18.東方遠征について考えてみた
「予想通りの展開でしたわね」
「ええ。アレクシア様たちが動ける範囲内を最大限使った結果でしょう」
なぜか僕の部屋までついてきたイリスさんとユイですが、開口一番にこの台詞です。予想していたようですが、二人はショックは無いのでしょうか?
二人に尋ねると、すこし呆れた顔で僕を見つめた後、言いました。
「あのね、何故アレクシア様たちが今回のような遊びを許したのか考えればわかるでしょう? 貴女が言ったように、女の子として楽しめる時間が無いのは、わたくし達も同じことだって」
イリスさんの言葉にユイもうなずきます。
「エルフ族で長命なユーリアちゃんを除けば、私たちを国内に留めるためには結婚させるのが確実ですからね。
以前のアレキサンドリアであれば、他国の人間と関わる事は少なかったので、心配はいりませんでしたが、私たちは他国で活動しています。他国の殿方と結婚して、国に戻ってこないという可能性をつぶしておきたいのでしょう」
はぁ、だからと言っていきなり結婚ですか……、そもそも結婚自体を僕は考えたくないのですが。
僕はよほど微妙な顔をしていたのでしょうか? イリスさんが呆れた顔で離します。
「アレキサンドリア共和国に身分制度は無いといっても、始祖四家は他国の王族や貴族家と同じように、血統を残す事を求められるのくらいは貴女もわかるでしょう?
白家も黒家も女系ですから、極端な話私たちの伴侶に求められるのは魔力の高さですわ。
極端な話、私とあなたの伴侶に求められているのは、高魔力である種馬のようなものよ」
……なぜか心の中に刺さるものがありますが、前世で男だったせいでしょうか? イリスさんのような美人さんに、種馬とか言われると地味にダメージがある気がします。将来のイリスさんの旦那様の冥福を祈るとしましょう……
「……僕たちはわかりますが、ユイはそれに縛られることは無いんじゃないでしょうか?」
僕がそういうと、イリスさんもユイも真顔で僕を見つめます。
「……あのね、あなたユイが元皇女だって事実を忘れていない? ユイがアレキサンドリア国民以外の伴侶を選ぶのは、後々に『遼寧』との政争の火種を残すようなものよ。
それに、貴女よりユイの方が伴侶を自分で選べるなんて思ってないわよ」
そう言われてユイも苦笑いしていますね。
「国に戻れば、隣国の年の離れた王族との婚姻が結ばれていたでしょうね。幼いか、老齢の王であったかは今となっては判りませんが、私の希望が通る事はなかったでしょうし」
ちょっと暗くなりつつあった雰囲気ですが、イリスさんが手を打ち鳴らしてかき消します。
「まあ、最終的な相手がどうであるかはあまり気にすることはありませんわ。三年間で気に入った相手が見つからなければ、一夜の種馬を求めるだけの話。それに、わたくしの研究が進めば、相手を気にする必要がなくなるかもしれませんし……
そんな事より、今は東方への『QA』の任務について考えましょう」
なにか怖い事をイリスさんは考えてそうですが、確かに僕もその件についてはあまり考えたくないので、とりあえず考える事は放棄しましょう。
「ん、わかったよ。とりあえず今度の東方への任務は、前回の南方への訓練航海と違って、三カ月というある意味長期任務になるのが問題だよね。東方海上には、青玉島という拠点があるらしいけど、この辺については何か知ってる?」
僕の質問にイリスさんは首を振りますが、ユイは何か知っているようですね。
「青玉というのは、アレキサンドリア共和国やアルべニア王国などのある大陸と、遼寧などがある東の大陸の間にある大洋『エリ・マーデル・バランコ』の入り口にある島ですね。
たしか何処の国にも属さない中継地のような場所だったと思います。さほど大きな島ではなかったのですが、島の東側に交易船の中継地となる街があったはずですし、西側には立ち入りが禁止されていたのでわかりませんでしたが、恐らくアレキサンドリア海軍の軍港があったのでしょう」
ということは、食料や水などは調達出来そうですね。現地の治安状態や、予想される敵や海賊などの状況は、明日軍に聞けばわかるでしょう。
「一番の問題は、『QA』の乗員の数ですわ。試験航海と違って、長期任務では前回の様に小人数で取り廻すのは難しいですわよ。せめてきちんと交代で勤務できるための人員を確保しないといけないのですから、倍の人数は必要ですわね」
「そうなると、単純に数十名の新兵さんを連れて行くことになるのかぁ。現在の乗員に新人さんを補充するとなると、みんなに負担がかかるのは間違いないけど、軍が人員を出してくれるかなぁ」
僕はそう言って頭を抱えます。前回の話では、こちらに回す余剰人員は無いという話でしたし。それに、今回はオスカー副長のような人は乗船しませんからね。
まあ、青玉島には基地司令みたいな人はいるのでしょうから、現地での指揮系統だけを正確に把握しておくとして、航海中の人員は必要です。
「あぁ、恐らく補充乗員に関しては問題ないわよ。委員会経由で、種馬が押し付けられるでしょ」
イリスさん……新規でくる男性乗務員は、全て種馬扱いですか。とはいえ、僕たちが外洋にでるのですから、国としては確かに伴侶候補を押し込みたいところでしょうね。
「どうせなら、新兵の大半は学院の新卒者から、男女合わせて選考したいですね。男性ばかりでは、艦内の雰囲気が荒れる事が予想されます。
委員会から送られてくる方々は、私たちの気をひくように言われてるでしょうから、争いの元になる可能性もありますし」
確かに僕たちの気をひく事ばかり気にするようでは、任務に支障が出る可能性も高くなります。任務に支障が出る場合は、必要に応じて軍港での地上勤務に変更するようにお願いしておく必要があります。
「敵は艦内だけとは限らないわよ。階級をかさにきて、無理難題を言われる可能性があるわ。現地の基地司令の階級と、指揮権の確認もしておく必要があるわね。
まさか、母様やアレクシア様を敵に回すとは思えないけど、任地であれば無体な事をいう輩もいないとは限りませんし……」
確かに任務にかこつけて、無理難題を言われる可能性もありますかぁ。海軍は紳士が多いとはいえ、海賊などの相手をするために、士官以外の海兵は荒くれ者が多いかもしれません。
『QA』は海軍の所属ですが、他の船と違って乗員は青家だけで構成されていませんからね。他の船と異なり、女性乗務員が多いのも特徴ですが、敵を相手にする分には問題無いとしても、悪質な味方と闘うには問題が多いかも……
ひたすら考えていた僕は、ふとある事を思いつきます。
「……ねぇ、こんな案はどうでしょう?」
思いついたことをイリスさんとユイに相談してみます。僕の話を聞いた二人は、あ然とした顔をしていましたが、やがて人の悪い顔を浮かべます。
「軍としては問題あるかもしれないけど、それは良いかもしれないわね」
「確かに上手くいけば、私たちだけでなく他の乗員への被害も抑えられるかもしれません。ですが、大丈夫でしょうか?」
僕は二人に向けて、ほほ笑みます。少なくても、乗員の安全を守るための方策なのですから(最も、不埒な味方からという想定ですが)、誰も文句は言わないでしょう、きっと彼女たちも情報は欲しいでしょうからね。お互いにWin-Winの関係になれるはずです。




