表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

第五話「強さの理由」

 

 広場での戦いはあっさりと片付いた。見渡せばさつきが魔法で水を出し、あらゆる場所の血を洗い流している。ユウキは空を見上げ、近くにいるれいなに話しかける。


「なんも、できなかったよ」


「しょうがないわ。あなたは戦うのは初めてのようだし、相手はこの辺ではまず出ない強い魔獣だったのだから」


「そっかー。レベル1でいきなり強敵ってそりゃ辛いか。最初は雑魚モンスターが来て欲しいもんだ。スライムとかスライムとか。まあ、この世界は魔法のレベルが上がらない鬼畜仕様らしいがな」


「ええ、魔法は努力で強くなることが出来ない。魔法の才能がなければ違うことを努力するしかないわ」


 ついさっき、魔法を使わずに獣を仕留めた人が言うのだから説得力が違う。


「そうだな。努力したところで君のようにはなれない気がするけど。それでも頑張るか」


 実際、先程の彼女は人間を超えていた。少なくとも、人間というものは、飛んだり、刀で刺しても死なない熊を蹴り一撃で殺すなど出来ないはずだ。

 そんな化け物に、今まで生きてきて一番の戦いが、クラスでやった腕相撲大会レベルの人がなれるだろうか、いやなれないだろう。ちなみに準優勝。


「で、何でれいなは魔法を使わなかったんだ? 武器も持ってないし。まあ、それだけ強ければ要らないのかもしれないけど」


「私は魔法が使えないのよ。武器は不要だから持ってないだけ」


 地面に転がる熊の頭を持ち上げ片手で潰して見せる。たしかに、武器は要らなそうだ。


「魔法が使えない人なんて、普通はいないわ。生まれたての赤ちゃんでも使える。けれど私は使えない。使えなくなったのよ。その代わりこれがあるけど」


 そう言って、美しく長い脚を見せつける。破かれた浴衣から伸びるそれは、少しだけ白い肌を見せ、あとは黒で覆われている。日本ならニーハイと呼ばれるそれに見えたが、よく見てみると、あることに気づく。


「これ、布じゃねえ! ていうか、中で何か動いてる!」


「そうよ。別に何も履いたりしてないわ。素足よ」


 なんということだろう。ニーハイ生足、いや、生足ニーハイと言うべきか。ここに、新しいジャンルが生まれてしまった。そのうえ黒の中、さらに濃い黒が蠢いているのが分かる。


「なんなんだ、これは?」


「さあ? 私は昔、ある出来事を通じてこうなった。この力は他と比べ物にならない。魔法が使えないないことと、もう1つの欠点を除けば素晴らしいものよ」

 

「それで、あの超パワーってわけか。で、出来事と、もう1つの欠点ってなんだよ?」


「それは……」


 少女は当然聞かれるとわかっていたが、口にするのを一瞬躊躇う。それでも覚悟を決めた。



「あなたは『カナシミ』って分かる?」



 『カナシミ』とは悲しみのことだろうか。それなら答えは当然「分かる」に決まっている。そんな質問をれいなは真剣な表情でする。



「もちろん、分かるよ。なんでそんなこと……っ!」



「……よかった、よかった。やっと会えた!」



 大人っぽくて、人前で泣くことなどないであろう少女はユウキに抱きつき、号泣していた……









「ごめんなさい、本当に嬉しかったから。もう、大丈夫」

 


 泣き止んだれいなは、少年から離れるとそう言った。 


「いいよ、別に。どうしたんだ?」


「あなたにとっては普通だったのでしょうけど、あなたは私にとっては初めての『カナシミ』を知っている人」


「え? 何を言ってるんだ?」


「あなたも見たでしょう? この広場の人はみんな笑っている。人が死んでいる中でも、自分が殺されそうなときも」




「この世界には『カナシミ』なんてものは存在しないのよ」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