第七話「覚悟」
「それから私は一人で生きてきた。この脚を使って」
そう言ってれいなは脚を撫でる。
「見せ物みたいなものよ。魔獣を殺せばみんな面白がってお金をくれる。こんなに珍しいものはないでしょうから」
「……辛くなかったか?」
「そうね、辛かったわ。みんなと同じように笑えなくなった。こんな気持ちなんてない方がいいと、いっそ私も死のうと思ったことも何度もある」
少女の目にはまた涙が浮かんでいた。それは、光が反射してきらきらと輝くとても綺麗な雫だった。
「でも、いろんな人を見て分かったことがある。この感情がないと、忘れてしまう。なくしてしまった物を、死んだ人のことも」
確かに、深く悲しいことは忘れないだろう。それはきっと嬉しいことよりも心に残る。悲しみが思い出と人とを繋ぎ止めるのだ。
「私は、忘れてほしくない! 大事な思い出も、重ねた苦労も、全てなかったことにして笑うなんて間違ってる! そうして得た幸せなんて偽物よ!」
苦しみが吐き出される。きっと思っていても届くことはない叫びだったはずだ。ユウキはれいなの手を握る。
「ああ、そうだな。悲しみあっての人間だ。俺が元々いた世界では『人生は嬉しいことと悲しいことで半分半分』なんて言われてた。つまり、悲しみが分からないなんて人生半分損してるようなもんだ。そうだろ?」
ネガティブな意味としか思えなかったことも、この少女を見ていれば違うと分かる。悲しみはきっと大切な感情で、ないと駄目なものなんだろう。
「……素敵な言葉ね。『カナシイ』ことは辛いけど、私はそれを感じられて幸せだとも思える。」
夕陽が涙を乾かしていく。ずっと一人で感じてきたことを、分かち合える人が目の前にいる。それがただただ嬉しかった。
「私は神に会いに行く。それは神の元で幸せに暮らすためじゃない。この世界を作ったのが神ならば、『カナシミ』を消したのもきっと神。私は変えさせる、この狂った世界を!」
「あなたに一緒にいて欲しいの。私はあなたがいれば頑張れる気がする」
れいなは髪が当たるほどの距離まで来て上目遣いをしている。こんな世界を一人で生きてきた、これだけ強い子でも、やはり不安や恐怖に押し潰されそうだったのだろう。震える肩を掴んで笑ってみせた。
「ここまで言われて覚悟決めなきゃ男じゃねえよ。俺には戦うことは出来ないし、足を引っ張りまくると思う。それでも俺は傍にいて、お前を支えてやるさ。悲しみを知ってる俺たちにしか分からない本当の幸せを掴みに行こうぜ」
寄り掛かる彼女が少年の肩を濡らす。震える彼女のそんな姿がユウキには本当の姿に思えた……