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駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……  作者: 猫缶@睦月
7.女王の奏でるラプソディ
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02.貴公子と雑草

 Q(クイーン)A(アレキサンドリア)の出港を明後日に控えた夕刻の事である。青家傘下にある乗員は、ワイアットによって、海軍省の一室に集合させられていた。

 青家傘下とはいえ全ての者ではなく、既婚者や婚約者を持つ者は除外されていたので、人数は二十名ほどではあったが、その中には嫌々参加させられていたアルバートの姿も見受けられる。

 彼らが集められた部屋は、軍の会議用のスペースではあったが、座席も用意されており、参加した面々は思い思いの場所に陣取り、出港前の情報収集に務めている。

 やがて指定された時刻に、ワイアットがドアを開き現われると、皆口を閉じて自然に注目した。集められた面々の顔を一通り見回した後に、ワイアットが口を開く。


「諸君、本日は僕の急な要請に集まっていただけたことに、まずは感謝をしよう。

 青家傘下の君たちに、今日ここに集まっていただいたのは、僕からのささやかな依頼というか、お願いと助言を聞いてもらいたいからだ」


 珍しく下手(したて)に出たワイアットに対し、思う所があったのか、集まった面々は顔を見合わせるが、特に口を出すものはいない。アルバートも会議室の後ろで、目立たぬように話を聞く体勢である。


「諸君も噂は知っているだろうが、少し前に僕だけでなく、白家のイリス、黒家のクロエ、そして元皇女のユイに対して、三年間の内に自身の伴侶を決めるようにと、委員会から指示が出た事は知っていると思う」


 ワイアットの言葉に、やはり噂は本当だったのかなどと小声で話す声や、何を言い出すのかと揶揄(やゆ)の笑みを浮かべてワイアットを見る者など、集まった面々は様々な表情を見せる。雑多なささやきが静まり、皆が落ち着くのを待ってから、ワイアットは言葉を続けた。


「リアンの元でも、今頃同じような話を、Q(クイーン)A(アレキサンドリア)に乗艦する者に話しているはずだが、この件で僕やリアンが君たちにお願いしたいのは、彼女たちに手を出すなという事ではない。むしろ、青家・紅家としては是非彼女たちを射止めてほしいというのが願いだ」


 ワイアットの言葉に、一同の熱気は高まるが、そこに冷ややかな声を上げる者もいる。


「それで三人の中で、次期当主殿の意中の女性には手を出すなという事ですか?」


 会場中の面々が見つめるなか、足を優雅に組みなおす金髪碧眼の優美な姿をした男、ディランが口を開いた。


「紅(・)家(・)の(・)リ(・)ア(・)ン(・)殿(・)共(・)々(・)、彼女たちにお近づきになろうとした勇気ある者たちに、今までお二人に有形無形の様々な邪魔をしてきたのは、皆も承知しているところです。

 今更、積極的に彼女たちを射止めろと言われても、素直に信じる事はできませんが……」


 ワイアットは、そんなディランを訝(いぶか)し気に見つめている。ディラン・ヒルは、現在二十歳であり、Q(クイーン)A(アレキサンドリア)の航空隊に所属している。飛空艇の操縦技術では、ワイアットに劣らず、青家傘下の男子の中でも、高い能力と優美な容姿を持つことで知られていた。

 身分制度の無いアレキサンドリア共和国内にあっても、他国の高位貴族の所作を研究し、貴族の様にふるまう姿は、上層街の独身男子には嘲りを持って見られていたが、若い女性たちの人気は高く、様々な浮名を流していた。


 訝(いぶか)しく思ったのは、ワイアットやリアンに特に遠慮していた訳ではないだろうが、彼女たちに興味を持ったと聞いたことは無かったのである。ディランは年下好みではなかったはずだが、ワイアットが周囲を見渡すと、彼(ディラン)の言葉にうなづく者も多い。


「……別に意中の女性がいるから邪魔をしていた訳ではありませんよ。

 まあ、今まで様々な妨害をさせていただいたのは事実ですが、あくまでもしつこく付きまとうような真似は、彼女たちに好かれたいと思うのであれば、逆効果だったからですよ。

 そして今回、僕からのお願いや助言をするのも似たようなモノでしてね」


 そう言いながら周囲を見渡したワイアットの視線が、一瞬アルバートをとらえるが、そのまま視線をそらせて彼は言葉を続けた。


「君たちが、彼女たちと接触を持つことに、僕やリアンから今後言う事はない。しかし、それぞれに与えられた役目は、あくまでも完全に遂行したうえでの話ということだ。

 君たちが任務をないがしろにして、彼女たちをおいかけるのでは、その責任は僕にかかってくることになるのでね。まずは任務はしっかりとこなしてほしいという事が僕の願いだ。そして、これは僕からのアドバイスになるのだけれど……

