24.???の町
東岸地区の上空を、ドローンモドキで飛行する事30分程過ぎました。操縦を担当しているジェシーが言葉を発します。
「クロエ、まもなく目的地上空です。視認できますか?」
足元が透明なので、地上の様子も良く見えるのですが、落ちそうな気がして余り気分はよくないね。それでも、気を取り直して地上を確認すると、斜め右の方に森の中の開けた空き地のような場所が見えます。
「ジェシー、2時の方向に空き地が見えるけど、そこかな?」
同じ方向を見ていたエマもやはり気付いたようですね。
「ジェシー、確認しました。2時方向距離150mに目的地を確認。地上高度30m以上で上空へ移動してください。」
「了解しました。クロエ、宜しいですか?」
僕が頷くと、目標の空き地上空で滞空します。ゆっくりと高度を下げるドローンモドキ。
「クロエ、周囲にこちらの様子を窺っている複数の対象を確認。排除しますか?」
エマの言葉に、僕はあわてて頭を振ります。
「まってまって、排除は中止。まずは、安定して着地させて。」
「了解しました。着地を優先します。」
やがて軽い衝撃がきて、ドローンモドキのプロペラの回転が止まります。ジェシーが座席を回転させて、こちらを向いたので、3人で機体から降りて誰かが来るのを待つことにしました。
「ドローンモドキ1、迷彩化保護モードに設定します。」
DM1って酷いネーミングだなと思いつつ、後ろを振り返ると、ドローンモドキが迷彩化され、何かがあることは解っても、具体的な形までは判らなくなります。
「ジェシー? 保護モードって、どうなるの?」
「解説します。保護モードでは、DM1に触れると高圧電流が「止めて、止めて、怪我しない程度に」……、了解しました。ショックモードに移行させます。」
この娘達は、基本的に迎撃仕様だから、相手を行動不能にするのが目的だから、生死をあまり考慮してないんですね。今後とも注意が必要みたいです。
「名前、他の無かったの? DM1って、いろいろ酷い気がするんだけど。」
僕の疑問に、エマが答えてくれます。
「酷い名前なのですか? 元マスターのエリック様も特にこだわってはおりませんでしたし、クロエが名前をキチンとつけないから、まあいいやと仰ってましたが。」
……この調子では、僕の失言から産まれたものの名前は推して知るべしですね。聞かなかった事にしましょう。
そんな会話をしているうちに、木陰から誰かが出てきます。月明かりで、フードを被っているので見た目はわかりませんが、背の高い身長の男性のようですね。左右の木陰には、弓を構えた人が居るのでしょうけど、こちらから敵意を表す必要は無いので放置します。
「怪しい物で空から降り立った貴様らは何者だ。ここは、魔都アレクサンドリアとの直通馬車の待機エリアだ。事前に許可を得たものでなければ、近づく事はまかりならん。即刻立ち去れ。」
むぅ、結構強硬な態度ですね。アレクシアさんに、ここの管理者に見せなさいといわれた紋章の描かれたメダルを、彼に差し出します。
「僕達は、アレキサンドリアのアレクシア・ウィンターさんに頼まれて、ケイティーという人に手紙を直接手渡すように言われてきました。
その後の指示はケイティーさんに従えという事でしたので、案内していただく事は可能でしょうか?」
案内人の彼は、暫く紋章と僕を見比べていましたが、納得したのか着いて来いという仕草を見せます。なんでしょうね? こちらを見下している感がかなり感じられます。リアンやワイアットと同種の人のようですね。
森の中を彼に続いて歩きますが、途中で一瞬眩暈のする場所がありました。こちらの速足になっていることに気付いていながら、前を進む彼は脚を緩めもしませんね。がまんがまんと自分にいいきかせて、エマとジェシーの2人も押さえます。変に争うのは良くありませんしね。でも、あくまで今の処ですよ?
*****
薄暗い木々のトンネルを抜けると、開けた場所にでます。見た感じは広い畑といった感じですが、真北に高さが50m位のとんでもなく高い木が見えます。人々の住むのは森との境界近くなんでしょうね。木々に大小のツリーハウスが見えます。
少し先に門がみえて、中は道々に外灯があるだけのシンプルな作りです。時間も20時を回っているせいなのか、人通りも少ないですね。町の規模からいえば、カルセドニーの村より遥かに大きいのに、活気が感じられませんね。
案内の彼はこっちだという感じで、顎をしゃくりますが、町の中へ入る気は無いようです。町の外周を南下する道?のような所を数分あるいて着いた家も、村から少し森にはいった小さな家でした。庭には小さな泉と花壇がありますね。
「あの家がケイティーの家だ。後は好きにしろ。但し、勝手に村に立ち入るなよ。」
そう捨て台詞をはいて、案内人の彼は来た道を引き返していきます。僕は思わずアカンベエをしたくなりましたが、エマとジェシーがいるので自重します。僕は一つため息をこぼして、小さな家の玄関にむかいました。
ノッカーを使い、ドアをノックして待つことしばし……
「こんな時間になんの用だい。年寄りの静かな時間を邪魔するんじゃないよ。」
そういい、ドアを薄く開けたのは、お年寄りには見えない女性です。ダークブロンドの髪に、グレイの瞳は見覚えのある気がしますが……
「えっと、僕はクロエといいます。ケイティーさんのお宅でしょうか?」
「……確かに私がケイティーさ。でも、あんたなんか知らないね。何の用事だい。」
僕は慌てて、アレクシアさんからの手紙をケイティーさんに渡します。ケイティーさんは、しばらくそれを読んでいましたが、やがてドアを大きく開けてくれました。
「音沙汰無かったくせにこういうときだけ頼み事なんて、困った娘だね。さっさと入りな。目立ってしょうがない。」
そういって通された部屋は、小さいながらも温かみのある配色の部屋です。小さなテーブルを挟んだ長椅子に、クッションが無造作に置かれていますね。僕の右にエマ、左にジェシーが付き、長椅子に座ります。正面の椅子には、ケイティーさんが腰掛けました。
「さて、手紙に書いてあった事から話すよ。クロエを2週間ここに滞在させて欲しいんだとさ。そして、もう少し常識というものを教えてやってくれだとさ。あんたは、そんなに常識が無いのかい?」
ケイティーさんが入れた紅茶を、一口飲んで僕は口を開きました。
「……常識が有るかどうかはわかりませんが、非常識といわれる心当たりはありますね。」
自覚があるかどうかは別として、不用意な発言が黒歴史を生産して来た事は事実ですからね。
「ふむ。まず直さなきゃいけないのは、自分の事を僕っていうことかね。見目麗しい女の子にしては、口調や話し方が伴ってないね。」
ケイティーさんの言葉に僕は赤面してしまいます。そこは事実ですが、それを今さら変えるのも精神衛生上多大な負担が……、そう思った矢先に身体がグラリと揺れます。エマとジェシーが驚いた顔をしていますが、瞼が重くあけていることが出来ません。
「今日はゆっくりおやすみ。なんにしても、暗い中では真実は見えないものだよ。まあ、明るい中でも見えるとは限らないのだけれど……」
ケイティーさんの予言めいた声が、僕がその日最後に聞いた声でした。




