?」
ジェシーは多少疑い深いのか、確認してきますね。自分より身体の大きい2人に抱きつかれて、僕はよろけますが、2人は僕が倒れるような抱きつき方をしない為、持ち直しました。
ケイティーさんは、僕をみて呆れています。
「なるほどね。アレクシアが、あんたの事を常識が無い・非常識だっていうのは、こういうことも入っているんだね。確かに非常識だわ。」
うっ、ケイティーさんの言葉がザックリ刺さります。でも、今回の精霊樹様?の件は僕には非が無いはずなのですが……。
「あの、居た堪れないので僕らは帰りませんか?」
僕の声に、3人は周囲を見渡します。周囲には、僕に土下座する人や、老化して動けなくなっている人、魔法が使えなくなっていたりと悲喜こもごもとなっています。幸いにして、子供達や外部との交流推進派のエルフの人達はほとんどそのままです(もちろん中には悪い人もいたようですね)。
「おい、どうすればいいんだよこれを。」
僕達に声をかけてきたのは、ヴィクトルでした。意外な事に、老化もエルフにしてはたくましい身体も変わりは無いようです。どうやら、悪事に関しても口だけだったようですね。
そんな彼を見て、僕達4人は声をそろえて言いました。
「「「「さあね。次期族長が頑張ってね(頑張るが良いさ)」」」」
僕達は心から笑いながら家路へと向います。精霊樹様が一時的にとは言え、宿った僕が町の中を通ることを誰も邪魔しません。邪魔しようにも、足腰が立たなくなってしまった人が大多数なのですから。
ユーリアちゃんやダニエル君に手を振ると、お母さんエルフも微妙な顔で笑顔を返してくれます。知っている人が変わってしまっているのだから、全面的には喜べないですよね。でも、これで学ぼうとする人の邪魔をする人は、かなり減りましたし、残った人達で今後どうするかを決めれば良いだけです。まずはエルフ族の結論が出てから、共和国側は動く事になるのですから。僕達にとっては、終わりよければ全て良しということですね。




