72.結末……③
「……さて、みなさんどうでしょうか? ただの狂戦士かもしれませんがもう商船は襲わないでしょう。
海賊を狩る海賊として存在するのであれば、少しはこの海域の海賊退治に役立ちますし、いずれは海賊同士で勝手に殺しあって、のたれ死ぬことでしょう」
クロエの言葉で、周囲は光に満たされた。眩しさに腕で目を隠したシオンであったが、目が慣れるにしたがって、そこは南国の陽光の下、金属製の甲板の上だったと知る。
周囲を見渡したシオンは、クロエの背後にたたずむ7人の美女と、アレキサンドリアの船の艦長を務めているオスカーがいることを目にした。
更に、自分たちの周りは多くの男女が遠巻きに包囲して、その中の数名は氷槍や炎槍などの魔法を、投射寸前で待機させていることも見て取れる。
絶体絶命の状態だったが、シオンの心はこれ以上ない位落ち着いていた。闇の中で老いて死ぬだけの生活に比べて、戦いで死ねるのならよほどマシである。
「ふむ、確かに海賊退治をしてくれるなら、猫の手でも借りたいところじゃが、当てにできるのかの?」
人魚族の『長』の言葉に、シオンはせせら笑って答えた。
「ふん、俺はあんた方のために戦うんじゃねぇさ。だが、弱い敵とのつまらねえ戦いは、もうごめんだ。戦士の乗らねぇ商船なんざ、襲う価値もねぇ」
シオンの発言に肩をすくめたクロエは、人魚族の『長』にむかって問うてみた。
「どうです? この男も、もうムルジア領の海賊島には戻れません。手に入れた財宝やなんかは、アルムニュール国で買い上げれば、国庫も潤うでしょう。まあ、表立ってはできないでしょうが、受け渡しをアネル・デュプロの近くで行うのであれば差しさわりがないかと」
しばし考えていた人魚族の『長』は、やがて口を開いた。
「今回の契約では、海賊船の討滅は依頼したけど、海賊個人をどうこうすることは含めてはいないからね。捕まえたあんた方が、好きにするがいいよ」
クロエとオスカーは、人魚族の長に深く一礼をする。無論、シオンはそんな事はしない。オスカーはシオンにむかって、今後のことを話そうとした。
「捕まえた海賊船のうち、被害の少ない船が一隻ある。お前の部下は既に乗船済みだ。あとは好きに……」
「ちょっと待ったぁ! 一つ条件がある!」
オスカーの言葉に口を挟んだのは、緑髪の人魚、ソニアである。また、なにか難癖をつけるつもりかと、ユイは警戒するような目つきでソニアを見ている。
「……なんでしょう? 『長』もおっしゃった通り、人魚族との契約には、海賊個人の処遇は記載されていませんよ?」
クロエが低い声でつぶやくが、そんな事で押されるソニアではない。
「条件はただ一つだ。その海賊一味があたしらの海を縄張りとして活動するのなら……」
「……縄張りとするのなら?」
クロエがうながすと、ソニアは胸をはって宣言した。
「そいつの船に、十分な数のトイレをつけてやってくれ」
ソニアからの切実な願いに、甲板上に集った人々は顔を見合わせた。そして、誰かがプッと吹き出すと、笑いの渦が甲板上に広がっていく。なぜ笑いがおきているのかを知らないのは、シオンただ一人であったのだ。
後日、シオンとその仲間たちは、その笑いの意味が理解でき、他の海賊船へと移ろうとする海賊はほとんどいなくなったのである。特にシオンの護衛を務める、女海賊のセシーリアらからは絶賛されるのであった。
どうせ海賊は襲う相手が誰であろうが、危険である事に変わりはないのだ。ならば、日々を少しでも快適に過ごせるほうが、誰でもよいに決まっているのだから……
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かなり短いですが、区切りが良いので……




