20.実習と言う名の(2日目 オーク戦)
「リアン、ワイアット、後ろ!」
僕の声に二人は背後を振り返り、こちらにやってくるオークを見つけたようです。その数6。
「ちっ、居るのかよ」
リアンがはき棄てますが、当初から警告はされていたのですから、文句は言えませんよ。しかし、数が多いのはまずいですね。僕はワイアットに声をかけます。
「ワイアット、半数以上は僕がひきつけるから、二人はイリスを護りながら後退して!」
「駄目よ、クロエ。貴女も来るのよ」
「駄目だイリス。相手の数が多い。ここはクロエの提案どおりにする」
イリスとワイアットの声が聞こえますが、このままではかなりまずいので、僕は彼らを無視して、オークの腕を狙い打ちます。5体の腕に多少の火傷を負わせて、注意を引き付けます。回避盾役は近接攻撃者の役目ですし、仕方ありません。
追いつかれない程度に身体を加速させて、岩場へたどり着くと、僕を追って5体のオークがやって来ましたね。射線にワイアット達が入らないように移動しないとね。
魔力の使用モードを単発に切り替えます。こうすると、魔石に溜めてある魔力を全開放することで、強力な一撃を放つ事が出来ますが、一つの魔石で1発しか打てなくなります。
ですが、トリガーを引く度に、シリンダーも合わせて回転させることで、次の発射位置に来るまでに、魔石に僕から魔力をチャージするので、ある意味無限に近い弾を撃てるようになります。まあ、属性が変わるので、効果を考えなければいけませんが。
「風弾」
風属性の魔石の力を全解放して、圧縮空気の塊を発射。塊となった風の力は、オークの頭部に当たると、弾けて風の刃を生み出し、オークの頭部はスイカのように大きく弾けました。なかなか、グロい絵ですがいちいち見ていないからいいよね。
5頭のオークを次々と葬ります。加速しながらの射撃なので、光や火属性はまるで剣を使ったかのようにオークを真っ二つにします。所詮はファンタジーでは定番の雑魚であるオークです。オートマタ『緋の双姫』に比べれば、大きいだけのただの的ですね。まして、今の僕には銃がありますから。
「きゃ~っ」
5頭目を倒した直後に、響き渡った悲鳴はイリスの声ですね。ちっ、ワイアットにリアンの奴、自分で立てたフラグすら回収できないのかよ。
周囲に倒れているオークの身体を、火魔法で根こそぎ焼却します。生きてるとは思えないけど、アンデッド化されても困りますしね。前に自分で立てたかもしれないフラグはキチンとへし折らないと。
リアンとワイアット、イリスのいた筈の場所に戻ってみると、そこには彼らは居ませんでした。そこから、数十メートル下った場所に、リアンもワイアットも倒れていますね。ワイアットの銃は、変な方向にひしゃげていますし、リアンの持つ銃は銃身が破裂しています。
辛うじて、二人は身体欠損は避けたようですが、右手は折れたり、血まみれですね。まあ、あの程度なら早々には死なないでしょう。イリスが戻ればですが。
二人の前に戻ると、僕が無傷なのに驚いているようですが、リアンがまず口を切ります。
「イリスが、イリスがあいつ等にさらわれちまった。早く助けに行かないと……」
リアンが指を挿しますが、ワイアットは無言のまま、視線を逸らせます。
僕は二人に低い声で確認しました。
「必ず護るのではなかったのですか? リアン? ワイアット?」
「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ! イリスを助けないと!!」
リアンが叫びますが、無視します。
「今回、君達が僕を囮にして逃げ出すことも、僕は承知していましたし、それでもいいと思ってましたよ。アレキサンドリアの人々にとって、始祖四家の直系の血筋は大切なことは理解していますから。それゆえに僕がイリスさんの守りから離れ、あえて囮として敵を引きつけました。それはあなた方が、イリスを絶対護ると言ったからです。守れない大言壮語を吐く味方など、少なくとも僕には不要です。自分達の大言壮語が何をもたらしたか、それを憶えておいて下さい。」
僕は二人に背を向け、走り出しました。この辺の地形は、イリスと一緒にギルドの出張所で地図を見せてもらっています。イリスをさらったオークが走り去った方向を、それと照らし合わせると予想通りの方向ですね。
村で聞いた、ドワーフ族の古い坑道跡がこの先にあるのです。山越えは大型の魔物には厳しいはずなのに、時たま出没するのは、どこかに繋がった洞窟や坑道があるんじゃないかと疑った結果ですけどね。
ファロス島25層で戦ったときの事を思い出します。あの時僕は、カメラの位置を精確に把握できました。同じ事ができないでしょうか? エリックさんは言ってました。人には固有の魔力の色があると。ならば、イリスの漏洩魔力が色として認識できるのなら、イリスの正確な居場所も判るはずです。
「…Search イリス・エアリー…」
