第九話「ご飯と温泉」
「起きてー、ごはんだよー」
さつきに揺らされて目を覚ます。ぼやけた視界に二人の美少女が見えた。
「あ、夢じゃなかった」
「当たり前よ。夢だったら私が困るわ」
今日一日、現実とは思えない光景を見てきたから夢と思っても仕方のないことかもしれない。良い夢か悪い夢かははっきりとは分からないが、きっと良い夢だろう。だって一人の少女を救えるとわかったのだから。
「さ、早く食べよー」
促されて机を見れば豪華な和食が並んでいた。白米も刺身もあって、ここが日本ではないかと思ってしまうほどだった。
「よーし、かんぱーい!」
この世界でも未成年はお酒は駄目らしい。柑橘系のジュースが入ったコップを三人はぶつけた。
「この世界にも魚とか米とかあるんだなー」
「それ魔獣よ」
「え!」
「ふふふ、嘘よ」
何やられいなは上機嫌だ。アルコールでも入ってるのではないかと疑ってしまう。まあ、本当に魔獣だったら食べるのは躊躇するだろう。
「あなたも見たでしょう? 死んだ魔獣は少し時間が経てば消えてしまうわ」
そういえば、彼女に潰された頭が黒い砂のように細かくなって消えていったのを思い出した。普通の生き物もいるこの世界、奴等は一体なんなのだろう。
「なーに、ぼーとしてるのかなー? 見てないならー、これ貰っちゃお!」
「あー! それとっといたのに!」
「もう食べちゃった」
「あー……」
かわいらしく舌を出すさつき。食べ物の恨みは恐ろしいとは言うが、きっと大半の男はこの子だったら許してしまうのではないだろうか。ユウキはそれでも許さない硬派な人でも、食に絶対的な拘りを持ってるわけでもなかったから諦めるだけだ。
「そんなに食べたかったなら、これ食べていいわよ」
「え、いいよ。そこまでじゃないし」
「いいから、はい。私はあまり好きじゃないからいいのよ。」
「そっか、ありがとう」
「どういたしまして」
れいなからいただいたデザートの一種は冷たくて甘い、アイスとプリンの中間のようなものでとても美味しかった。
終始和やかな雰囲気でご飯は終わり、三人は温泉に入ることにした。もちろん男女別だが。
「あー、いい湯だねー」
「そうねー」
「今日は本当色々あって楽しかったよー」
「そうねー」
「れいなは運命の人に会えたみたいだし!」
「!? ユウキはそんなんじゃないって言ってるでしょ!」
「そこは『そうねー』じゃないんだね。それに、私はユウキとは言ってないよー」
「……」
二人だけの女風呂、貸切状態だ。声がよく響く。タオルを頭に乗せて顔だけ湯から出しているれいなはさつきを睨む。
「怒らないでよー。それに嘘じゃないでしょ?」
「どうして、そうなるのよ」
「だってユウキは『カナシミ』が分かるんだよね?」
「……気付いてたの?」
「まあねー。私をなめてもらっちゃ困りますよー」
さつきが胸を張る。隠されていないその大きな胸が激しく存在を主張している。何故少し動いただけでそこまでダイナミックに動くのか不思議だ。
「ごめんね。隠すつもりはなかったよ」
「分かってるってー。あーあ、私もいつか『カナシミ』が分かるようになるといいなー」
「……そうね、そうだと良いね」
静かにそう頷いた彼女を見て、首を傾げたさつきだったが、興味は違う方向に向いた。
「まあ、それはおいといてー、久し振りに二人でお風呂だねー?」
「え、ええそうね。でも私はそろそろ出ようかなー」
何か嫌な気配を察して、お風呂から出ようとする彼女の腕をさつきが握る。なにやら邪悪な笑みを浮かべて。
「ちょっと、触らせなさーい! お! これはなかなかー」
「あっ、ん、だめっ」
れいなの背後に回り込み、両手で胸を包む。リズミカルに手を動かすと、いい反応が聞こえてくる。さつきは満足したとばかりに解放した。
「うんうん、やっぱり前より大きくなってるねー。実に素晴らしいよー」
「はぁはぁ。何するのよ!」
「いつものことでしょー」
「はぁ、全く……それに大きさならあなたの方が……」
れいなもきっと平均くらいのものを持っているが、さつきのとは格が違う
「ん? 確かにそうだねー。じゃあ、ユウキに触られる前に私が大きくしてあげよー」
「ちょ、もう止めるんじゃ……」
野獣と化したさつきを止められるはずもなく、この後は凄まじかった……そんなことは露知らず、ユウキは一人風呂場でくしゃみをした。