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駄女神に拉致られて異世界転生!!どうしてこうなった……  作者: 猫缶@睦月
4.アレキサンドライトの輝き(続き)
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11.エリーゼの憂鬱

「はぁ……」


 窓の外を物憂げに見ながら、エリーゼは一人溜め息をついた。

 窓の外は春の雨。暖かな陽気と冷たい雨の日が繰り返され、少しづつ気温もあがり、木々の芽も芽吹き始めていた。彼女の膝上では、エルフ領から贈呈された森猫が、丸くなって眠っている。

 窓の外をみて、溜め息をつく深窓の令嬢というのは、いかにも画家の絵心をかきたて、一枚の絵になりそうな情景であったが、エリーゼの内心を知ればそのようなものは霧散したであろう。


 窓際のテーブルには、うず高く積まれた手紙の束。内容は全て同じである。


「エリーゼ様、お手紙がまた届きました……」


「……貴女がまたということは、内容は同じですのね?」


 エリーゼがまた溜め息をつく。仕方が無いなと思いつつも、主人の質問に答えないわけにはいかない。


「えぇ、なんとか『蚤除けの腕輪』を自分達の分だけでも手に入れてくれないかという嘆願ですわね」


 そしてテーブルに積まれる20通以上の封書である。侍女のフローラ嬢ですらうんざりして居るのは顔に出ている。しかし、うんざりしているのはフローラ嬢だけではないのだ。

 彼女達がもつ『蚤除けの腕輪』を奪おうとする者も現われたが、どう云う訳か腕輪は本人にしか外せず、装着者を守る『守りの奇跡』すら発動するのである。そして、最初に装着したもの以外では、一切の効果を発揮しないという機能すらもっているが、やはり他人の妬みが避けられるものではない。

 フローラ嬢、レーナ嬢は言うに及ばず、ヘルガ嬢まで本邸の兄や姉からも如何にか手にできないのかという手紙は多数届いている。幸い『黒死病』を警戒して外出してこないから救われているが、さもなければ門前には人だかりが出来ていたであろう。

 この辺の事情は、この私邸に勤めるハウスメイド・キッチンメイドのみならず、洗濯専門のランドリーメイドや皿洗いのスカラリーメイドに至るまで、全員が共有しているのだが、だからといって『蚤除けの腕輪』を外すつもりは、彼女達はなかったのである。


「やはり、彼の国にきちんと謝罪して、交易を再開して頂けないとならないのでしょうけど……」


 エリーゼは呟くが、侯爵家とはいえ一貴族の令嬢に過ぎず、国政に関する発言は出来ない。王がこの件に関して、どう考えているのかがまるで判らないのである。

 交戦から一月後、漸くオリバーを含めた傷病兵が『アレキサンドリア共和国』から帰国したが、国としての発表は(ただ)2つのみ。『許可無く他国へ侵略したルキウス教東方教会の解体と指導者の捕縛』と『黒死病には自領で各自対応せよ』との王命のみであったのだ。


「恐れながら、王太子と第2王子が揃って参戦しておいて、教団が勝手にやったとは済まないと思いますが……」


 フローラ嬢も形の良い眉をしかめて、小首をかしげている。彼女の白銀の髪が、窓の外の陰鬱な天気を映したが、その髪色は謎の少女クロエを思い出させる。そして、エリーゼはふと思いつくのであった。


*****


「えっ、また指名依頼ですか? 前回のギルドからの指名依頼を受けてから、一ヶ月も経っていませんよ? しかも、僕達は酷い目に遭わされましたしね~、ギルドに」


 僕は呼び出された学生課のギルド担当職員を、ジト目で見ながら呟きます。隣にいるイリスさんも、ユイも同じ気分のようですね。ユーリアちゃんは講義があるので同席していませんが、同じ思いでしょうね。

 僕だけじゃなく、イリスさんやユイの視線も受けて、焦りながらも担当職員さんがいいます。


「いや、あれは、ほら、手違いというか、ギルド間の依頼だからと安心してたんだよ。お陰で、クレナータの冒険者ギルドも含めて、大きな移動もあったんだし、勘弁してよ。君達も輸送依頼で利益を出したんだしね、ね」