見つけた。やはり思った場所に居ますね。動きは止まっていますが、まだ魔力が力強く放出されていますので、聖なる盾を張っているのでしょう。イリスは僕との約束を守って待っていてくれます。なたば、僕も約束どおり急がないといけません。
*****
加速して10分程走ると、森が突然切れて少し開けた土地に出ました。周囲には、朽ちかけた建物が数棟あり、正面には深い闇に染まる洞窟が口をあけています。その前に、数頭のオークと、一回り筋肉とかがたくましいオークが居ます。ハイオークかな?まあ、どちらにしても滅んでもらいますが……
ピストルスコープを装着し、照準を合わせます。まずは、ハイオークのような奴からですね。ハイオーク(ハイオク)だけに燃焼効率は良いでしょうから、火魔法で屠ってさしあげますね。火力は半分で良いでしょう。
照準の真ん中にしっかりと合わせ、トリガーを絞ります。狙い通りに頭部に命中。大変よく燃えました♪ もう一頭も綺麗に燃やして差し上げます。いけない、気分がだんだんハイになってきていますね♪
空き地の様な開けた土地にでると、建物や岩陰から数頭のオークが出現しますが、今度は土魔法で鋼の針を生成し、銃口から打ち出します。まるで、忍者が使う棒手裏剣が打ち出されるようで、全て頭部を打ち抜き倒します。
何頭か、洞窟の中に逃げ込んだようですが、彼らの運命は変わりませんよ。さあ、イリスを迎えに行きましょう。
レッグホルスターからも『ガンブレード』を引き抜き、左右の手に持ったら、セレクターを操作。狭い洞窟ですし、跳弾は怖いですからね。トリガーに指を当てると、銃身の前に生成される魔力の刃。
さぁ、お仕置きの時間です♪
*****
光魔法で洞窟内を照らし、ガンブレードで切り伏せるだけの簡単なお仕事です。なにせ、相手は暗闇に目がなれていたせいで、ライトボールの明るさに立ち尽くすか、がむしゃらに腕を振り回すだけですからね。特に苦労はいりません。
洞窟の中は、奥から生臭い風が吹いてきて、匂いだけで辟易しますから、さっさと片付けましょう。
不意に、前に薄明かりの点いている部屋? が見えました。
ああ、やっと見つけた。イリスが居ますね。聖なる盾を張って待っていてくれたみたいです。ハイオーク以上になると、ある程度の知性もあるのか、何時までも魔法が持たないことを知っているのか、イリスの前で逃げられないようにしているだけで、無駄な力技には及んでいないようですね。
イリスの前には、角の生えたオークが居ます。あまり、血なまぐさいシーンを見せると怒られそうですから、さっさと助けて逃げ出しましょう。
「イリス、お待たせ。迎えにきたよ。」
僕の声が洞窟に響きます。オークの変異種? とイリスがこちらを向いたので、加速してイリスの脇に並ぶと、彼女を抱きかかえて走り出します。やばいやばい、怒った怒った♪
そのまま、後方に特大のライトボール(照度MAX)を放り投げ、洞窟入り口まで一気に走り抜けます。
外に出ると、イリスを傍らに降ろします。
「あは、さすがにへたり込むまでにはなってなかったね。」
「当たり前ですわ。この程度で私がどうにかなるわけありませんわよ。」
二人で話していると、洞窟の入り口に、オークの変異種?が現われます。
「じゃあ、片付けてくるから少し待ってて。」
両手に刃を生成したまま、正面から突っ込みますが、素直に相手するほど僕は真面目じゃありませんよ。待ち構える変異種?の前で急制動をかけ、両手のガンブレードを正面に。
トリガーを引いて、刃を飛ばします。刃は右目と、左胸を貫きますが、なかなかしぶといですね。倒れません。
「ご褒美に、全弾プレゼントしてあげる♪」
左右の銃口から、全属性弾を両腕・両脚・胸・頭部にプレゼント。さすがに倒れるでしょ。っていうか、倒れなさい♪
最後に、右のシリンダーを振り出して、ロック機構を解除。一粒弾用のシリンダーをセットします。シリンダーをロックして、左の銃はレッグホルスターに戻して、両手で狙いをつけてっと。
「最後のとっておき、プレゼントだよ♪」
洞窟の上、変異種の倒れている少し手前を狙います。
「adios」
トリガーを引いた途端、ドンッと凄い音が響いて、僕はイリスの足元まで飛ばされ、爆風で転がりました。イリスも両腕で顔をかばって立ち尽くしています。
「あはっ、加減間違えたかな。」
僕の目の前では、特大の魔法弾を受けた洞窟が、変異種? もろ共大崩落を起こしています。ドドドドドドドッとか凄い音ですね~。これは村まで聞こえているかも。
イリスをみると、口をぽかんと開けて放心してますね。足元で、鳶座りして銃口を下に向けたまま、僕はイリスに話しかけました。
「あの~、イリスさん? お願いがあるんですけど……」
あっ、どうやら再起動してくれましたね。
「助けてくれてありがとう。それで、お願いって?」
僕は意を決して言います。
「あの、肩と腰が抜けちゃって……、治療お願いしたいんですけど」
「はぁああ~?」
イリスさんの呆れたような大声が響き渡り、この日の大捕り物は終了を迎えたのでした。




