4.後始末 2,3日目 ゾムニ
東部属領内に入った僕達は、アルケミシュからササクへ北上します。この間は殆ど地上に降りずに、教会上空からドローンを回収しました。ササクのソフィアさんの事が気にならないと言えば嘘になりますが、お土産を持っていった段階で様子は知れていますし、後の日程が圧してくるのは避けたいところです。
そして、僕らは2日目の宿泊先をゾムニに決めました。あちこちのお店をぐるぐる回り、夕暮れ前にティティスさん一党のお店にたどり着きます。
「あらぁ、お嬢ちゃんじゃない。なになに? 今日はお友達も連れて着てくれたの? いいねぇ、前回宣伝費っとことで多少強引に値引きした甲斐があったわ」
売り子のお姉さん(リカさんでしたね)が、僕達6人をみて満足そうに頷きます。僕はあははと苦笑い。
「いいわね~、ちっちゃい子も良いけど、スリムな子に普通の体型の子、ちょっとぽっちゃりだけどそこがキュートな女の子、みんなみんな将来が楽しみな子ばかりじゃない。
また、創作意欲を掻き立てるような服も着てそうだし」
僕はリカさんの言葉に、我に返ります。うん、お風呂の時は衣類は袋に入れて中に持っていきましょう。
さすがに今回は6人ですからね、泊まっていけとは言わないでしょうと思っていましたが、色々見ているうちにあっという間に閉店時間。いやいや、宿をとりますからというと、ウチならただよという言葉に、イリスさんがのってしまいます。僕は知りませんからね?
というか、この手の攻撃に免疫が無いのは僕とユイだけじゃないですか。あっというまに段取りよく、お風呂が用意されてしまいます。
もちろん、リカさんが見繕った下着に、寝衣が用意されています。今回は1泊だけですからねと、事前に念押ししておいた所為で、上着は洗濯されませんでした。
しかし、下着はいろいろ観察されてます。そんなに違いがあるもんでもないんですけどね。でも、今回は遊びは余りなくしっかりしたアドバイスです。
エルフ族は自然素材のものじゃないとだめよ~などと、ユーリアちゃんにアドバイスしていますね。エルフ族の方がいないのに良くわかりますね。そういったら、其処は一応専門家なんだからねと誇られます。
「そうそう、忘れると怒られそうでした」
僕はそう言って、アレクシアさんに頼まれていたメモと、普段着姿のアレクシアさんの映像をみせます。写真は驚きをもって見られましたが、これならいいイメージわきそうと、リカさんが、目を輝かせいますね。2日ほどかかるから、帰りに回ってくれということなので、前金で半額料金を渡しておきます。
商品と引き換えでいいよと言ってくれましたが、素材の購入やお仕事をして頂くのですからね。きちんと報酬を渡しておかないと、いけませんよね。信頼関係は最初からきちんと構築しておかないといけないと、いつもアレクシアさんも言ってますし。
まあ、アレクシアさんがどういうものを頼んだのかは判りませんが、帰りの楽しみにしておきましょう。
「そういえば、前回のお土産のホールケーキっていったっけ? あれ大人気でさぁ、また手に入らないかい?」
リカさんの言葉に、食事中の紡ぎ師や織り師の皆さんが目を輝かせます。確かに美味しいのは認めますが。
「太りますよ?」
僕がポツリというと、みなさんひきつりますね。イリスさんが一番ひきつってますが、リカさんも非情です。イリスさんの背後にまわって、あちこちにぎにぎ、きゅっきゅとさわりまくった後、「うん、お腹の贅肉がこれだけ余計だ」などと言うから、大騒ぎになるじゃないですか。
そういえば、みなさんの胸元にはルキウス教の印が見当たらなくなってますね。こっそりリカさんに聞いてみると、領主様が教会の実情が暴露されたその日のうちに、抜き撃ちで査察を行ったとか。
そこで、捕えられていた魔法使いが見つかり、その証言で、アンデッドを使った自作自演を行おうとしていた証拠が見つかり、犯罪が明らかになったそうです。
しかも東部方面の大司教が『黒死病』で死亡したとか、熱心な信者で有名だった『キルニア城砦』が町毎消失したとかの情報もあり、一気に信徒を失ったようですね。