 クレナータの冒険者ギルド前で始末した『25m級トロール』は、結局解体がその場でできず(出来ないのを承知してましたが)、アルマンディンの解体場まで運び、更に解体の得意な冒険者さんにまで、緊急依頼を出して解体したんですよね。あえて僕達は解体には手を出さず、輸送も拒否したのですが、エルフ族の族長ヴィクトルに泣きつかれて、仕方なく運搬だけは引き受けたんですよね。勿論、高額の輸送費は頂きましたよ? 素材を売ってギルドが利益を上げたのですから当然ですよね。


 あげた利益で『四季(Four seasons)』で昇格パーティーを盛大に開きましたよ。最近、四季では最美味しいけれど低カロリーな食品を販売しているので、イリスさんも満足してくれました。


 そうそう、そういえば依頼の話でしたね。


「まずは依頼内容を、お聞かせ頂けますわよね? つまらない依頼や無理な依頼はお受けできませんわよ?」


 イリスさんが、明るく輝く、肩までのショートカットを揺らします。ユイさんは話の内容を呟いてますが、どうやらユーリアちゃんのタブレットに情報を流しているようですね。


「えーと、依頼者は『エリーゼ・クラウディウス』となっているね。依頼内容は、『蚤除けの腕輪』の入手で、依頼額は必要経費を抜いて1万マルクとなってるから、換算すると10万レイス、大硬貨1000枚だね。どんな物か判らないけど、手に入れば結構なお金にはなるよ」


 僕は、イリスさんの顔を見つめます。経費を別とはいっても売値は決められていないのですから、この場合大量納入しても報酬は変わりませんね。


「納品数は定められていないんですか?」


 ユイの質問に、職員さんが再度依頼書をみて教えてくれました。


「最低数は10だけど、品質と単価は個別相談を希望ということだよ? 期限はなるべく早急にと言う事だけど、納品先はアレクサンドリアのギルドでも、トラキヤのハンターギルドでも良いし、直接納品してもいいってさ」


 ふ~ん? 僕は頭の中で素材と製作時間を考えます。10個ならそれほどでもないですが、正直エリーゼさん達のものと同品質のものを作る気は無いんですよね。


「そうですわね。現段階では保留としますわ。相手先の意向もわかりませんし」


 イリスさんは小首をかしげながら、職員さんに回答しています。いずれにしても、現在交戦中の国の依頼をも受け付けるものなんですね。僕がそこを職員さんに聞くと、苦笑いして答えてくれます。


「基本的に、ギルドは戦争には関与しないんだよ。そういった依頼はそもそも受け付けないんだ。だから、前回の防衛戦もギルドからの依頼ではなく、議会からの直接依頼という形ととっているんだよ。まあ、お金の授受は代行してあげてるって感じかな」


 なるほど、そうなんですね。いずれにしても、ギルドも完全な組織ではないことは、前回のクレナータの件で判っていますが、問題を抱えながらも進むしかありませんね。


「じゃあ、このままサロンに向いましょう。ユーリアちゃんも、そこで合流するように伝えて有りますよ」


 ユイさん、仕事が速いですね。だんだんイリスさんの秘書役になりつつある気がしますが、気のせいでしょうか?


 いつもの様にサロンの部屋を借り切って、お昼兼打ち合わせを行います。事前にユイがユーリアちゃんに情報を流していたので、話は簡単に済みます。


「ん~、エリーゼさんからの依頼を、どうしようか?」


「知人からの指名依頼なんだから、受けるわよ? 報酬と品質は相談する必要がありますわね。それに、あちらの国でも似たようなものは作れるんでしょうから、高品質なものを欲しいというのは、どうせ貴族でしょうし?」


 まあ、そうでしょうね。他の侯爵や王族、親類に頼まれたりするでしょうね。でも、僕達が単純な利敵行為をするとは思ってないでしょうしね。なぜ、こういう話を振ってきたのかは考えなければいけませんね。


「……つまり、現地に赴いて詳細を確認するということでよろしいですよね?」


 ユイさんがまとめに入りましたね。あの依頼では、暗に内容を聞きに来いっていうことでしょう。ならば、行って差し上げましょう。

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