10.ある日のアリアンロッド
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どれだけ感謝しても足りませんが、本日はささやかなお礼に2話掲載させて頂きたいと思います。お楽しみいただければ嬉しいなぁ。今後ともよろしくお願いいたします。
このお話は、4話「緋の双姫」あたりの、アリアンロッド(略称アリア)サイドのお話となります。急遽追加したので、誤字等のチェックが甘いかもしれませんが、ご指摘いただければ修正いたしたいと思います。
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『ひぎゃぁ~』
真っ黒な空間で、誰かの悲鳴が聞こえた。何があるかも判らない黒い空間の中で、誰かがゴロゴロと転がりまわっているようだ。
『うぅ~、痛いのじゃ。あの馬鹿モノは、一体何をしているのじゃ』
真っ黒な空間から、つま先を押さえながら転がり出てきた影……
言わずと知れた、アリアンロッドである。クロエが『一葉』と呼んだ、15歳の少女の姿で現われると、アイオライト上のクロエと感覚を同調する。つま先の痛みと、溢れる血を見てしまった感覚で吐き気を、もよおしたクロエと。
アリアは迂闊にも、様子を確認もせずに、クロエと同調してしまったのである。
感覚の同調によって、クロエが見るもの触るものが、自分の目で見て、自分の肌で感じるものと同じように感じられる中で、恐怖は本物だった。今のアリアンロッドの身体を得る以前、人であった頃の自分を、強制的に思い出させるその光景は、なかなかにアリアンロッドの薄い胸に突き刺さる。
『なんで、この馬鹿者はこんなやつの相手をしておるのじゃ。まだ、アイオライトに降り立って一週間程度じゃというのに。』
クロエの視界を共有している為、アリアンロッドにはクロエの姿は見えない。見えるのは、正面に立った白いドレスを着た少女?
『なんじゃコイツは、自分の意思が全く見えん。人ならざる者か』
白いドレスの少女は、大剣の切っ先を自分に向けてくる。
『この馬鹿モノ、何のために早く動けるようにしてやったと思ってるんじゃ。こういう時逃げる為であろうが!!』
アリアンロッドの叫びは、当然クロエには届いていない。一気に背後に飛んでクロエは距離をとろうとするが、加速したクロエより僅かに早いのか、距離を詰められる。
『ばっ、馬鹿モノ無理をするでないわ』
この間もずっと左右の脚の痛みは、アリアンロッドの精神をゴリゴリ削っているが、背後の壁をクロエは思い切り蹴って、相手の頭上を跳び越した。よし、そのまま走れというアリアンロッドの願いも虚しく、左右の太ももに感じる強烈な痛みに、アリアンロッドは転げまわる。
『ぎにゃ~、一体なにが起こっておるのじゃ。』
クロエよりも視力のいいアリアンロッドの視界に映るのは、白い少女の背後に立つ黒いドレスの少女だ。白いドレスの少女より僅かに身長は低い。その両手は何かを投げた様な姿勢を保っていたが、白ドレスがゆっくりこちらを向くのに合わせて、背後へと消えてゆく。
『このたわけ、さっさと逃げ出さんかって、両脚が使えないではないか。この馬鹿、どこか外に転移マーカーも設置していないのか』
転移マーカーもなにも、魔法を使えるようにしてやるとは聞いていないクロエが、そんなことを思いつくはずもない。そして、左太ももに刺さったナイフに、手を伸ばすクロエをみて、アリアンロッドの顔が盛大に引きつる。
『この馬鹿、そのナイフが普通のものと違う事に気付いておらんのか。やめろっ、やめるんじゃ』
アリアンロッドの再度の願いも虚しく、左脚から引き抜かれるナイフと同時に襲う激痛に、アリアンロッドはクロエの中で激しく悶える。
『…ゼィ…ゼィ…女神に此処までするとは、愚かなヤツメ。何時か痛めつけてやる……』