流石に、事件後王都の教会がどうなったか等の情報は入って着てないそうです。
『黒死病』の方も、南部の港湾都市からの人の移動は、領主様が管理されていて、なおかつ『黒死病』罹患者は随時隔離されているそうです。
ネズミの心配も、ゾムニは工房とかが多いので、ネズミ避けに猫を飼っている家も多かったので、出入りさえ気をつけておけば感染はある程度抑えられそうだということですね。
教会の話題が出たついでとばかりに、そういえばと見習い織り師のニトラさんが、『最近閉鎖された教会で怪異が起きているという噂があるんですよ』と教えてくれます。
時折、教会の中から狂ったような笑い声や怒声、泣き声などが聞こえてくるとか。ハンターギルドに依頼が出ていて、何組かハンターさんが調べてみても何も見つからないとかで、地域の人も怯えてるらしいですね。
狭いながらも6人部屋をあてがわれた僕達ですが、寝室に引っ込んでからイリスさんが話します。
「どうせなら、ギルドに行って教会の調査を受けない? 成功かどうかは、数日後様子をみるらしいけど、ギルド間での現金移動が有るわけじゃないから、防疫処理で遅くなっても問題ないしね」
「確かに、細かい依頼を受けておいた方が良いかもしれませんね。いつか桜の迷宮に行くにも、ギルド内でのランクが上がっていれば、保護者の説得も理解も得やすそうですから」
イリスさんの意見に、ユイも同感のようですね。ユーリアちゃんも、経験が大事ですよねと呟いています。妖精さんとアレキは我関せずですか、そうですか。
こうして、翌日僕達はハンターギルド経由で、教会にいってドローンの回収をする事になりました。
*****
ギルドで依頼を受けようとして、少し困りました。アレキサンドリアでは、学院経由で依頼を受けるので問題になったことはありませんでしたが、一般的には複数の人数で依頼を受ける場合、パーティー名を記載しなければなりません。
早速パーティー名とリーダーを登録しなければいけませんね。幸い、冒険者登録してあれば、リーダーの年齢制限はありません。僕としては、リーダーは年長のユイにお願いしたい所でしたが、固辞されます。というか、僕以外のみなさんは僕を指差すので、仕方なく受け入れます。学校での委員長選びの様なものでしょうか? めんどくさいと皆やりたがりませんしね。
その後はパーティー名の決定ですが、解散・再結成すれば名前は変えられるけど、そこまでのパーティーとしての功績ポイントはリセットされるとの事ですので、慎重に考える必要があるのですが、時間もありません。
どうせ、当分細かい依頼ばかりでしょうから、ポイントのリセットを覚悟して、安易に『アレキサンドライト』と名付けます。
アレキサンドライトは、金緑石の変種の宝石で、太陽光下では青緑、夜の人工照明下では赤へと色変化をおこす、とても珍しい宝石なんですよ。
地球では、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドといった四大宝石に続いて、アレキサンドライトを含めて五大宝石として扱われたり、宝石の王様と呼ばれることもあったようです。まあ、僕たちは、まだまだ研磨前の原石に過ぎませんが、目標は大きくとっても良いでしょう。
僕達の中で、武装しているのはエマとジェシーだけに見えますので、ギルドでは多少冷やかしやらありましたが、ジェシーのナイフ捌きでとても静かになってくれました。
エマのお尻を触ろうとした破廉恥なハンターさんは、エマがひょいと動かして触れるのを阻止した大剣の腹と、触ろうと差し出した自分の指の間をジェシーの操る鞘付きナイフが凄まじい速さで縫う姿をみて、腰を抜かしていましたからね。
その座り込んだ股間の直前に、ドカッっとイリスさんが『アスクレビオス・エリスedtion26』を突立てましたからね。冷たい笑みと共に……
(この間の降臨した神との戦いで、Edtionが2つあがったようですが……)
教会に着いて周辺を確認していると、確かに誰も寄り付いていないですね。
「そういえばイリスさんは、この手の怪談物は苦手なんじゃ有りませんでしたか?」