 彼女たちはしつこく言い寄る者を嫌う傾向が高いし、任務をこなせない半端者を、現当主や彼女たちが伴侶に選ぶことはないだろうということだ。自分こそ、彼女たちに相応しいと思うものがいれば、その点を留意して挑んでほしい。僕からの話は以上だ」


 そう言って、ワイアットは部屋を出て行った。アルバートの周囲では、青家と紅家の主導権争い勃発かなどと言い始めるものもいるが、特に興味が持てる話ではなかったので、さっさと部屋を後にしようと扉に向けて歩き出した。


「アルバート、ちょっと待てよ」


 Q(クイーン)A(アレキサンドリア)では、処女航海から航海長を務めているハリーが、アルバートを呼び止める。もともと対人関係になんのあるアルバートは、うんざりした顔で首だけ振り向くが、ハリーはそんな彼に、にこやかな笑顔をみせる。


「よかったな、次期当主殿は邪魔はしないっていうことだぞ?」


 アルバートは仕方なくため息をつきながら、振り返る。


「今の話の何処を喜べって? 地道に任務をこなして気をひけってだけの話だろう。まして、彼女たちはQ(クイーン)A(アレキサンドリア)では上官なんだろ?

 お前のように、いっしょに艦橋にいるわけでもない人間に、機会なんて有る訳ないし、僕は彼女たちに興味が有る訳でもないさ」


 そう言ったアルバートに、ハリーから情報を得ようとしたのか、ディランや他の男子も周囲に集まってくる。


「確かに、接触の機会は多いにこしたことはありませんが、相手から寄ってくるように仕向ければいいだけの話でしょう」


 ちらりとアルバートとハリーを一瞥して、ディランは「もっとも、君たちにそれができればの話ですが」と口にする。


 ディランはワイアットの指揮下で、Q(クイーン)A(アレキサンドリア)の航空隊に所属している。航空隊は、Q(クイーン)A(アレキサンドリア)の中では花形部署であり、任務も派手であり、ディランには相応しいだろう。

 対して、アルバートが所属するのは、今回の航海で新設された調査隊である。それに隊長などではないのだから、艦橋に立ち入る必要も権限もない。


 航海長であるハリーは、当然艦橋につめており、会話もしているのだから、普通に考えれば、ディランやアルバートに比べれば一歩も二歩も前を歩いている事になる。 だが、ハリーの考えは異なるらしい。


「いや~、あの子たち相手じゃ、近くにいればチャンスが増えるという訳じゃないよ? 逆に好感度を下げる機会が増えるだけかもしれない」


 処女航海での失態をあえてこの場で口にする気はないが、ハリーとしては神妙な面持ちである。


「ふっ、確かに君たちではそうなるかもしれないね」


 ディランはそう言いながら、ブロンドの髪をかきあげながらニヤリと笑みを浮かべる。明るいグリーンの瞳には、ハリーやアルバートを小馬鹿にする色が見て取れたが、アルバートには同性からそう言った目で見られる事にはある意味慣れていた。


「まあ、彼女たちの気をひける事を祈っているよ。僕は、不在の間の温室の管理とかの引継ぎがあるから、これで失礼するよ」


 そう言って部屋をでて立ち去ってしまったアルバートを見送って、ディランは肩をすくめた。そして、ハリーを見ながら怪訝な表情を浮かべる。


「しかし解らないな? 何故航海長殿はあんな奴をわざわざ乗艦させるんだい? 相手が相手だけに、変わり種も入れておいた方が確率はあがるだろうけど、女性より雑草の方が良いって奴じゃ、しかたないだろうに。

 まあ、本気で三年後に結果を残すのなら可能性はあるかもしれないが、僕には三年なんて永すぎる時間さ」


 そう言いながら立ち去るディランを、ハリーはやはり笑みを浮かべながら見送るのであった。ディランが扉を開けて部屋を出ていき、それでも賑わう部屋の中でハリーは誰にも聞こえぬ声でつぶやいた。


「……ディラン、確かに君はイケメンで恰好もいいさ。だけど、次期家長(ワイアット)殿が数年かけても、欠片もなびかない彼女たちを、いつものように落とせるかな……?」


 その笑みは、果てしなく黒かったのである……

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