久し振りに感じる身体の痛みに、女神らしからぬ事を考えながら愚痴るが、当然クロエに聞こえるはずも無い。そんな中でクロエは引き抜いたナイフに指を添え、相手に向ける。馬鹿でかい大剣を携える白ドレスへと。あんなもので斬られたら痛いなんてものじゃあるまい。
『……まだやる気かコイツは。ここまで根性ある魂じゃなかったろうが~』
アリア半泣きである。斬られる痛みを想像すると、逃げ出したいのに逃げることも既にできない。白ドレスは大剣の切っ先をこちらに向け、突進の体勢。
『くそ、女神である私に向って、こんな事するとは許さんぞ。よし、殺れクロエ。私が許す』
駆け出した白ドレスが左胸に穴を穿たれ倒れこむと、アリアも少しは気が済んだ。
とはいえ、両脚の痛みは更に増すし、今も失われている血液で、このままではクロエの命も危ない。
『全く、女子の魂なのに、何でコイツはこんなことになってるんじゃ。試験が終わって結果も見れずに潰してしまったからと、多少は罪悪感があったから、見目麗しくしてやったというのに、少しも見た目と行動が一致しないではないか』
どうやら、多少は悪いとは思っていたようである。簡易的に止血をして、何とか壁にすがって立ち上がったクロエの視界の中に動く影。
『ほんとにしつこい奴じゃ、いっそ権能を使ってすり潰してやろうか』
そして、アリアンロッドは見てしまった。クロエの貧血でかすみ始めた目には見えなかった、黒ドレスの瞳を……
『ヒッ……』
思わず悲鳴を飲み込むアリアンロッド。アリアンロッドの良すぎる目には見えてしまった。自分の半身を殺した相手に対する明確な殺意を宿した瞳を……
クロエも黒ドレスに反応するが、あちらのほうが遥かに早い。その場で一回転した黒ドレスは、その遠心力を使って二本のナイフを天井に投擲し、照明を破壊した。そして、右足で白ドレスの握っていた大剣を蹴ると、空いた右手に握る。
突然襲った闇にクロエの目は追いつかないが、アリアンロッドの目にはしっかりと映る。更に一回転して勢いを付けた大剣を、精確に投げつけ満足げな表情を浮かべるその顔を……
投げつけた大剣には、オートマタである黒ドレスの動作用の魔力を全てのせて投げ付けられている。自らと相手を共に消滅させる魔法を発動して……
衝撃と凄まじい痛みを感じ、不快な何かを下半身に感じる。壁に縫いつけられたクロエの右手が落ちた瞬間、アリアンロッドは身体に突き刺さった大剣を精確に解析し、危険な魔法を解呪する。
「……ぐぅ、なんとか魔法の発動は抑えられたようじゃが、コヤツはもう動けんな。
全く、コヤツのこの世界の親は何をしておるのじゃ。貴様の願いを掛けたものを失うつもりか!!」
意識の失われたクロエの身体で、アリアンロッドが呟いたその時、閉鎖されたドアが吹き飛んだ。その場にうつぶせに倒れ付した白ドレスと、膝を着いてその手を握り、満足そうな表情を浮かべ機能停止した黒ドレスとともに……
『……どうやら間に合ったか。どれ、私も引き上げよう……』
クロエの身体から意識を離したアリアンロッドは、真っ黒い空間に戻り呟いた。
『う~ん、情報端末にするつもりで、五感を同期できるようにしたのは失敗じゃったわ。視覚と聴覚だけにすればよかったわい。まさか、アヤツの身体の危機には引きずられてしまうとは思わなかった。くそ、思いつきでやるんじゃなかった』
そもそも、座学は一番優秀なはずなのに、思い付きでいろいろ手を出して、失敗することが多かったアリアンロッドである。なんとか取り繕うとしたアリアンロッドではあったが、自分の身体をみて、不機嫌になる。いろいろと出てはまずいものまで出てしまっているので……
『くそっ、あんな怖い目で睨まれたのは、初めてじゃ。身体を持っていたときでさえ、聖女と崇められてたというのに……』
呟いたアリアンロッドは杖を取り出すと、自身の身体に身体洗浄と衣類洗浄の魔法をかける。その後の短い詠唱に続き、あらわれる倒れたクロエの姿。
そして、クロエの頭をアリアンロッドは杖で叩き始める。眼尻に残った涙には気が付かずに……
『…ボケ、アホ、カス。さっさと起きんか』




