27.不穏な気配
今回は多少短めです。
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ケイティーさんのところに来て、4日が経過しましたが、僕の行儀作法はなんとかギリギリ及第点を貰えるレベルに近づいているようです。言葉遣い? それは忘れましょう。それはそれ、これはこれです。
エマとジェシーは既に合格点を貰っており、主の癖に情けないねなどと、ケイティーさんにディスられてます。
最近では、午後は子供達だけでなく若手のエルフさんも来ていますね。見た目10代~20代なんだけど、実年齢はなかなか聞けません。タイラント・ボアとの戦いに参加していた方もいるようで、銃の事を聞きたがるエルフさんも多いのですが、子供達の前で武器を取り出すわけには行きませんしね。
他にも提供した医療パックのポーションや毒消しなどについて聞かれたりするので、その辺の対応はケイティーさんにお任せします。子供達と花輪を作ったり、事前にお母さんエルフさん達と話をして、了解の取れている範囲で、エルフの森の外の話をしたりします。
子供達には前世での昔話とかすると、喜ばれるのですが、既に曖昧にしか覚えていなくて、話せる物語が少ないんですよね。粗筋は元のまま、中身は結構創作しながら話しますが、それでも聞いたことが無い話が多いせいか、喜んでくれますね。ユーリアはお姫様を助ける白馬の王子様、ダニエル君は勇者の冒険活劇のお話が好きなのですが、白馬の王子様系のお話は、僕はあまり知らないんだよなぁ。普通の昔話でも、かなり怪しい記憶ですからね。
穏やかな時が続いたせいで、僕も少し油断していたようです。ここは、エルフの自治領であり、アレクサンドリアとは異なる、それ以上に差別的な場所なんだということを忘れていたようです。
「餓鬼共に嘘を教える余所者は何所にいる!」
柄の悪い大声が聞こえ、花輪を作っていた子供達が身を竦ませるのをみて、僕は声のした方向を振り向きました。そこには、エルフの枠から外れてるんじゃない? って感じの、筋骨たくましい長身の男が立っています。
「おい、ヴィクトル、ここは子供の前だぞ。怯えさせるな」
庭にいたエルフのお兄さん達が諫めてくれますが、数人の取り巻きが邪魔をします。エマとジェシーに目配せをして、周りにいた子供たちをお母さんエルフの元へと誘導してもらっていると、目の前の地面に黒い影が落ちます。視線を上げると、ヴィクトルと呼ばれたエルフの男が僕を見降ろしています。
「こんな餓鬼が教える嘘八百を信じてるだと? ましてやタイラント・ボアの狩りを手伝った? 貴様らは目も耳も悪くなるには早すぎだぜ。」
汚いですね。唾を飛ばしながら話す男に嫌悪を感じて、僕は一歩後ろに下がります。
「だいたい、この白髪赤瞳の餓鬼なんざ、人間のすむ地域でさえ受け入れてもらえるわけがねえだろうが。お前らも追い出されてきたような餓鬼の言うことをいちいち間に受けてるんじゃねえよ。」
口汚く罵るエルフって、美形ぞろいのせいか余計醜悪に見えますね。僕は俺様系のDQN(既に死後、埋蔵済み?)は苦手なんですが、言われっぱなしというのも癪に障りますね。此方にきてから、交戦的になってしまったのかな?
「子供の戯言という割に、一番それに反応しているのが貴方じゃないんですか? 何方がみっともないんでしょうね」
僕がそういった途端、ドンっと背中を突かれ前に押し出されてしまった僕の胸元を、つかみ上げてヴィクトルと呼ばれた男は言います。
「たかが、人間風情のくせに、次代のエルフの族長である俺に意見しようっていうのか? 餓鬼が粋がるんじゃねえ!」
力任せに僕を地面に叩きつけようとした乱暴者の行動は失敗に終わります。なぜならば、馬鹿力ゆえに、アレクシアさんの用意している仕立てのいいドレスは、彼の馬鹿力に耐え切れなかったからですね。
ビリィッと胸元が裂け、地面に叩きつけられるところを危なく避けて、猫のように体を回転させて着地し、僕は胸元に手をやりながら後ろに下がります。さすがに、この状況では武器も体術も使うのは無理ですね。エマとジェシーが子供たちのところからこちらに駆け寄ろうとしますが、目で止めます。
周囲から、女の子に対する乱暴に流石に非難の声があがり、ヴィクトルとその仲間たちが不機嫌に騒ぎ立てようとした時でした。
「さっきから五月蠅いね。ここはあくまで教えを乞う場所さ。その気がないならかえっておくれ。」
玄関の前で仁王立ちして、ケイティーさんがヴィクトルを睨みつけます。
「ふん。たかだか50年やそこら生きただけの人間風情に、教えを乞うようなエルフなんざいねえだろ。みんな、お前らの言う嘘八百を気まぐれに聞きに来てるだけの事さ。劣った種族の話を本気で聞くやつなんかいねえんだよ。」
ヴィクトルの言葉に、ケイティーさんも言い返します。虚勢かもしれませんが、ケイティーさんに言い返せるのはすごいのかな? まあ、彼も100年以上は生きているんでしょうから、少しは耐えられるのでしょう。
「確かに、森と共存共栄する知恵を考え出し、見出したエルフの先人は偉かったさ。どの種族よりも優れた力で森で生きてきた。今も多くのエルフ達のおかげで、豊かな森があるのは事実さ。
だけどね、先人の遺産を食いつぶす輩がでて、それを自制もできないんじゃ話にもならないね。ヴィクトル、あんたは私の数倍生きているくせに、一体何ができるというんだい。威張り散らすだけで、タイラント・ボアの前では腰が引けてなにもできなかったせいで、子供たちのいる南西の泉にタイラント・ボアを逃がしてしまったってのは、みんな知ってるよ。」
その言葉にヴィクトルは怯み、周囲のエルフさんを見渡します。お兄さんエルフ達は苦笑いしてますし、お母さんエルフ達は睨みつけていますね。典型的な口だけの粗暴な男性のようですね。
「ふ、ふん。タイラント・ボアなんざ、俺様にかかれば目じゃねえさ。おい、いくぞ」
そういって、取り巻きを連れて去っていきます。僕はその後ろ姿に『アッカンベェ』をして見送りますが、いきなり後頭部を小突かれました。
「イッタァ、何するんですかケイティさん。」
「あんたも、ない胸さらけ出して淑女がしちゃいけないことを、子供達の前でやるんじゃないよ、まったく。
さぁさ、今日は邪魔も入ったからお開きだ。子供達はおやつを作ってあるから。持ってお帰り」
ケイティーさんの言葉に、こわばった表情を崩して喜ぶ子供達をみて、僕も表情を崩します。そういえばさっきない胸がどうとか、ケイティーさんが言っていたような……
「きゃわぁわぁ~!」
奇声を上げて玄関に飛び込んでいく僕の姿をみて、皆さんとても楽しそうに笑っていたようです。ちくせぅ……
その晩は、罰として夕食抜きとなりとてもお腹が空いてしまった僕は、早々にふて寝しました。