ユイが何気なく口にします。たしかに、以前のイリスさんなら、こんな依頼など受けずに、『時間が無いんだからさっさと行くわよ』とか言ってたはずですね。イリスさんは、ユイをみると、ふふんっと自慢げに笑います。
「私の守りは、神の憑代さえ貫けませんのよ。悪霊やアンデットなんてなんてことないですわ」
ユイが僕をちらりと見つめます。
「そうなんですね、それは頼もしいですよ。」
そう言って建物の様子を皆で見ていますが、その時僕のタブレットに反応が……
『YUI:楽しそうな事件には、私も誘って下さいね』
むう、何時の間に打ったんだろう? 今もタブレットを取り出している様子は見られませんが? まさか、音声入力を使いこなしている? 道具の使いこなしでは、ユイさんが一番凄いかもしれませんね。
僕がベースを作った太極六十四卦球も、以外に使いこなしているかもしれませんね。機能盛りすぎて、使いにくくなっちゃったから、エリックさんが調整してるとは思いますが。
教会に近づくと、かすかに声が聞こえますね。確かに笑っているような声が聞こえます。
『ウゥ』とか『ウヒヒ』とか、確かに狂人のようです。
「クロエ、建物の中に生体反応はありません。死霊などの反応もありませんので、自然現象だと判断します」
ん~、隙間風かなにかで、声の様に聞こえるのでしょうか? イリスさんも、死霊ではないと聞いた所為か、表情にも曇りは見られません。
「すこし、待ってくださいね」
ユイには何か判るんでしょうか?
「《展開 64卦》、《六十一卦.風在鬼》 音のもとを探せ」
ユイは『太極六十四卦球・ユイ・Edtion16』を一瞬展開しましたね。というか、展開と同時に符を選んでますね。しかも、音源を探すのなら、風在鬼は最適です。音は空気の振動、風の眷属なら追うのは容易いですね。
暫く様子を見ていると、教会の尖塔の屋根近くを風在鬼がくるくる回っています。
「どうやらあそこに音源があるようですね。ユーリアちゃんお願いできる?」
ユイの言葉に、ユーリアちゃんが肯くと、エマとジェシーの2人をみて一緒に尖塔近くまで歩いていきます。
「じゃあ、エマさん、ジェシーさん行きますね」
軽く走り出したユーリアちゃんが、エマとジェシーが組んだ手の上にひょいっと飛び乗ると、エマ&ジェシーが大きく腕を持ち上げました。あっというまに、ユーリアちゃんは尖塔の屋根の上に飛び移ります。
「なっ、忍者ですか!」
僕が思わず口に出しましたが、イリスさんが不思議そうに言いました。
「なにを驚いてるのよ? 忍者がなんだか判らないけど、規格外の貴女に付き合う覚悟を決めたら、みんな自分のできる事を最大限に使える様にするのが当たり前でしょ? 私達が3ヶ月、ただ遊んでいただけだと思ったの」
「そうですよ。生理的に受け付けないものは別として、みんなで力になる為に頑張るって決めたんですから。エマさんやジェシーさんも、クロエさんの為ならって言って、私達との連携も練習してくれたんですよ。今のも、その一環ですね」
僕は、みんなの優しさに思わず目頭が熱くなっていることに気が付きます。そうなんですね。みんなに迷惑をかける可能性もあったので、前回は独りで決めて独りで行動しましたが、次は皆に相談できるかなぁ。
僕が涙を堪えながら、ユーリアちゃんを見ていると、ひょいひょいっと身軽に建物を降りてきて、エマ&ジェシーの腕に軽く着地します。その手には持っていたのは……
「クロエ、それって……」
「えっ? まさかですよね?」
「……」
ユーリアちゃんの腕の中で、『うぅ』とか『ウヒヒ』とか声をあげているものは……
暴露用の投影ドローンじゃないですか?? まだ教皇につながってる? あれ、でも教皇に貼り付けていた撮影用のドローンは回収しましたっけ? 空間投影用のドローンは回収しましたが……
「てへっ、回収忘れちゃったかな?」
「「「クロエ~!」」」
みなさんの温かい心と、鬼の折檻で胸熱、瘤だらけとなりましたが、依頼は無事クリアできたようです。もちろんギルドには、悪霊を討伐(ゴースト系だと証拠品残りませんしね)済みですので、経過観察をお願いしたのは言うまでもありませんでした。




